64「目覚めた最強の女」
こんな日が来るだなんて。
いまや僕は化け物になりかけ、リディアは完全に化け物に成り下がった。
そしてリディアは僕を殺そうとしている。
不本意だがリディアを止めることができる者はいない。
僕がリディアを殺すことでこの街、いやこの国は救われる。
彼女は全てを壊そうとしていた。
___彼女を殺すことでしか、彼女を止められない。
リディアの剣は重く、半吸血鬼化した僕の腕を難なく弾き飛ばした。
距離をとる。
「なあリディア、このまま僕たちは終わりなのか? こんな結末は誰も望んでなどいないんじゃないのか?」
リディアの猛攻は続く。
僕は全てを受け止めた。
動体視力は驚くほど鋭くなっていた。
だが動悸息切れ、体の痛みは僕を苦しめ続けた。
このまま自我を失ってしまう前に、終わらせなければいけないだろう。
ここでふと疑問がわく。
もしこのままリディアを殺してしまうことになったとして、その後、完全に吸血鬼化した僕は一体なにをするのだろうか?
かつてアイリーン達の仲間だったジルさんは、吸血鬼化したのをきっかけに凶暴に成った。
街の女性を一人食い、さらにロベルトさんを襲った。
___僕は?
僕はどうなるんだろう。
やはり僕もそう成ってしまうのだろうか?
見境なく人を殺し食べ、アミットを恐怖の渦に貶めてしまうのだろうか。
そして新たな悲しみと憎しみを生み出し、そして誰かから追われ殺される。
誰もその死を悲しんだりはしないだろう。
誰からも感謝してされることなどなく、疎まれながら死んでいくのだ。
殺してくれる者を待ちながら。
父さんはどう思うだろうか。
自慢の息子ではなかっただろうが、アーガイル家の長男だ。
きっと家族はアミットには住めなくなるだろう。
嫌がらせをする人も出て来るだろう。
それでも僕はみんなを守ることなんて出来ない。
なぜなら僕は吸血鬼。
きっとみんなを食べるのだ。
サラ。
僕はサラを守ると誓った。
何に誓ったでもなく、自分自身に誓ったのだ。
それができなくなる。
“生きているとも言えなくなる“
班目の言葉の意味がいまわかった。
ならばこのまま殺されてしまうのはどうだろうか。
そうすれば自我を失った僕という吸血鬼が暴れることはないだろう。
班目は行方をくらませるだろうが、それはしょうがない。
そんなことまで責任が取れるはずがないし、そんな余裕が誰にある?
この町はボロボロだ。
領主の家は吸血鬼のアジトにされ、騎士団にも内通者、そしてリディアは嫉妬の悪魔と融合してしまった。
となるとやはり心配なのはサラだ。
「……よし」
よし。
と呟いてはみたけれど心は決まらない。
殺すか、殺されるか。
『ペリ…何をそんなに難しい顔をしてるんだ? あたしがあんたを殺してあげるからさ……もう大丈夫。気にやむことなんてないだろう? もちろん痛くなんかしない。あたしに任せて。きっと気持ちよくなれる。ね、一緒に気持ちよくなろ?』
リディアは座った目で言った。
少しだけ気持ちが揺らぐ。
そうふだこのまま僕は殺された方がいいのかもしれない。
それもリディアから殺されるのならばそれはそれで本望じゃないか。
いくら頭でそう思っていても、繰り出される斬撃からは身を守ってしまう。
それは人間としての自己防衛の本能なのか、はたまた吸血鬼としての闘争本能なのかは判別し難い。
しかしながら実際に僕はリディアの攻撃を漏れなく交わすことができる。
それは驚異的なことだ。
ともに剣術を学んだ幼少期の記憶が蘇ってくる。
あの頃は、体の大きかった僕がリディアのお兄ちゃんだった。
そうだ。
忘れていた。
僕はリディアのお兄ちゃんだったのだ。
僕はサラとリディアという小さな二人の妹を守るために剣術を始めたのだ。
どうしてこんなに大切なことを忘れていたのだろう。
それこそが僕の存在意義ではないか。
それなのに今、妹の一人を僕は殺そうとしているのだ。
なにかと理由をつけ、さも正当だというようにだ。
「なあリディア。僕たちは一体どこに行こうとしてるのかな? 僕のことを殺してくれるのならそれでいい。けどさ、お前はどうするんだよ。“嫉妬の悪魔“はリディアの為に何かをしてくれるのか? お前を救ってくれるのか? 僕は、本当にこれでいいとは思えないんだ」
悪魔のやることを簡単に信じるだなんてできやしない。
リディアが望んで悪魔と契約をしたとしても、一度は命を救ったという事実があったとしても、得体の知れない“力“に頼るだなんて。
悔しかった。
頼ってほしかった。
こんなことになるのなら、ぶつかりたかった。
受け入れたかった。
僕の世界にリディアは必要なのだ。
___何かいい方法はないのだろうか。
みんな救えて、救われる方法が。
考えるんだ。
考え……
う、うう……
「あーーーーーーーーーー!!!! どうしてこんなに面倒くさいんだーーーーーー!!!」
その時だ。
気絶していたアイリーンが動いた気がした。
真っ赤なローブをもぞもぞと動かし、寝返りを打つように体が動た。
どうやら致命傷から回復したようだ。
「___これはまずいぞ」
そうアイリーンの目覚めは僕にとって不都合なのだ。
なぜなら『幻想の魔術師アイリーン・ロクス』は、吸血鬼殺しのスペシャリストなのだから______
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