死にたい僕と生きたい彼女
謝罪と言い訳
この度、何ヶ月の時とともに、この作品を投稿させていただくことになりました。付きまして、ここまで待たせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
何故このような自体になったのか、それは、単純にマンネリ化が激s…(((ボコッ!
と言うわけで、3ヶ月の成果、ごゆっくり楽しんでください。
どうしようもない悪口に、どうしようもない暴力に。
ひとつひとつに嫌気がさす。
「どうせ僕は救われない…」
いつからか、そんな言葉がずっと出るようになった。そんなときに、僕は君と会ったんだ。
どうしようもない悪口を、最低だと罵ってくれた。
どうしようもない暴力を、私が代わりにと庇ってくれた。君は、あの時教えてくれたこと、覚えてるかな。
1章 君の秘密を知った日
「おはよ~」「おっす~」
校舎の中で挨拶の声が飛び交う。その中には昨日のテレビの話や好きなアニメや人気のアニメの話など、様々な話題が無造作に舞う。そんな校舎を歩く。
僕が通る道は頼んでもないのに作られていく。もっと正確に言えば、「避けられている」と思えばいい。
「やっぱあいつ暗すぎ~w」
「友達いないんだよ~、だから一人なんでしょ~w」
と囁きが聞こえる。僕が聞こえないフリをしているから聞こえてないと思っているんだろう。慣れたと言えば慣れたのだが毎日こんなことをされると流石に嫌気はさす。
「でさ~」「マジで!やばすぎ~」
なんて、僕のいないところでは普通の高校生なんか演じちゃってる。やっぱ僕…と思っても、対して裕福でもなく、お金に余裕が無いのにも関わらずこんな私立高校に入れてくれた親に申し訳なくて、この学校に来ている。
ガラガラ。
「お、おは…よ」
とぎこちない挨拶をする。未だに馴染めると信じてる僕はきっと、正真正銘のバカなんだろう。
「……」
教室に無言の空気が流れる。まもなくしてクラスのリーダー格の男が来る。
「なあ、崎守く~ん」
「な、何?」
「邪魔」
「え?」
あまりに唐突に言われ、思わず声が漏れてしまった
「だから、この教室にいたら邪魔なんだよ。欠席扱いしてやるから、もう帰れ」
こういう時は…。
「ご…ごめん。でも今日はちょっと…」
「あ?なんだよ、文句あんのかよ」
「い、いや文句じゃないけどさ。もう先生来るし…」
こんなふうに理由さえこじつければ、きっと___
「じゃあ具合悪いフリしろよ。それで早退しろ」
「い、嫌だよ!」
反射的に反論してしまった
(は!まずい…)
「そうかそうか、だったら、放課後いつものところな」
「え、ちょっと!」
と言う前にそいつら、もとい慎吾達は自分の席に戻っていった。
はぁ…ついてないな…。どれだけ経験しても、慣れないことがある。その一つは「痛み」だ。
多少耐性が出来たとは言え、心の傷は治らない。何度も抉られた穴は孤独を歌い泣いている。
「なんでこうなったんだろ…」
誰もいない屋上でそう呟く。誰かに言う陰口より、こういうぼやきの方がよっぽど楽しい。陰口なんて、自分の評価を下げるだけだ。マイナスにしかならない。だから自分一人しかいないところに来たはずだった。だが、
「あれ?今日は先客がいたか~」
と、声が聞こえた。
聞いた感じはとても可愛らしい声で、声の通り、小さく可愛らしい女の子がいた。
「…君誰?」
「私?君、人の名前を聞くときは自分から名乗るのが筋ってもんじゃないの?」
「…崎守」
「崎守?崎守何なの?」
「僕は崎守玲。君は?」
そう聞くと彼女は仕方ないと言う顔で、
「私は秋奈。無月秋奈。私は1年なんだけど、玲くんは?」
「3年。だからあんまり会うことは無いと思うよ」
とわざと素っ気なくする。この子を僕のせいでいじめにあわせるなんてさせたくなかった。ところが…。
「じゃあ、先輩だ!えへへ、これからよろしくね!」
「だから、会うことは無いって言ってるだろ。僕のことは忘れてどっか行きなよ」
なんとしても関わりを断ちたい。顔立ちは整っているからそんなにいじめられるようなことにはならないだろう。しかし、かれこれ2年いじめにあっている僕と仲良くしているなんて噂が立てば、少なくとも評判は激落ちだ。こんな可愛らしい子にそんなことはさせたくない。
「え~いやです!」
としつこく言ってくる秋奈に苛立ちが押さえられなくなった。
「早くどっか行けよ!そして俺に構うな!」
「え…?」
「なんでそんなに一緒にいたがるんだよ!」
そう怒鳴ると、秋奈は脅えた様子も見せず、すべてを包み込むような笑顔でこう言ってきた。
「だって、あなた死にたそうにしてるから」
心臓がドキッとした。何を見てそんなことを読んだのか。
「な、なんで…」
「私、実は肺の機能が弱くて。このままだとあと1年しか保たないんだ」
「で、でもだからって…」
「私さ、まだ、生きてたいんだ。だからいろんな生きる手を探してる。でも…」
と言いながらこっちを向く。そして
「あなたは逆に、いろんな死ぬ理由を探してる」
と言った。
そんなことを考えたこと無い。でも、確かに最近は、刃物が怖くなくなった。嫌いだった血しぶきも、人が殺されたニュースや殺されるテレビ番組も、何もかもがどうでもよくなっていた。
きっと、その時の僕が死ぬ理由を探してたんだな…。
だから僕は
「…うん、そうだね」
と一言返した。
すると秋奈は微笑み、
「だったらさ、ゲームしようよ」
と言った。
