表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三縁望の奪還 ~同時多発転生に巻き込まれ(に行き)ました~  作者: ひねもす
Chapter.2 蓮水綾斗の憧憬
13/106

12.一旦の鎮静

 次の日。体育館に集められた六天高校の生徒たちは、舞台に立つ一人の男を見つめていた。

 いつもは半分集まればいい方だったのに、今日はほぼ全員が集まっている。


「最近の君たちには正直目に余るところがある!」


 舞台の上で声を張り上げるのは、この学校の実質的トップである理事長・蓮水総一郎である。

 昨日八千代に言われた通り、理事長は始業早々生徒を集め――説教タイムを始めたのであった。


「六天高校という一つの組織に所属している以上……」


 八千代にアドバイスされた通り、今お前たちは一つの組織に所属しているのだということを強調しながら説教をしている。

 オレは理事長の説教を話半分に聞き流し、周りの様子を窺う。

 全生徒に近い人数が集まっているだけでも驚きだが、おかしくなったヤツらは勿論、おかしくなっていない生徒まで皆理事長の説教をしっかりと聞いている。


 おかしくなっていない生徒はなぜ自分に関係のない説教をちゃんと聞いているのか?

 オレの憶測だが、今の現状に異を唱えてくれる人が現れてくれたからだと思う。


 教師の一人が病院送りになってから、教師たちは暴力への恐怖と「言っても無駄」という諦めから生徒を叱るどころか注意すらしなくなった。それは問題を見て見ぬ振りし、放置するということ。前世の記憶のない生徒たちがそれに失望するのは当然だった。


 つまり久々に説教というものを聞いているのだ。見て見ぬ振りをしないで、向き合ってくれているのを見ているのだ。



 声のトーンを落とさずたっぷり三十分ほど説教をすると、最後に理事長は深々と頭を下げた。



「この事態を分かっていながらも、すぐに対応出来なかったこと……ちゃんと学業に励んでいた者たちには謝罪を申し上げたい。私たちには呆れ果てていて当たり前だと思う。だがこの学校で再び安心して過ごせるよう私は全力で尽力しよう。どうか、もう一度だけ信じて欲しい」


 その言葉を区切りに、拍手に包まれながら理事長は舞台を降りていく。


 オレはふと三年生が並んでいる場所を見た。

 矢吹先輩はとても目立つ容姿をしているからすぐに見つかる。良かった、昨日の今日で心配していたが学校にはちゃんと来ているみたいだ。

 そのまま蓮水先輩のクラスの方に視線を向けるが、蓮水先輩はいくら探しても見つけることが出来なかった。今日も休みなのか、とオレは少し落胆する。



 ――オレは、蓮水先輩ともう一度話をしてみようと思っていた。



 かなり危険ではある。一昨日の出来事はオレのトラウマになっているし、今度こそ殺されるかもしれない。

 正直やられた直後はもう二度と関わりたくないと思っていたが、その考えが変わったのは律との電話の時だ。味方を作るようアドバイスを受けた後、律は続けてオレにこう提案した。





『あんたのとこの生徒会長さんに妹ちゃん守ってもらえば?』

「はぁ!?」


 確かに味方を作るべきだとは思う。だがそこで蓮水先輩が出てくるんだ。

 オレがさっき話したことを忘れたのかコイツは。


『正直さー生徒会長さんすっごい気になるんだよね、おれ。妹ちゃんを姉上ーって呼びながら付き纏ってるんでしょ? 本音を言うとすごい見てみたい』

「面白がるなよ……想像よりもずっとキツいんだぞ……」


 イッた目で狂ったように笑う蓮水先輩を思い出し、オレはげんなりする。

 そんなオレに「ご愁傷様」と返しながらも律は本気で今の提案をしたようだった。


『生徒会長さん喧嘩強いんでしょ? 姉上は自分が守るって言ってるんならそうさせとけばいいと思うんだけどなー……今の状況なら猶更ね。まさか、妹ちゃんを守るのは自分だけでいいなんて思い上がった愚かな事は考えてないよね?』

「思ってねーよ、今の自分が力で役立たずなのは十分理解してる」


 蓮水先輩みたいなのが今後いっぱい出てくるのなら、正直オレは力では何も出来ないだろう。相手を無暗に挑発しないようにしねーと……出来る自信がない。もし八千代が目の前で何かされたら、目を真っ赤にして相手に飛びかかる自分が容易に想像できる。


 矢吹先輩もいるし、八千代自身もある程度はどうにか出来るみたいだが、それでもどうにもならないこともあるだろう。

 確かに蓮水先輩はオレを殺そうとしたヤツだが、八千代にとっては敵ではない……と思う。矢吹先輩曰く、何度か八千代を守ってくれたことがあるようだし。だが、実際に守ってもらうとしても不安の方が大きい。


「問題は先輩が八千代に姉上になるよう強要してくるところなんだよな……先輩自身も分かんねー事があるし」

『分かんねー事?』

「先輩をよく知ってる人からすると、今の先輩の姿はありえねーらしいんだよな。人が望んでない事を強制してくることが信じられない……みてーな」


 転生の事を隠して説明しようとすると、どうしても蓮水先輩と前世(ルカ)がごっちゃになってしまってなかなか難しい。多分オレの説明を聞いてる律も全く意味が分かっていないだろう。


『生徒会長さんの分かんねー事、あんたが一番分かってないんじゃないの?』

「そ、それは……」


 図星を突かれ、言葉に詰まる。そんなオレに律ははあ、と呆れたようなため息を吐いた。


『分かんないなら直接本人に聞いてみればいいじゃん』

「オレに死ねって言ってんのか」


 何てことを言いやがるんだコイツは。

 軽いノリでさらりととんでもない提案をしてくる親友に、オレは間髪入れずに言い返していた。

 オレの反応に律は電話の向こうで爆笑している。クソ、他人事みたいに言いやがって……!


