2話 神様からのチャンス
◇◇◇◇
アネット・トワイライト・ガーデンフィールド。
私の名前だ。
今の私には18歳までの記憶がある。
18歳になり、父の誕生日で兄に殺されるまでの実体験だ。
それに気が付いたのは実は最近、もっと言えば2日前。
目が覚めると10歳の頃まで時間が巻き戻っていた。
最初は一体自分の身に何が起きているのか分からなく、とても動揺したし、泣きじゃくって取り乱していた。
今はその状況も受け入れられるようになってきた。
ふかふかの大きなベットで目を覚まし大きく伸びをした。
カーテンの隙間、窓の外から日が漏れていて天気はとても良いようだった。
しばらくするとドアが空き、私のメイドのレナが部屋に入ってきた。
「良かった今日は怖い夢は見なかったようですね、アネット様」
色素の薄いブラウンの髪を束ねたメイドのレナはニッコリと笑った。
「今ホットミルクを準備しますね」
レナはベットの横で温かいミルクを小さな鍋からカップへ注いだ。
鏡に映る私は顔だちも体も成長しきっていない10歳の子どもだった。
カップを受け取る私の手はとても小さく、どうしても体の縮尺に慣れない。
「レナ天気いいから窓開けてもいい?」
今の私では満足に窓も開けることも出来ない。
「いま開けますね。今日は風も気持ちいいですよ」
レナが窓を開けると気持ちのいい風が部屋の中に入ってきた。
過去に戻ってきたこの現実に向き合うと、込み上げてくる感情は怒りだった。
これからは私はこの城と呼ぶにはお粗末な家で10年ずっと隔離される。
その間、お父様が私に会いに来たことも無く、
他の兄弟たちが住む城にも立ち入る許可も出ることは無い。
成長するにつれ私の状況はどんどん悪くなっていく。
「お父様ってどう思う?」
ミルクを飲み、日が差す外を眺めながら私はレナに尋ねた。
「陛下ですか?」
「陛下も公務でお忙しいですから、アネット様の10歳の誕生日を祝いたかったと思いますよ」
レナは優しい口調で答えた。
おそらく本当に思っているのだと思う。
私が10歳の時もそう思っていた。忙しいから愛されないのだと。
けれど、それは嘘。私の父は私の誕生日を祝った事などない。
これからも祝われることなども無い。
好きで王族に生まれてきた訳でもなく。
この瞳のせいで、外にも出られない。
無能扱いされ敷地の一角に10年間隔離されて、
本当に何年かぶりの父からの招待でパーティに参加したら、
意味の分からない冤罪であっけなく殺されてしまった。
なぜ初対面の実の兄に殺されなければいけないのか。
なぜ私が殺されなければならなかったのか。
神様がかわいそうな私にチャンスをくれたのだ。
この家を、この国へ出て自由に暮らし、幸せになるチャンスをくれたのだ。
「ミルクがおいしい」