「ゲーム?」
「そう。今お互いが真逆の事を考えていて、それをやめたいと思ってる。だったら、私はあなたに生きる理由を教えてあげる。だから、あなたは私に」
と言って僕の目の前まで来て、痛々しい笑顔で、
「死ぬ理由を教えて」
と、胸が裂けるような言葉でそういった。
彼女を救う方法は、この時はこれしか残ってなかったんだな。
ちなみにこの後の放課後、僕は秋奈のいないところで慎吾達にボコボコにされた。でも不思議と、秋奈の痛みと比べると、痛みは全く感じなかった。
それから、僕らは放課後や休みの時に会う関係になった。学校は流石にマズいので、休みの時とかの時間に遠出することが多くなった。
彼女は持病を持っているとは言え、外出などに影響はあまりないため、医者からも外出許可は出ているらしい。でも、
「いいですか?今秋奈さんは大変危険な状態です。今は平然としているとはいえ、息が切れるようなことは決してさせないように。ましてや走り回ったりすることがあったら、彼女は助からないかも知れません。それだけくれぐれもご注意を」
と念入りに釘を刺された。
肺の機能は赤ちゃん程度しか無いらしく、今こうして歩けてるだけでも不思議なほどらしい。それでもそんな顔を一切せずに楽しそうな顔を浮かべる秋奈。
「せんぱ~い、次はあそこのショッピングモールいきましょー!」
「別にいいけど、あんま走り回ったりしないでよ。倒れるから」
「は、は~い…」
とあからさまに顔を沈める。僕が現実に引き戻してしまったと後悔してしまった。そんな顔に、何かしてやりたくて、
「…そんなに走りたいなら、僕の背中に乗れば?」
と言ってしまった。
「え?」と声を上げたのにハッとし、慌てて弁明する。
「い、いやこれは!、その…ぼ、僕の背中に乗せて走ることで走ったときの疑似体験を…」
「…プ」
と声を震わせながら弁明してるのをみて、秋奈が笑い出す。
「アハハハ!」
「お、おい、なんで笑うのさ…」
「いや~、先輩のその困った顔、最っ高に可愛かったので、つい声が…」
と言ったので、流石に僕も
「…可愛いって…からかってるの?」
と嗜める。
どうやら秋奈は平気でそういうことが言えるらしい。これまで秋奈がどれだけの男を勘違いさせたんだろう。と思うと少し共感してしまう。
「ま、先輩がそう思うなら、そう思っててください」
と一言。一体本気なのかどうなのか。それは僕にはまったく分からない。
と、気付けばこんな日々は当たり前になっていた。僕たちは徐々に学校でも話すようになり、図書室で話すぐらいは出来るようになった。
そう思っていたんだ。
★
最初の異変は秋奈だった。あからさまに元気が無くなっていた。それに、弁当をちょくちょく忘れ、さらには靴がどろどろに汚れてることもあった。走り回ったりは禁止されている秋奈がこんなどろどろの靴を履くことは、田んぼに足を滑らす位のことが無いと起こらない。この近くに田んぼは無いし、通学路にもなかったはずだ。しかし、僕がいくらどうしたのかきいても秋奈は力なく
「なんでもない」
と答えるだけだった。おかしいと思い、すぐさま秋奈より早く登校し、彼女の下駄箱を見た。すると、
そこにはあるはずの上靴がなく、代わりに
「今日も間違えて靴なくしちゃったぁ、てへぺろぉ~、今日も一日奴隷生活頑張ってね~。朝来てこれを読んだらカプチーノ全速力で買ってきてね~きゃぴ!」
と言った、明らかにふざけた手紙があった。
なんだ?このそこから湧き上がる感情は…腹が煮えて…痛い。でも、病気になりながらこんなことを…。そう思いふと手紙を見る。
「…え?ちょっと待って…」
この文脈には、一つだけあってはならない文字が単語があった。
「全速力でって…あいつまさか…!」
その思いが的中してないことを祈りながら俺は来た道を戻る。これを知ってて、秋奈がもしいま走っているのなら…!
秋奈を見つけたのはすぐだった。なんとか薬を飲み、横たわってカプチーノを手に持つ秋奈を見つけたのだ。
「秋奈!?」
「うう…先…輩?」
「何してんだ?お前、走ったりしてないよな?するわけないよな!?」
と頬を熱い物が横切る。
「あれ?えへへ、あの手紙、読んじゃいましたか…」
「なんで…だから言っただろ?、僕と関わるなって…」
「まさか、ちょっと小走りするだけでこんなことになるなんて…知らなくて…」
と、力なく微笑む秋奈が胸を締め付ける。
「秋奈が思ってるよりもっと、秋奈の肺は弱ってるんだよ。今日は休みでいいから…」
と言いながら携帯を取り出す僕の手を、秋奈は容赦なくはたく。
そんなことされると思わなかったので、携帯は遠くに飛んでしまった。
「んな!」
「それは…だめ…」
「なんでだよ!病院いけって…!」
「でも、そんなことしたら…」
「…またあの子達に何かされてしまう。そう言いたいんだろ」
どうやら的中のようだ。ギクッとした顔をしながら言い訳を考えた後、力なく
「…そうです」
と言った。
どうやら主犯は察しの通り慎吾だったらしい。自分の言うことを聞いてくれる女子を率いて、僕に関わる人にいじめをするなんてなんとも陰湿なことをしていた。
「…そっか」
「でも、先輩と離ればなれになるよりは…」
「俺が死ぬ理由。一個教えてやるよ」
「…え?」
僕は本音を話すときに、一人称が「俺」になるという特徴があった。
「…俺が死ぬ理由はまさにそれだ。」
「それ?と言うと…」
