63「悲しき化物たち」
___絶体絶命だった。
こんな時こそ冷静になるんだ。
僕は自身が置かれている状況を改めて整理しておく事にした。
とは言っても悠長に物思いに耽っている時間の余裕もなければ、血を失い過ぎたぶん自分自身の体力が保つのかさえ信用のいかない状況ではあったのだが、あまりの絶望感に頭がどうにかなりそうだった僕には、そんなことを考えて気持ちを前にやるしか道は残されていなかった。
どうしてこうなったのか?
そこから考えなければなるまい。
そう、僕たち討伐体は『斑目』と呼ばれる吸血鬼を追って、ここラスラ領主様の館にやってきたのだ。
そこで僕たちは奇妙な執事長と出会った。
彼はこの応接室に僕たち全員を通すと、斑目の討伐に協力してくれると言ってくれた。
そこで僕たちは斑目の出現を待つことになった。
やけに温かい室内にアイリーンは眠ってしまう。
それを狙ったかのように班目はアイリーンとロベルトさんに致命傷を負わせた。
アイリーンたちが長年追い求めていた吸血鬼の正体は、アイリーンの弟子であるアリステラさんだったのだ。
どうやら班目の内通者だった執事長とゼパイルさんの裏切りによって、僕たちは窮地に立たされてしまったのだ。
残されたのは僕とセブさんの二人。
当然、伝説級の魔獣である吸血鬼に敵うわけもなく、手も足も出ない状態でジリ貧に……
そこに現れたのがリディアだった。
しかしリディアは様子がおかしかった。
リディアは参戦するや、異常なまでの戦闘スキルで班目を圧した。
元々、剣術の才能はあったしそれなりに評価をされていたのだが、あれほどまでに俊敏で重い攻撃のできるような剣士ではなかったはずだ。
けれどリディアは異常な強さで戦った。
前夜、あんなに怯えきっていたのにだ。
いま考えれば恥ずかしいことだが、そのままリディアは斑目を討つのではないかと僕たちは期待してしまったのだ。
しかし、一瞬の隙をついた班目の一撃によりリディアは死んだ。
そう、死んだのだ。
僕の腕の中にいたリディアは間違いなく死んでいた。
体温は失われ、体重は少しだけ軽く感じた。
魂が抜け出た証拠だ。
リディアは間違いなく死んだはずだったのだ。
___そこからだ。
俄には信じられない事件を目の当たりにしてしまったのは。
それは大蛇の存在だった。
リディアから発生した黒い粒子の集合体、嫉妬の悪魔レヴィアの存在だった。
まるっきり白い大蛇だったが、知性を纏った言葉使い、まるで全てを見透かしたかのような態度、凄惨な状況を楽しんでいるかのような口振り。
奴は人間を舐めきっている。
そして大蛇はリディアの遺体に取り込まれていった。
苗代という言葉を使っていたことが気になった。
リディアは目を覚ました。
信じられなかったが、リディアは生き返ったのだ。
そして今、リディアは暴れている。
どうやら自我を失っているらしい。
リディアの乱心のトリガーは僕だった。
僕の両目が斑目によって強奪されたのをきっかけとしてリディアは暴れ出した。
並大抵の暴れ方ではない。
止めにかかったトマとエーレは斬り伏せられ今は息絶えているのだろう。
セブさんは満身創痍ながらリディアを救おうとしている。
そして僕はというと、視力を失い、血液も失い、ただ右往左往と死を待つのみだった。
こんなことではいけない。
リディアを止めるのはこの僕なんだ。
幼馴染が苦しんでいるときになにもできないなんて、僕が僕である意味を失ってしまうじゃないか。
しかし、異変はそれだけではない。
僕の吸血鬼化が始まったのだ。
手のひらは力強く大きくなり、心臓は踊るように脈打っている。
次第に僕も化物のようになっていくに違いない。
だがこうとも取れる。
いまや悪魔と融合し化物となってしまったリディアを救うことができるのは、化物になってしまう僕だけなのではないだろうか。
吸血鬼化が進むにつれて僕はいくつかの能力の存在に気づく。
僕には『魔力』が見えた。
視力を失った状態の僕だったが、次第に誰が今どこにいるのか、そういった情景が手に取るようにわかる。
両目が無くてもだ。
それは段々と研ぎ澄まされていった。
すでに立ち上がることすらできなくなったセブさんを始め、近くにいる者ほど行動がよく見えた。
アイリーンたちは気絶していたし、トマとエーレは動かない。
リディアは直視できないほどに禍々しい魔力を身体中から放出し、いまや街へ飛び出そうとしていた。
「待て!!!」
僕は叫んだ。
「待つんだリディア……! 僕が相手だ……!」
僕は駆けた。
体が軽い。
『ねえペリ………? あたしをどうしたいんだ?』
リディアが止まった。
さっきまでの凶暴さが身を潜める。
美しく悲しい表情が目に浮かぶ。
「リディア……一体お前は、誰なんだ……?」
奇妙な質問をしてしまった…
けれど、それは正直な質問だった。
蘇った僕の幼馴染は一体、何者だというのだろうか。
『なあペリ。あたしどうしちゃったのかな? こんなはずじゃなかったのに、あたしは、あんたと一緒にいれたらそれでよかったはずなんだ。だけどさ、もうそれじゃあ、満足できなくなっちゃった。
だって、ペリドット、あんたが変わっていくのが不安だったんだよ。
なぜだかよく分かんないんだけどさ、あたし、自分が嫌になっちゃったんだ……』
こんなとき、どんな言葉をかけるべきなんだろうか。
どんな言葉が、リディアの為になるのだろうか。
『……なんだよ……黙っちゃって。そういうところが変わっちゃったんだよ。
勝手に大人になんか成っちゃってさ』
「…………」
『あたし……もう、戻れないんだ。悪魔と……契約しちゃったんだよ。普通の女の子には、成れないんだ』
リディアは言うと、僕に向き直った。
1秒後の未来が見える___
(リディアの一閃。僕は首を飛ばされる)
___未来? 予見が蘇っていた。
そうか。
吸血鬼の治癒能力で、僕の両目は完治、いや復活していたのだ。
目の前にはリディア。
彼女はいつもと違っていた。
魔力を剥き出しにした様相。
それはとても儚く美しい。
そして一閃___
僕は全力でそれに応える。
ガキィィィィィィンッッ!!!
僕とリディアの剣が交わった瞬間、皮肉にも、とても綺麗な閃光が走った___
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