『あんた悪運は強そうだし大丈夫でしょ、死の一つや二つくらい覚悟して行っちゃえ行っちゃえ』

「ああそうだよな聞けば解決するよな! いっちょ死んで来りゃあいいんだよな!」


 茶化すように発破をかけてくる律にオレは半ばヤケクソになっていた。





 ――律に乗せられる形であんな事を言ってしまったが、正直どうやって聞こうか何も考えていない。

 昨日は心の準備が全く出来ていなかったから休みだと聞いてホッとしたが、そろそろ接触を試み始めなければ。理事長の協力を得て校内だけは何とかなりそうな状況にはなったが、それで蓮水先輩が大人しくなるとは思えない。


 昔からの馴染みらしい矢吹先輩に聞いてもらおうかとも思ったが、昨日の事が気になって話しかけにくい。それに仮に矢吹先輩に頼んで聞いてもらったところで、オレが理解出来なければあまり意味はないだろう。

 八千代は……一昨日の事を思い出す限り、一緒に連れて行っても蓮水先輩の方が気を取られてまともに会話が出来なさそうだ。

 やっぱりオレ一人で行くしかないか。





 理事長の説教の効果は、すぐに現れた。


 全校集会の後、始められた授業にほぼ全員が揃っていた。入って来た数学教師のぎょっとした表情をオレは忘れない。

 スマホを堂々といじったり、居眠りしていたり、教科書も何も出さずただボーっとしていたり……真面目に受けているかと言えばそうではないが、少なくとも授業を邪魔したりなどはしていない。

 学校がおかしくなってから、初めて普通の授業が受けられた気がした。


 良い事はそれだけではなかった。

 授業が終わってから八千代の様子を見にB組の教室へ行った時。八千代の周りには数人のクラスメートが集まっていた。

 一瞬、また眼を付けられているのかと思ったが八千代の表情を見るとそうではないらしい。取り巻きの一人である女子が教室の入り口に立っていたオレに気づいた瞬間、表情を明るくさせ「あっお兄さんだ!」と声を上げた。

 昨日の重苦しい空気だった教室とあまりにも違い過ぎる。

 教室の中に入るよう促され、困惑を隠せないまま八千代たちの元へと向かう。


「お兄さんもごめんなさい!」

 

 いきなり頭を下げられ、さらに困惑する。オレ何かこの女子にしたっけ……? 見たところ前世に引っ張られていない生徒のようだし、さらに分からない。


「な、何で?」

「三縁さんが目を付けられているのは知ってたのに見て見ぬ振りしてました」


 頭を下げた女子の隣にいた男子が、そう言って申し訳なさそうな表情をする。


「三縁さんに関わったら何かされるんじゃないかって怖くて……」

「だから、最初に関わらない方がいいって言ったのは私だって」


 続けて出た男子の言葉に、八千代が慌てたように止めに入る。

 ……何となく理解出来た。この男子たちは目を付けられている八千代に対し、何もしなかったことを謝っているのか。

 だがなぜだ? 昨日まではそんな気配少しもなかったが……


「昨日の昼休みにお兄さんたちが囲まれてる所を見たんです! あんなに多勢に無勢なのに、お兄さんは果敢に向かっててすごくカッコよかったです! お兄さんが攻撃されそうになるのを引き離す三縁さんもカッコよかった!」


 また別の女子がそう言って目を輝かせながらオレと八千代を見つめている。昨日のアレ、見物人がいるなとは思ってたがコイツらにも見られてたのか。続けて「何て言ってるのかまでは分かんなかったけど……」と言っている様子を見る限り、会話までは聞かれていないようだ。


「あれを見ていたら、ビクビク逃げてたのが何だか馬鹿らしくなって。だから謝りに来ました、ごめんなさい」

「いやいや逃げて当然だからあんなの」


 お前ら、昨日のクレーターは見ていなかったのか。あんなの八千代じゃなかったらオレは絶対関わらないようにするぞ。


「別に気にしてねーよ。仲良くしてくれるのは嬉しいが、何かされそうになったら無理はするな」


 オレがそう言うと、B組の生徒たちは「分かりました!」と元気よく答えた。

 理事長のおかげで校内ではとりあえず治まったとはいえ、ルミベルナへの恨みが消えたわけではない。実際和気藹々と話しているオレたちに向けられている冷たい視線は健在だ。八千代と仲良くしてしまったせいで校外で被害を受けるなんてたまったもんじゃない。


「でも何で急に岩が生えてきたんだろーな」

「急に光ったり、金縛りになったと思ったら一斉に気絶したり何だったんだろうね……ま、いいか」


 オレを他所にそんな事を話しているが……そこ一番気にしなきゃいけない事だと思うんだが? 八千代がフラッシュたいたのはバレてないみたいだから、変に口を出すつもりはないが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