「いじめだ。2年いじめにあって、あいつらはかなり手慣れている。並大抵のいじめなんかじゃ無いから、俺はどんどん傷つくんだと思う。知ってる?この前なんて万引きさせられた挙げ句、俺のバックに片栗粉を入れた小さな袋なんて入れちゃって」
と、少しコミカルに言ってみる。しかし、それはとてもコミカルに済ませられる者では無くて、秋奈も
「え…」
と目を見張っている。
「でもな、俺は家が裕福じゃないから、いままでかかった金を考えるとやめることが出来なくてな」
と、自分語りをする。もう犠牲者は出したくない。だから、俺から離れたくなる事をわざといった。
「ま、用は今お前はそんなことするようなやつに目をつけられてるんだよ。だから、もう俺に関わるのはやめにしな」
と、突き飛ばすような言い方をする。
きっとこれでいいんだ。僕なんかよりいい人と、これからは…。
そう思いながら背を向ける。自力で立てるまでは回復した秋奈が立ち上がり
「私!まだ生きる意味を教えてない!」
と言ってきた。
「…は?」
「ほら、ゲームでもさ、よくないじゃん。私は今一つ教えてもらった。だったら、私だって一つ教えないとアンフェアってやつじゃない?」
どうやら僕ばっかりに話させて、自分の言いたいことを伝えきれないのが嫌らしい。だけど、
「悪いけど、僕は生きる理由なんていらない。そんなもの、ゴミにしかならないんだ。だから大事にとっときな」
もちろん、嘘だ。本当はもっと生きたいし、友達も彼女も就職もしたい。そうやって「市民A」のようにモブでいいから生きていたい。でも、今はもう、死ぬしかない役を押しつけられた「いじめられっこA」なんだ。
そんな僕が生きる意味を見つけたってドブに捨てるしか無いゴミなんだ。
「で、でも…私!」
「もう歩けるんだろ?だったら、病院に行ってこい。後は僕がなんとかするから」
それでも。少なくとも僕は大切な物を傷付けられたんだ。これ以上は、傷ついてほしくない。
そして、僕は関係を無くすがてらに、少しだけ復讐をした。
「お、おはよ…」
「おい!崎守!てめぇ、一体どういう…」
「ねえもうやめてよ、ダサいだけだよ?いい加減認めな?」
「で、でもよ…」
「ど、どうしたの?」
「お前と秋奈が仲良くしてたのに、あれは演技だったのか!?」
「だから、見てなかったの?秋奈が仲良くしてたのは2年の里島でしょ?」
そう、復讐とはこうだ。まず、誰もの来ないところで2年の後輩を呼ぶ。その後輩と秋奈が仲よくしてる写真をなるべく誰か分からないように撮る。
その撮った写真と、慎吾の勘違いで一年生の女子がいじめられてると言う内容の手紙を新聞部の部室にこっそり置いとく。
後は新聞部の面々が記事を書くだけで、偽装された事実で慎吾の立場を無くすと言う物だった。
と言っても、あんなに仲がよかったみんなだ。これぐらいのことは「そんなわけない」と言って流すと思っていた。
しかし…
「慎吾君、こんなことしてたんだ~」
「う…ち、ちが!」
「前々から、慎吾はこういうことをするやつだとは思ってたが…」
「あ!もしかして、崎守がこのクラスの輪を乱そうとして、いろんなことをしてるってのも…」
と、衝撃の事実を告げられた。
そして、慎吾は青ざめた顔で、命乞いをするように弁明をする。
「え?ちょっと待って、それ、どういう…」
「あ~、やっぱり嘘だったんだ~」
「い、いや…そもそも!、輪を乱そうとしてるやつがはいしてますなんて言わねえだろ!信用できねえって!」
「みんな、ちょっと落ち着いて…」
そう言って嗜めるもみんなの口論は止まらない。
「もう、崎守君が可哀想…あ!そうだ!」
と、女子が何かを思いついたかのようにさわぐ。
「これから1年は慎吾君には玲くんの痛みを知ってもらいま~す」
と、高らかにいじめる宣言をし始めた。
「ええ!?ち、ちょっと!」
「何?何か文句でも…?玲くん」
当然だ。まさか、ここまでやるとは思っていなかったのだから。
「そうだぞ!玲。君に散々ひどいことをしてきた慎吾君を許す理由は無いんだぞ!」
「い、いやだから…」
「じゃあ、慎吾君お疲れ様~」
「い、いや…れ、玲!た、助けてくれよ…悪かったから…」
と、この期に及んで謝り倒してくる。
はあ…とため息をつくと同時に僕は手を差し伸べる。
「え…?」
「なんだよ、君が助けてくれって言ったんじゃないか」
なんでそんなことをと言わんばかりの顔で見つめてくる。
「確かに、僕は一生かかっても君のことは許せない。でも、だからと言って束になって復讐する気は無い。するとしても、今回みたいな軽い復讐だけだ」
「で、でもなんで…お、おお俺は!2年も玲にいじめをしてきたんだぞ?」
と、許してほしいなんて嘘だったと言わんばかりに言ってくる。
「そ、そうだよ、玲くん。こんなやつ許さなくても…」
「俺は慎吾より、君たちの方が許せないな」
と、できる限り冷ややかな目を向ける。
「え…」
「慎吾君はやり方はどうであれ、僕のことを嫌いだと真っ正面から言ってくれた。でも君らはどうだ?」
「そ、それは…」
「有利不利だけでコロコロと態度を変える。そんな人が、僕は大っ嫌いなんだよ」
と言い、戸惑うクラスを後に僕は慎吾君を連れ屋上に行った。
「お、おい。なんでだよ…」
「なんでだろうね。でもまずは、彼女に謝った方がいいんじゃない?」
そう言いながら屋上の扉を開ける。
「!」
「やっほー、先輩。その説はどうも」
と、ラフに話しかける秋奈。それを見て、慎吾は膝を震わせた。
「ねえ、先輩。なんで私をいじめたの?」
