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08「斑目という吸血鬼」

 訪れたその三人は、下町の平凡な酒場では明らかに異質だった。

 そして、景色を変えるほどの圧倒的な存在感を放ち、一斉に注目の的となる。

 誰もが、瞬きもせず呼吸すらも忘れてしまっていただろう。


 ただただ()()___

 それが三人に対しての僕とリディアの感想だ。


 それもそうだ。

 アミットに魔術師はいない。

 僕と同じようにこの酒場の多くの者が魔術師を見たことすら無いだろう。

 ヒソヒソ話が辺りから漏れる。


「おい、あれって……」

「そうだよな? なんだか気味が悪いな……」

「魔術師……ってやつか? 初めて見るぜ」


 魔術師たちは周囲の視線など気にすることなく進み、僕とリディアのテーブルの隣に陣取った。


 辺りの客は取り繕うように平静を装った。

 次第にいつもの酒場の景色が現れる。


「ふぁー。ったくどこじゃ斑目(まだらめ)はー。わしとて暇じゃないっつーの! 協会のジジイ達もわしの本調子じゃないときに仕事を寄越しよってからに!」


 少女の様な外見の魔術師が、ため息混じりに言った。

 わし? どう見ても子供なんだけど……

 少なくとも14歳のサラよりは幼い。


「本日も収穫は無し、と。もう旅立って一週間ですわ。

 少々疲れが溜まってきました。

 早くお風呂に浸かってゆっくりしたいですわ」


 背後を歩いていた一人がフードを取って言った。

 その魔術師は妖艶な美しさを持つ女性だった。


 胸元は大きく開かれ、大迫力の胸が半ばあらわになっている。

 手のひらを扇のようにパタパタと扇ぐ。

 汗ばんだ肌が煌めいて見えた。

 栗色のカールした髪は妖精の加護を受けたように艶やかに揺れ、隣のテーブルからでもいい匂いが香った。


 他の男性客たちも一斉に息を呑んだ。


 すると隣から目線を感じる。

 リディアが冷ややかな目をしている。

 害虫でも眺めるような蔑んだ視線。

 そ、そんな表情もできるようになったのね……


 へへ……と、愛想笑いで誤魔化すと、テーブルの下で脛を蹴飛ばされた。


「ぎゃん!」

「ふーん。ずっと見てればいいじゃない」


 折れた。

 絶対折れた。

 コイツは加減を知らないのか?

 そもそも、なぜ蹴られなければいけないのだ。


 最後尾を歩いて来たもう一人の魔術師は男性だった。

 長身に金髪のオールバック。

 眼鏡をかけた、いかにも神経質そうな男だ。


先生マスター斑目(まだらめ)は気配を完全に断つことで有名です。今は目撃情報を虱潰しらみつぶしにするしか方法は無いでしょう」


 男性はローブをとって腰掛けると資料と地図を広げ始めた。


「よせロベルト。今日の仕事は終わりじゃ! ったくクソ真面目もほどほどにしておけ! わしは飲むぞ! 止めてくれるなよ!」


 少女は大声で酒を人数分注文した。

 どうやら少女のような見た目とは違って成人しているらしい。


「さあ先生(マスター)。カタブツなんか無視して飲みましょうよ。

 ロベルト、あなた料理を注文して頂戴。気の利いたものにしないと食べないわよ」

「お前が注文してこいアリステラ。俺はお前の下に付いた覚えはない」

「ロベルトはそんなだから女の子にモテないのですわ。少しは勉強して頂戴」

「そうじゃぞ。まったく男のくせに細かい奴じゃ。さあロベルト! 貴様も飲め!」

「いや、わたしは……」

「なんじゃと? 師匠の言うことが聞けぬというのか? このたわけ!」


 ゴッ


「痛っ! は、はい……頂きます」


 どうやら三人は師弟関係にあるらしい。

 アリステラという女性とロベルトという男性は対等なようだったが、明らかにロベルトは立場が弱いと見える。


 リディアが僕に耳打ちをした。


「(この人たち魔術師だ。それよりも聞いたか? さっき〝斑目(まだらめ)〟って言ってたけど)」

「(ああ。それがどうしたんだ? )」

「(この前、吸血鬼バンパイアの話をしたじゃない? この街に現れたって)」


 吸血鬼バンパイア

 人の血を吸って生きる怪物。

 賢く強い魔物。

 最近は、ここアミットの街に出現したと聞く。



「(その吸血鬼バンパイアの通称が〝斑目(まだらめ)〟なんだ。だけどおかしい。

 その通称は上層部しか知らないんだ。つまりは公表されていない)」

「(ということはこの三人は騎士団の上層部と繋がってるということか。

 ところで〝斑目まだらめ〟ってどういう意味なんだ? )」

「(さあ……あたし達下っ端には何にも聞かされていない。

 それはそれでどうかと思ってたんだけどさ)」

「(協会、とかも言ってたな。ギルドってやつかな? )」

「(魔術師ギルドってやつのことじゃない……? 分からない。分からない けれど、この魔術師たちが只者じゃないってことは確かだよ)」


 只者じゃない。

 そんなことは初めから解っていた。


 魔術師が住んでいないこの街で、三人組の魔術師に会うこと自体がまずもって考えられない。

 それに何だ? この落ち着かない感覚は。

 ヒリヒリと肌が警戒しているようだ。

 これが魔力を纏う者の雰囲気なのか?


 どこか噂話の域を超えていなかった〝吸血鬼バンパイア〟の存在が、ぐっと信憑性を増してきたように思えた。

 とても嫌な予感がする。


 そして俄然、興味が湧いてきた。

 〝魔術師〟〝吸血鬼〟。

 そんな話を聞ける機会なんてそうそう無いだろう。

 もっと話を聞いてみたい。


 僕達は魔術師たちの会話に聞き耳を立てることにした。

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