白月花を纏う
こんにちは、葵枝燕です。
この作品は、空乃 千尋様とのコラボ企画となっております。空乃様撮影のお写真をお題に、葵枝燕が文章を綴る——題して、[空翔ぶ燕]企画です。企画名は、僭越ながら私が名付け親です。一応、由来があるのですが——長くなると思うので、後書きで披露させてくださいませ(今回第九弾なので、前回までの作品からご覧の方はご存知かと思いますが、はじめましての方もいるかもしれませんので、ご理解のほどよろしくお願いいたします)。
そんなコラボ企画第九弾の今回のお題が、「ダリア(二〇一八年九月十二日)」です。本文の最初に入っている写真が、お題として提供いただいたものとなっております。
色々なモノに影響を受けまくり、結末に迷走し——そんな感じのお話かなと個人的には思っています。
あ、タイトルですが「はく・げつ・か・を・まと・う」と読みます。
本文に、写真が入っております。ぜひ、合わせてお楽しみくださいませ。
その花は、まるで白い月のように見えた。夜の闇に負けず、光り輝くようにそこに在る——誇り高さをも感じさせる、そんなモノに見えた。
この花をまとえば、こんな私も、美しいモノに見えるだろうか——そんなことを思った刹那、その考えを否定するように頭を振った。
私のこの身は穢れている。そんな私が、こんな美しく綺麗な色をまとうなど、烏滸がましいにも程がある。触れることさえも、不相応だ。
それなのに、私の手はその花へと伸ばされた。触れる寸前で、どうにか堪える。
こんな私が触れれば、この美しいモノさえも穢れてしまうような気がした。それだけは、してはならないと自戒する。そうして、花に触れかけた手を、そっと自分の頭へとやった。
無意識に、息をこぼした。静かに手を離す。
何度確かめても同じこと、変わらない事実があるだけだった。
鬼族の一族の端くれである私には、頭に二本の角がある。細く長く、艶やかな白い角だ。しかし、そのうちの一本——私から見て左側の角は、根元から折られていた。左右で極端に長さの違う角は、ひどく悪い見た目をしていた。
角は、鬼族にとって、一族の証であり、力の象徴だ。一本でも折れてしまったならば、一族の恥晒しとして忌み嫌われる。それだけでなく、里を追われ、一族から追放されることも、よくある話である。私もご多分に漏れず、里を追われた。彷徨うことを余儀なくされた。しかし、今の鬼族を取り巻く事態を考えれば、私がこうなってしまったのも仕方がないことなのかもしれなかった。
延々と長く続く鬼族同士の争いは、代を重ねる毎に激しさを増していた。同じ鬼族という部類でも、一族が異なれば考えも異なり、考えが異なればそれを理解するのは容易なことではない。そんな違いによる争いは、数千年の時間をもってしても、無くなることはなかった。その渦中に、私も否応なく巻き込まれた。いや、産まれる前から、巻き込まれることが決まっているようなものだった。
争いを止めたかった。これ以上、同族の命を奪い奪われるような日々など、私はもう見たくなかった。長命で、すぐには死ねないからこそ、苦しむ者達を見てきた。数多の叫びが、数多の悲哀が、数多の涙が、この地に染み渡っていくのを感じていた。その日々を終わらせたかった。
しかし私のその考えは、同じ一族の者達にさえ理解してもらえなかった。
角を一本折り取られ、里を追い出された私に、行くあてなどない。進むことも、戻ることも、共に危険だ。同じ一族からも、違う一族からも、私は命を狙われるだろう。どこに行こうと、きっと私は生きられない。
ああ、いっそ——そこで無理矢理思考を止める。この先を思うのは、否、願うのは、危険であり傲慢だ。
不意に風が吹いた。ザアッと、草木が鳴る。肩まで伸ばした私の黒髪も、吹き上げられる。咄嗟に押さえた右側頭部に目がいった。
一房だけ白く艶めく髪——生まれつきのそれを見てなぜか、先ほど触れかけた真白い花のようだと思った。
『白月花を纏う』のご高覧、ありがとうございます。
さて。ここから色々語りたいので、お付き合いのほどを。多分、長くなります。
前書きでも書きましたが、この作品はコラボ企画です。名付けて、[空翔ぶ燕]企画。「空」=空乃様から一文字拝借、「翔ぶ」=お題から想像力膨らませて文章書くイメージ(「翔」という字には、「とぶ」の他「めぐる」や「さまよう」という意味もあるそうで、その意味も含めて「翔ぶ」を採用しました)、「燕」=葵枝燕から一文字——そんな由来で生まれた企画名です。
そんな今回のお題は、「ダリア(二〇一八年九月十二日)」でした。本文最初の写真が、お題となったものです。
さぁ……というわけで、ここからは登場人物について語ります。ですが、今回は語り手お一人なので、そこまでは長くならない、と思います。
というわけで、語り手の「私」について。考えの違いから一族を追放された鬼族のお方です。一応、作者は男性のつもりで書きました。細長く白い角が二本生えていますが、一族の里を追われた際に一本折られています。肩まで伸びた黒髪ですが、一房だけ白い髪が生まれつきあります。そうですね、多分、色々と抱え込むタイプの方なのではと思います。きっと、朗らかで明るい方ではないでしょう。
前回は作品を書いた時期にこわい話系の本をよく読んでいたのでこわい話を書きたいという感じで書いたのですが、今回はお題写真を初めてみたとき白い満月に見えたのでそのイメージのまま書いてみた感じです。
タイトル『白月花を纏う』ですが、ふと浮かんできたものをそのまま採用しました。漢字で「纏う」にしたのは、ひらがなにすると「待とう」に取られてしまうのではと気になったからです。
本当は、花を手折って身に付けた方がいいかなと思ったのですが、どうしても花に対する冒涜のように思えて、そこへ踏み切ることができませんでした。いや、踏み切ることをやめたという方が正確かもしれません。だから、ちゃんとした結末を書かず、進むのか戻るのかもわからないような、どこか中途半端なものになってしまっていると思います。
あと、そうですね、多分お気付きの方はいるんだろうと思いますが、色々なモノに影響受けまくってる作品な気はしてます。
さて。これで語りたいことは語れたでしょうか。何か忘れてる気がしなくもないですが……思い出したら書きたいと思います。
最後に。
空乃 千尋様。今回も、ステキなお題をありがとうございます! お題のお写真候補をいただいたとき、実は全部いいなぁと思ってたんですが、今回のお題があまりに綺麗な満月に見えたので、採用させていただきました。次のコラボも楽しみにしています。それから、いつもありがとうございます!
そして。ご高覧くださった読者の皆様にも最大級の感謝を。もしご感想などをTwitterにて報告される際は、ぜひ「#空翔ぶ燕」を付けて呟いてくださいませ。
拙作を読んでくださり、ありがとうございました!