「そ、それ…は…」
「別にいじめに怒ったりしてるんじゃないの。ただ…」
といい、慎吾により微笑みかけてこういった。
「何が怖くて、私と先輩をいじめてるの?」
「えっ…」
と、あの時見たいに、核心を突く用にそういった。
「先輩さ、何かに脅えてる用に見えるからさ。何にそんな怖いのかなって思って」
やっぱり、こいつはすげぇ。何がどうしたらこんなエスパーみたいなことが出来るのかは分からない。でも、こいつはきっと、生きる上で必ず出てくる感情を全て見抜けるようになってる。
それは、きっと「死」がもたらした死に際の贈り物なんだろう。
「な、怖いって…そんなものあるわけ…」
「先輩。隠さずに言ってください。」
「!?」
そこまで言われて、慎吾は逃げられないと思ったのか、全てを話し出した。
「…4年前、俺初めていじめにあってよ…俺より上にいる人間が身近にいるのが怖くなっちまったんだ…それで、高校に入って、身だしなみを整えて、トーク力もスペックも極限まで磨いた。そしたら、嘘みたいにあいつら、俺のことを慕ってくれて…」
と言いながら徐々に体を震わす慎吾。
「あいつら、遊べるような同級生いないかとかいって…止めたら、俺またいじめられちゃうって…だから…お前を売って…」
「弱い人って、どんな人が知ってる?」
「…え?」
と、慎吾の話を遮りそう言い出す。
「弱い人はね、自分のことを優位な立場に置こうとするの。そうすれば、自分の弱さを隠せるからね。あなたも確かに弱い人。でもね、あなたは凄い人でもあるんだよ」
「?、一体何を…」
と混乱する慎吾。それをものともせずに秋奈は続ける。
「自分を弱く見せたくない人は、人の影に自分を隠そうとするの。でもあなたは、自分から影にになってあげて、自分より弱い人を助けていた。それってさ…」
そこまで言って、慎吾の肩に手を置く。そして、
「それって、凄い人じゃ無い?」
ああ、そっか。なんで秋奈が僕にいじめのことを言わなかったかが分かった。
秋奈は、苦労して積み重ねてきた慎吾の努力を、犠牲を無駄にしたくなかったんだ。だからバレないよう僕に内緒にしてたんだ。
自分のつらさや弱さより、他人の弱さやつらさに寄り添う。それは、とてもじゃないけど出来ることでは無かった。
「そして、先輩?」
「ん?僕のこと?」
「そうです。慎吾先輩のこと、許してあげてますよね?」
「ん?ま、まあ…一応…な」
と頬を掻く。
「え!?、ほ、本当か?玲」
「確かに、この件で僕は2年も苦しんできて、とてもじゃないけど許す気にはならない」
「え?」
「でもまあ」
僕は慎吾に手を伸ばす。
「友達。なってくれるなら許してあげる」
慎吾はその言葉に一瞬固まり、その後にワンワンと泣き出してしまった。そして泣きながら
「…グスッ、ありがとう…ありがとう!玲!!俺…俺、許してもらえるよう頑張るから!だから…グスッ、これからは、仲よくしてくれよ!」
と、僕らは熱く握手を交わした。
でも、僕のクラスからいじめが無くなる事はなかった。
慎吾がスクールカーストの最底辺に落ち、慎吾の次に権力を持ってたやつが俺らのことをいじめてきた。
だが、それは目を見張る早さで無くなっていった。
「ですから!お宅の玲君と慎吾君がうちのクラスの女生徒に手を出したと聞いてるんです!」
「じゃから、何もしてないってこっちはいっとるじゃろうに」
「んあああ!、どうして分からないんですか!!」
と、癇癪を起こすのは三年E組の担任の田嶋だ。こいつは生徒の悪さや噂などを全て真に受けたように対処し、あわよくば出世なんてゲスい先生だ。ちなみに僕はこんな先生とは関わりが一切無い。
「どうしてもこうしても、うちの玲は、自分をいじめたやつらに復讐なんてするわけがないんですよ」
「はあ?親バカも大概にしろ!このふざけた老害ジジイが!」
と、とんでもない罵詈雑言を受け止めるのは俺のじいちゃんの崎守真哉である。とてもやさしく、それでいて厳しい人ではあったが、人である以上持ってなければならないことはこの人に全部教えてもらった。
「ところでお主はそのいじめに対して適切な指導をしたのか?」
「えっ?そ、そんなことよりもですね…」
「自分の受け持つ生徒がいじめられてるなら、寄り添って助けてやるのが先生ってもんじゃないのか?」
と、先生にそう言う。どうやら先生は何も言い返せないらしい。
「そ、それでも…」
「確かに、手を出してたならそれはこちらで厳しく指導しておきます。ですが…」
と、俺とその付き添いで来てた慎吾を見る。
「うちの玲は、他人の辛さに寄り添い、他人の悲しみを共にしてやる。そういう教育を徹底してきたわしを疑うのかね?」
「うっ…ううう…」
「それに、お主はちとバカじゃのう。しっかり勉強したんか?」
「なっ…!」
と、ドストレートに言うじいちゃんを見て少しヒヤヒヤしながら見ていた。
「とにかく、それ以上あんたみたいな教師もどきとら話すことは無い。行くぞ玲、慎吾君」
「う、うん」
と、完膚なきまでにボコボコにされた田嶋は口を空けそこに立ち尽くしていた。
「じ、じいちゃん…」
と、重い口を空けた瞬間。じいちゃんの大きな手が頭を覆った。
「…え?」
「よくやった…。玲はわしの自慢の孫だ。慎吾君をよく助けてやったな。おまえは何も気にしなくていいぞ」
と言われてしまった。
僕の頬には何か熱いものが一筋伝っていった。それはじいちゃんもだった。
