62「終焉」
斑目の最後の一撃。
それは一瞬の出来事だった。
鋭い痛みを伴って僕は両目を失った。
1秒後の未来を予見することのできる特殊な両目___
父さんと、そしてサラと同じ綺麗な緑色の両目___
それ以前に、僕の約17年間という人生の全てと共に在った、掛け替えのない両目___
その二つの宝石は、人間たちの憎むべき敵___斑目と呼ばれる吸血鬼によって盗まれてしまったのだった。
その出来事の後、斑目の禍々しい魔力はどこかに消え失せた。
奴は目的を果たして退散したのだろう。
両目が、いや、両目がかつてあったその場所が堪らなく痛む。
チクショウ……!
僕が一体何をしたと言うんだ。
どうして班目はそこまでこの両目に固執していたのだろう……
一体この両目にどれだけの価値があるって言うんだ。
どうして僕がこんな目に遭わなければいけないんだ。
『い、いやあああああああああああああああああッッツ!!!!!!』
叫び声を上げたのはリディアだった。
鼓膜が破れるような金切声が響く。
悲鳴だった。
どうしようもなく力強い悲鳴だった。
今までどんな場所や場面でも聞いたことのない、そんな常軌を逸したレベルの悲鳴だ。
リディアは両目を失った僕の表情を、感情を代弁するかのように叫びに叫んだ。
僕は我慢できずに両耳を塞ぐ。
部屋中に散らばった破片や家具、それから模造刀などの骨董品が揺れた。
カタカタと音を立てて不安定に揺れ続け、けたたましい音を立てて大きな窓ガラスが一枚割れた。
二枚、三枚と立て続けに大きな音を伴って割れてゆく。
部屋全体が軋んで震えている。
どこか遠くで魔獣の咆哮に似た大きな音がした。
何度も何度もその音は繰り返されている。
遠くに位置したアミットの中心街で何かが起こっているのかもしれない。
不安感がよぎった。
父さん母さん、サラ___
「おいペリドット! お前、無事なのか!?」
「無事では無いですが……生きていますよ」
「リディアさんが……もう俺たちは全員ダメかも知れないな…ふふっ」
「目が見えないので何が何だかわかりませんが、あのセブさんから笑いが漏れるくらいなら相当やばいみたいですね……」
「お前は余裕みたいだな……最後の最後までいけ好かない奴だ」
叫び声は止まない。
異常だ。
こんな得体の知れない狂気をうちに秘めていただなんて……僕は恐怖を感じた。
「お、おいリディア___」
そう声をかけた時だった。
驚異的な魔力が発生した。
さっきまで感じていた斑目の魔力よりも、ずっと大きくて危険な感覚に、僕とセブさんは声を失う。
『___完全体』
嫉妬の悪魔を名乗った白い大蛇の言葉がよぎる。
そうか……!
リディアは……助かってなどいなかったのか……!
衝撃波が全身を吹き飛ばし、僕らは壁に打ち付けられた。
ボロボロになった屋敷の壁は僕らと同じく満身創痍だ。
そしてリディアが呟き始めた。
『ペリ……ペリドット……あなたが好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすき好きスキすきアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「どうしたんだリディア!!! しっかりしろ!!!!!」
僕の呼びかけは虚しくかき消される。
「や、やめろ! うぎゃ」
「ま、待て、やめるんだ! がはっ」
トマとエーレ、二人の声が聞こえた。
そしてそれ以降、二人が声を発することは無かった。
なにが起こっているんだ……?
この両目じゃ、なにもわからないじゃないか!
____ドクン
こ……今度は……なんなんだ……!
急激な心臓の痛み、激しい動悸、息切れ。
身体中の寒気と倦怠感が一気に僕の身体を支配した。
まさか___
そんな僕の体の変化をよそに、リディアは奇声を発しながら暴れ回っていた。
セブさんが必死に止めようとしていたが、すでに大怪我を負っている体で止めることができるわけもなく、痛みに耐える声が途切れ途切れ聞こえた。
ひょっとするとセブさんもリディアの攻撃を受けているのかもしれない。
依然として僕の体の異変は収まらずに悪化していく。
「がはっ」
吐き気が込み上げ嘔吐した。
口を押さえた右手のひらが、やけにごつごつと大きく感じる。
自分の手じゃないみたいだ……
周囲から漂う血の匂いで腹が鳴る。
誰の流した血だろうか?
濃度の濃そうないい匂いだ。
たくさんの血の匂いがしてくらくらする。
きっと俺も、それを飲めば今よりもっと___
はっとする。
僕は今、人の生き血を欲していたのか?
そんな……
もう僕は、人では無いのかも知れない。
『いやはや、まあまあ。
これは面白くなってきましたねぇ』
この声は……!
『あなたは吸血鬼化し、娘は覚醒。仲間を斬り殺して街に飛び出さん勢い。
やはり私の苗代は最上のエネルギーを宿していたようですねぇ。
大魔術師たちは倒れ、このまま獣族の男も死ぬ。
暴走したあなた達二人はこの街を、いやこの国を滅ぼすのでしょう。シャシャシャ。
男も女も子供も見境なくねぇ。
そして友人も家族も手にかける二人への憎悪は、一体どこへ向かうのでしょうねぇ。シャシャ!』
あの白い大蛇の声だ。
嫉妬の悪魔を名乗理、リディアへ吸収されたあの大蛇だ。
認めたくなかったが、リディアから発されたその声に、言葉に、僕は絶望感を味わうのだった。
そうか……リディアはもう……
僕たちは、この国は……もう終わりなのかもしれない___
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