9話 地位に甘んじる無能で哀れな妹だと
「聞いてたのと、ちょっと違うね」
ケヴィンお兄ちゃんは声のトーンを落とし私を見つめた。
「アネットの事?」
私は分からないふりをして小首をかしげた。
どうせ陰で無能で、不愛想な妹と言われているのだろう。
「地位に甘んじる無能で哀れな妹だと、父からは聞いていたんだけど」
思った以上に辛辣でした。
「僕は父の判断に従うよ」
そうでしょうね。
父の命令で血の繋がった私も殺してしまう兄の忠誠心は本物だと思う。
「なんとかしたいなら、自分の益を示さないと」
兄は目を伏せて紅茶のカップに口を付けた。
横でこの様子を見ている護衛の騎士は無言で微動だにもしていない。
「僕はあんまりこっちに帰ってないけど、必要なら協力はする」
「あとは自分で何とかしなよ」
10歳児の私に向かって、この兄は本気で忠告しているのだ。
私が何も言わずジッと兄を見つめていると、雰囲気を変えるようにニコリと笑った。
「あ、このクッキー後でそっちに届けておくよ」
◇◇◇
兄とのお茶会は兄の予定があるため終了した。
私はとぼとぼと家への道を戻り、兄から言われた言葉がぐるぐると頭の中で響いていた。
「ただいま、レナ」
ドアを開けると、中からバタバタとレナが走って出迎えてくれた。
「お嬢様、ケヴィン様とのお茶会はどうでしたか」
どうかと言われてもほんとに疲れてしまった。
「クッキー美味しかった!」
レナに言えるのはこれぐらいの感想だ。
後は怖かったし、緊張もした、兄は私の事嫌っていると思うし、辛辣なことを言われた。
でもそんな事流石に言えない。
「ケヴィン様はいつもは学校の寮で生活してるんです」
「学校?」
「はい、外の学校です」
確かに、兄はこっちに帰ってないと言っていた。
他の兄弟はあのヤドリギの宮で教育を受けていると思っていたけど、選べるのだろうか。
「お兄ちゃんはどのぐらいの間こっちにいるんだろ」
「学校が長期休みに入ると戻ってくるので居ても2カ月ぐらいだと思います」
外の学校かぁと考えながら部屋に入ると、テーブルの上にお願いしていた本が数冊おいてあった。
「あ、借りて来てくれたんだぁ!」
今回の本は前回よりも分厚い。
「初等教育用の教科書を選んできました」
「う、難しそう。。」
手に取ると今まで読んでいた絵本とは活字の量が違う。
お兄ちゃん、アネットは、父に自分の益を示したいなんて思ってないんです。
ここから追放してもらって、早く自由になりたくて。
私を縛るゴールドの瞳が嫌いで、私を殺した兄と父が今でも憎い。
「アネット頑張る。」