あれから2ヶ月が経過した。結局田嶋は学校から追放。いじめをしていた生徒も元々の素行の悪さから退学処分を食らってしまった。そして僕と慎吾は、
「お!おはよう玲!」
「うん。おはよう慎吾」
と、とても親しい仲になっていた。クラスでも
「お、おはよう玲くん…」
と、気まずさからどもりもあるが徐々に馴染んでいった。
そして秋奈はと言うと
ガラガラ
「入るぞ~」
「あ!先輩遅い~」
「悪かったな。てか、こんなもん食っていいのか?」
「大丈夫!いくら入院とは言え、肺には影響ないから」
と明るく言う。
そう、今秋奈は入院中なのだ。
第2章 君のお願い事
原因は肺の機能低下で起こった酸欠だ。しばらくは学校に行く往復移動も禁止され、今こうしてベッドにいるのだ。
「今は慌てずに直すことに専念しろよ」
「は~い。てゆうか、先輩最近明るいですよね~。どうしたんですか?」
といたずらな笑みを浮かべながら言ってくる秋奈。本当に僕は秋奈が何を考えているかが全くわからない。
僕と秋奈は付き合ってるわけでも無く、プライベートを心配しあう仲ではないはずだ。でも、このことを聞くと秋奈はいつも
「だって、先輩と私は特殊な関係だもん」
と言う。
自分の心配をするよりも、俺の事を心配するので、時折心配していた。
「あ、そうだ先輩」
と言いながら秋奈は一冊のノートを取り出す。
「なんだ?これ」
「人生悔い無しノート。これから先輩といっぱい遊んで、その度にこのノートに書いていくの。そうして、死んじゃう前にやり残した事、悔いをなしに出来たらクリアって感じ」
「…生きようって思いは?」
そう聞くと秋奈はこっちを向き、
「あるよ」
と言った。
「あるけど、変に期待してやりたいことも出来ないで死にたくないから」
そう言う秋奈の顔は、覚悟を決めたような顔だった。
その顔が痛くて、僕はさよならを言って病室を後にした。
秋奈からノートを預かってた僕はなんとなしにノートを開く。
近くで有名なフルーツパフェを食べたいとか、遠くで有名な四川料理が食べたいとか、近場から遠くの地域まで、幅広くあった。
でも、それの多くに「先輩と」と書かれてた。
「先輩…か」
この先輩が誰かはわからないけど、出来ることならその先輩を呼びたい。だから僕は何気なくその先輩を探ろうとした。
「なあ秋奈」
「なんですか?先輩」
放課後、秋奈の病室に来た僕は秋奈に
「誰か尊敬する先輩とかっているか?」
と聞いた。
こうして何気なく聞いて、秋奈と一緒にいてもらえればこっちのもんだ。しかし秋奈は
「ん~、いるはいるけど、アプローチしても全然気付いてくれないんだ~」
「そ、そうなんだ…その人って今どこなの?」
「あ、先輩もしかしてあのノート読んじゃった?」
あっさりバレてしまった。
「え?そんなことは…な、ないぞ。多分」
明らかに動揺する俺を見て秋奈はクスッと笑う。
「まあ、先輩は絶対会えませんよ。なんせ一心同体なんですから」
と言った。
一心同体…まさか、そんなにも仲が良い先輩がいるんだろうか。
そう思うと嬉しいような、少し、寂しいような気がした。
「…もう、先輩のバカ…」
★
「先輩!私彼氏ほしいです!」
会って早々、そう言われた。
今日は秋奈の退院祝いに近くで有名なクレープ屋に来た。いちごが30個位あるようなクレープやフルーツやクリームを溢れんばかりに詰め込んだいかにもJKが好きそうな場所だった。
「…それをなぜ俺に相談する」
「だってだって!先輩、私学校の人でまだ先輩と同級生としか話したことないんですよ?残り少ないってのにそんなの悲しいでしょ!だから、私にかっこいい人教えて下さいよ〜」
なぜか僕に固執する秋奈に、他に誰もいないのかと少し心配する。続けて秋奈は
「だって〜〜〜〜〜だもん」
と何かを言ってた。タイミング悪く爆音を鳴らすバイクが通りすぎた。
「え?すまん、なんて言ったか聞こえなかったんだけど…」
「あ、やっぱなんでもない!気にしないで!」
と言って、必死に話題を逸らそうとする秋奈。一瞬、先輩と聞こえた気がしたけど、都合よく聞き間違えただけだと思いこむことにした。
心なしか、秋奈の顔は随分暗いような気がした。
「お前…本当に鈍いんだな」
「え?何がだよ」
そう聞くなり慎吾は呆れ顔で話し始めた。
「お前さ〜そんなわかりやすい告白スルーするかよ」
「え?いつ僕は告白されたの?」
「いやいや、最後先輩って言っててそのムードはそういうことだろ」
たしかにムードはそんな感じだった。でも、
「多分、あいつは僕のことを忘れたいんだと思う」
そういった僕の顔をめずらしそうに覗き込んでくる慎吾。
「そりゃまたなんでだ?」
「あいつ、多分死ぬのがこわいんだよ」
「だったらお前が支えてやれば…」
「自分が死ぬことじゃなくて、自分が死ぬことで周りの人が悲しむことが怖いんだよ」
ただでさえいじめられた時、僕の支えさえ借りないような少女。きっと自分のことで悲しんだり苦労させたりすることを本能レベルで嫌ってるんだ。そんな痛々しい性格を、乗り越えることが出来ないのだから、こうして逃げることでしかこの痛みから開放されなかったんだ。
でもそれが、一瞬の優しさがその痛みを思い出させてしまっんだ。だから僕もそんな痛みからは早く逃げてほしい。だったら、今僕が秋奈のそばにいるのは…。
「はあ…そろそろその損な性格治したら?」
「でも…」
「てかな、お前そんなこと言って、本当は逃げてるだけじゃないのか?」
逃げ…る?
「本当に大事なら、本当に守りたいなら、あいつのそばにいるべきじゃないのか?」
「だからそれは…!」
「悲しむから、辛いから怖いんじゃない。本当は、死んでからなんとも思われないかもしれない。もしかしたらみんな私のことを忘れるかもしれないからじゃない?」
「だ、だから…」
「もし俺が言ったことが間違ってても、それでもお前はそばにいるべきだ」
こいつが言ってることは正しい。でも、それでも…。
「そりゃ、誰だって死ぬのは怖いさ。でも、その恐怖よりも怖いことは、死んでからみんなの心に自分がいないと思うことだ。だから」
と言い、俺の肩を叩き、喝をいれるように力強い声で、
「忘れられない思い出ってものを作ってこい」
その言葉で、僕はハッとした。
切ないエンドだって、予想外のエンドだって、今は今。
変えられない過去を作れるのは今しかない。
「…ありがと。まさかいじめっ子がこんなロマンチストだとは思ってなかったけど」
と皮肉を込めた感謝をする。
「それは余計だろ!全く…とにかく、今の内に行ってこい!」
そう背中を押され、秋奈の元に足を進めるのだった。
この先、どうなったって構わない。今はただ、彼女のお願いを全て叶えてあげることに頭がいっぱいだった。
3章 救いたい心
久しぶりに人を思った。助けたいって思って思わず言ってしまった。それでまた怖くなってしまった。
いっそ死にたくもなってしまった。
「はあ…」
とため息をついてみたりしてみる。RPGで言う「しかし何も起こらなかった」と表すのが正しいのか。いや、「死がさらに怖くなっていく」の方が合っているかも。
死ぬのが怖いから、死にたい人が羨ましかった。
だから、止めた。先輩、死んだ方が楽だったのに、わかってて、止めた。
それなのに先輩は私のために色々してくれた。本当は限界だったいじめも、心も、生きたいって思いも助けてくれた。なのにまだ私は先輩のことを突き放せない。いなくなった時の恐怖に囚われたあまりに哀れなコバンザメのまま。弱いままで。
「先輩…」
とつぶやく。何も起きないのに何かを期待してしまう。
突然、遠くから愛したい声が響く。
「秋奈!」
「せんぱ…」
そして言葉を飲み込む。
「ごめんね、先輩」
そう言い、私は命を投げ捨てる覚悟を決めた。
何が起こったかわからなかった。だけどすぐに正気に戻り、
「秋奈!」
と叫んだ。
ドサッ!という音と一緒に倒れる秋奈。肺を握りしめて過呼吸になりながらうずくまる。
「何…してんだよ…」
「先…輩、ごめんなさい…」
「なんで急に」
後悔と辛さが混じる痛みが胸を締め付ける。
「わたし、ね。怖いのと同時に辛かったんだ」
「辛い?」
「私、先輩が羨ましかった」
「はあ?」
「死にたく、なくて…でも、いつか死ぬって…それで、死のうってしてる先輩が…羨ましくて…」
と言いながらボロボロと泣く秋奈。
「楽になれたはずなのに…わざわざ引き止めて…サイテーだよね…」
そんなこと…。
「だから…先輩はこんな風に…ならないで…くださいね…」
「秋奈…?秋奈‼︎」
この日、後悔と未練で抜け殻のようになっていたらしい。本当かどうかは覚えてはいない。
秋奈は意識不明の重体。原因は明確で突発的に走った事による重度の酸欠と肺への負担によるものだった。医者によれば、数週間は昏睡状態だと言う。
「よ、秋奈。来たぜ」
と、今日も変わらず目を開けない秋奈の病室に入る。
「…まだ、ちゃんとゲームを終わらせてないのに…勝手に死のうとすんなよな…」
「……」
「はは、無視すんなよ…お前がいないせいでこっちは退屈な毎日なんだから…」
「……」
返事は、ない。当たり前だ。
「命に別状は今の所ないですが…なんせ、やったことがやった事ですからね…」
「…すいません…」
「いえいえ、私は謝ってほしいわけではないんですよ。ただ、ひとつだけ知って欲しいんですよ」
と、医者との面談で言われた。
「知る…ですか?」
「ええ、秋奈さんの秘密です。気になりませんか?」
そう言いながら医者はドアの鍵を閉める。
「こっから先は、私と君との秘密になりますよ」
「は、はあ」
「秋奈さんはああ見えて繊細かつ照れ屋でね。自分の意見を押し通そうとしたりしたことがないんですよ」
「…」
「まあ、要はあなたにもなにか隠し事でもしてるのではないかなと思ってね」
「かくしごと…ですか…」
そんなふうには考えた事がない。と言うか、とても隠し事をしているようのは見えなかった。
「今ここでそれは言えませんが…少なくとも、今の秋奈さんにはあなたが必要です」
俺…が。
「思うところもあると思いますけど、それでもまた、もう一度だけ…」
「あんたに何がわかるってんだよ!」
と、いつの間にか叫んでいた。
「あんたに…何が…俺が!どれだけ頑張ったって…世界は無情だ。あいつが元気になってきても…それでも…報われないんだよ…どうすりゃいいんだよ…俺は…」
八つ当たりだ。わかってた。それでも口は止まらない。
「もう…わかんねぇんだよ…」
「…玲さん。顔を上げてください。せっかくの顔立ちのいいお顔がくしゃくしゃじゃないですか」
そういい何かを取り出す医者。
「…これは?」
「秋奈さんの死ぬまでにやりたいことリストです。最後のページ。見てください」
そう言われ、渡されたノートを開く。
あの日と変わらない。「先輩と」と書かれたノートだった。
ペラペラとめくり最後のページに近づくに連れて段々と簡単なものになっていく。
「…えっ…」
口から漏れた。なぜなら最後のページにはデカデカとした文字で
『大好きな玲先輩と忘れられない思い出をいっぱい作るようにできるだけ永く生きる!』
…と書かれていた。
「あ…いつ…」
「…少なくとも、あなたに秋奈さんがいるかと言われたらわかりませんが、秋奈さんにあなたがいることは、誰にでもわかる事実ですよ」
ああ、馬鹿だ。
俺は、とんでもない馬鹿だった。
そう思った時、部屋のドアが勢いよく開き
「先生!秋奈さんが…目を開けました!」
と看護師が入ってきた。
俺が医者の方を見るとニッとはにかみ
「さあ!行ってきてください!あの子とために…秋奈さんとあなたのために!」
と言ってきた。
全く、そんな背中の押され方をしたら…
「…行くしかねえじゃねえかよ」
そう言い、俺は走り出した。
第4章 きっと動かしたのは愛でも友情でもない何か
「秋奈!」
と叫びながら入った。秋奈はスッとした佇まいで座っていた。
「先輩…」
秋奈は前までの明るい顔ではなかった。その顔は何かを決めたような顔だった。
「……」
「…先輩」
「わかってるさ。お前はもう、俺と一緒に居たくないんだろ?」
「…」
申し訳無さそうに、そして残念がりながら彼女は頷く。
「だって…先輩もわかってるでしょ?私は、怖いの。死んで、その後先輩も含めたみんなに忘れられるんじゃないのかって…。だから、もうひとりにしてください…お願いです…」
胸が締めつけられて、痛い。そりゃ、不安だろうさ。でも…俺は…。
ガバっと抱きしめる。なるべく、慣れてなくても暖かく。
「えっ!先輩…」
「だったら、不安がなくなるほど、二人で強い思い出を作りに行こうぜ。何だっていい。俺の心に深く、強く刻まれればいいんだろ?」
言ってることはめちゃくちゃだ。何言ってるのかわからないぐらい。でも、それでも伝わるはずだ。
必死に伝えれば、想いは、願いは届く。
「先…輩…」
秋奈はわんわんと泣いていた。しばらくは、秋奈が泣き止むまでそばにいることにしようと思った。
「どうだ?落ち着いたか?」
「……コク」
と、秋奈は首を縦に振った。よかった。
「よかった。だけど、一人で勝手に死のうとしたのは良くないよな?」
「…はい。反省してます…」
「全く…まあでも、無事で良かったよ」
「うう…先輩は少しズルい、と言うか…急と言うか…」
「ん?なんだ?」
と、小首を傾げて尋ねると顔を真っ赤にさせて
「な、なんでもないです!ほ、ほら。何顔ジロジロ見てるんですか!」
と枕で顔をバフッ!と叩きつけてきた。なんというか、可愛らしい。
あれから3ヶ月程たち、無事に退院した秋奈は、学校に通うのはマズいと言われ、学校を中退した。でもイヤイヤかと思ってたその日の秋奈はスッキリとした顔をしていた。
そして、物分かりの良い学校だったため、俺もちょくちょく休むのを許可してくれた。本当感謝してもしたりない。
「じゃあ行こっか」
あの日から僕らの関係が「友達」から「恋人」に…!
…ということはなかった。
俺には、こんなに痛い人にとどめをさすなんて事は出来ない。きっと秋奈だってそれは無理だと言うだろう。
今日は遊園地に来た。見事な秋晴れだった。
清々しい気分になれたのは言うまでもないだろう。
「う〜んはぁ。気持ちいねぇ〜。たまにはこうして羽伸ばすのもいいよね〜」
秋奈は腕を伸ばし体いっぱい息を吸った。
その間わずか2秒。それは秋奈の肺機能が弱ってることを痛く語っていた。
「ほら、絶叫系行けないんだから、行くとこ決まってるでしょ?行こー」
「…うん」
でも今は、二人の強い思い出を作ることに専念した。
「えへへ〜楽しいね〜」
と言いながらチョコソフトを一口頬張る秋奈。
その口にはチョコが少し、頬に付いていた。
「秋奈、ほっぺ」
「どうしたんですか?先輩?」
と言いながらニマニマする秋奈。どうやらわざとらしい。
どうするか悩んだ挙げ句、わざとならやり返そうとなった。
「だから…ここ」
そう言いながら頬についたチョコをペロッと舐めた。
…チョコだけじゃない甘さを感じたのは内緒にしよう。
「!!?…」
「だからここだって言っただろ?」
そういって俺はKO。と同時に秋奈もだったらしい。
しばらく二人は真っ赤になって熱を冷ますようにソフトクリームにかじりついた。
「じゃあねっ!」
と可愛らしく飛び跳ねて帰っていく背中を見て、嫌な予感が脳裏をよぎってしまった。
そして、ついにその時は、来てしまったのだ。
最終章 死にたい僕と生きたい彼女
知らせは、突然に。
それは本当で、それでいて苦しいときに来るものだ。
ある日の授業中。授業を普通に受けてた時だった。
「玲!玲はいるか!?」
担任がドアを勢いよくあけそう叫んだ。
「せ、先生?いった…」
「秋奈が…時間が近いそうだ…」
その言葉に、最初は夢だと思った。夢だと信じたかった。
その想いと一緒に足が動いてた。
「秋奈…!」
ドアを開けると、そこにいたのは秋奈の両親だった。
「あ…すいません…」
「あなた…もしかして玲くん?」
「…え?」
いきなり自分の名前を知らない人に呼ばれて、一瞬言葉に詰まった。
「あ、はい」
「うちの秋奈が…本当に迷惑を…」
「い、いえ!全然…むしろ、僕のほうが助けられてましたよ…」
「お前か!うちの秋奈に手を出したのは!」
そう怒鳴ったのはずっと黙っていた父親だった。
「お前が秋奈に刺激を与えるから。それにホイホイついていくんだ!うちのかわいい娘に何をしてくれた!」
「…っ!」
「どうやら何も言い返せないようだな…悪いと思ってるなら、今ここで殴らせ…」
「違う!」
俺は話を遮って、話をし始めた。
「違う…まだ、死んでない。死なせない…」
「お前みたいな子供に何ができるってんだ!」
「子供だろうがなんだろうが!俺らの仲は誰にも壊せない。誰も干渉できない!!!!例え邪魔されたって、何されたって!俺はこいつから生きる楽しさを、喜びを教えてもらった!それは俺もそうだ!彼女が、秋奈が不安にならないように!必死に!怖くならないように死ぬ意味を教えた!それで秋奈が救われると信じてたから!」
俺の目から筋が一本伸びる。
「でも…」
でも…。
いつからか始まった。このバカみたいで、楽しくて、美しくて残酷なゲーム。俺は…それに…。
「でも…俺の負け…なんだよな…?」
俺はいつからか、死ぬ意味を教えられてる気がしなかった。生きたいと思えてしまった。だけど。それ以上に、秋奈は生きることに執着していた。まだもしかしたら救える命が、ここにあるんだ…。
「…お義父さん、お義母さん。秋奈は、きっと助けてみせます。最善を尽くしますが、少なくとも、心だけでも救ってみせます」
俺は必死に訴えた。言葉ではなく、目で。
真剣な眼差しに負けたのだろうか。お義父さんとお義母さんは
「…秋奈。こんなにいい男に守ってもらえてたんだな…」
「あんた…幸せもんやね…」
と落ち着きを取り戻していた。
俺はそんな秋奈を置いて病棟を走った。
「検査の結果。出たよ」
次の日。僕はまた病院に来ていた。
「それで…僕は…」
「…もう一回聞くよ。本当に、いいんだね?」
そうきかれ、僕は力強く頷いた。
「…検査の結果、適性だったよ。君なら、彼女のドナーになることが出来る」
その時の僕は嬉しい気持ちに隠れ、会えないという感情が芽生えていた。
「…でも、手術するなら、今日しかない。何か、少なからずやり残したことがあるなら。今のうちにやってきなさい」
ドナーになる。それはすなわち死ぬことを意味してる。
正直、やり残したことはもうない。だけど、時間がもらえるなら…
「…少しだけ、半日だけ時間くれますか?」
「ああ、もちろんだ」
そう聞いて、僕は一度家に帰った。
これが、僕の最後の帰宅になった。
思い返せば、親には迷惑かけたな〜。そう思って、ささやかなプレゼントを買ってあげた。恐らく気付くのは今日帰ってからだろう。
慎吾も何かと仲良くしてたからな。それも抜かりない。クラスメートに手紙は書いたし。
じゃあなんで帰ってきたか。たった一つ。大事な忘れ物をしてしまったからだ。
ああ、世界はなんて残酷で美しいんだ。
朦朧とする意識でそう考えていた。意識はだんだんと覚めていき、普通に目を開けれる程意識が覚めたところで、一つ違和感を覚えた。
「…息が、しやすい…」
「秋奈…」
先輩!そう叫ぶところで声が詰まった。そこにいたのは先輩ではなく、
「慎吾…先輩」
「これ、玲から。最期の手紙、だって」
最…期…?
その後は医者がわあわあ騒ぎ、親が初めて思いっきり抱き締めて、親の暖かさに泣いたあと、一人でその手紙を読んでいた。終始涙を流しながら読んでいたから、また後で読み返したりもした。
これが、玲くんの最期の愛の言葉だった。
「秋奈へ
秋奈。どうだ?俺の肺は。さぞかしよく働いてるだろ?なんせ綺麗すぎる肺なんだからな。あの赤ちゃんの肺とはおさらばだよ。さて、このゲーム。はっきり言って、僕の負けだ。僕は秋奈に死にたいって思わせることが出来なかった。むしろ、途中からは生きたいなんて思っちゃってさ。本当、ごめん。それで、今回は、言いたいことが3つある。
1つ目、どうか慎吾と幸せになってほしい。
俺が言うのもあれだが、近くで見てきたからわかるけど、あいつはとんでもなくいいやつだ。本当、いいやつ過ぎて本当にこいつが俺のこといじめてたのか?と疑うほどだ。俺が認めた男だ。絶対がっかりはさせないし、俺の意思はあいつに託してあるから大丈夫だ。だから、俺の分まで恋をしてくれ。
2つ目、どうか俺が死んだのを自分だと責めないでほしい。
俺はお前のせいで死んだんじゃない。俺が死にたかったから死んだんだ。決してお前のせいじゃない。全部俺のせい。だから責めるなら俺を責めてくれ。
そして最後、3つ目
最後の死にたい理由。
俺はいじめのせいで死にたかったり、つまらない日々で死のうとしてた。でもそうじゃなかったんだ。
本当に死にたい理由。それは、『生きてもらうため』だよ。
誰だっていつかは死ぬ。早いか遅いかだ。なんて考える人もいる。でもね、違うんだよ。
死ぬのが速いのは、見捨てられるから。
永く生きるのは、見捨てるから。
そう思うんだ。だから俺は見捨てることが出来なかった。それが俺の死ぬ理由。死にたい理由なんだ。
だから、俺はお前のために死ぬ!それで悔いることも亡霊になることもない!だから安心して生きろ。今まで生きられなかった分、そして俺の分まで、泥まみれになったって走り続けてほしい。
これからの不安なんて今までの不安と比べたら甘いもんだろ?だから突っ走れ!。いつでも俺は、お前のことを支えてやるからさ!
死にたがりの玲より」
後日談
あれから数年。慎吾くんとは上手く行き、そのままゴールまで走りきった。色々なところに行き、たくさん笑って、たくさん走れたのは玲くんのお陰。今でも心には、玲くんがいる気がして、何故か嬉しい反面、寂しい思いが隠れていた。
死ぬことが怖いんじゃなく、死んで忘れられることが何よりも怖い。だから、忘れられない思い出があって、1人じゃない思い出を作れば作るほど死ぬのは怖くなくなる。だから、死ぬのが怖くなくなるまで、今は慎吾くんと作って行くだけです!
私達の青春を最後までご覧いただき、ありがとうございました!