61「致命傷」
黒い粒子の大群から形成されたように現れたのは、真っ白な一匹の大蛇だった。
巨大な胴体は丸太のように太く、全身の鱗には小さく鋭い棘がびっしりとあった。
それは見た目こそはただの白い大蛇だったが、魔獣とは明らかに違う知性が滲み出る。
『おやおやどうしたと言うのですか? えっとそうですねぇ、あなた達の言葉でこう言うんでしたっけ? 確か、鳩が豆鉄砲食らったみたい。シャシャシャ』
ふざけている……?
突如現れた悪魔を名乗る大蛇は、小馬鹿にしたように嘲笑った。
「あのこを殺してくれてありがとう。そう言ったわよね?
それはどう言う意味なのか教えてくださるかしら?」
『おやおやまあまあ、そうなのです。
斑目、あなたには感謝しなくてはなりませんねぇ。
リディアの死によって、私は完全体になったのですよ。
この娘の柔らかく上質な肉体と歪んだ精神、私にとってこれ程までに好条件な苗代は未だかつてなかったのですよぉ。
いやはや600年、この娘と出会えて本当によかった!
いやいや、間違いがありました。
このレヴィア、まだ完全体とは言えませんでしたねぇ。
……まあ、暫くお待ちくださいな』
苗代?
600年?
悪魔を名乗る大蛇……
嫌な予感がする。
僕は冷たくなったリディアの遺体を強く抱きしめた。
「リディアは……誰にも渡さない!」
『ふーん。そうですか……あなたはまったくもって罪な男なのですねぇ。その優しさをこの娘にもっと与えるべきだったのでしょうが、それはもう終わったお話しでしょうねぇ。おやおやまあまあ、愚鈍』
ギュルン___
「……おごぉおっうッッ」
大蛇は信じられない速さでリディアの口をこじ開け、その小さな口いっぱいに自身の白く太い身体を捩じ込んだ。
「やめろ!!!」
引き離す間もなく大蛇はリディアの口にすっかりと入ってしまった。
「出て行けッ! リディアから出て行ってくれ!!」
リディアを激しく揺り動かす。
当然その目は開かない。
大蛇はいったいどこに行ってしまったんだ?
まるでリディアの中に……取り憑いているみたいじゃないか!
そのとき、リディアの目がうっすらと開かれる。
「……ペリ……? あたしは……どうして……?」
「リディア!!! 良かった……! 良かった……!」
僕は溢れ出す涙を拭いもせずにリディアを強く抱きしめた。
頬に触れると温かい。
首筋から甘い匂いが熱とともに発散されている。
「ちょ……ちょっと…! ペリ! はっ、離れろよ!」
「嫌だ…離すもんか!」
良かった。
いつものリディアだ。
しばらくの間手足をバタつかせて抵抗するリディアだったが、顔を赤らめ大人しくなる。
「もう…痛いって……」
「リディア……! お前は生きてるんだよな? リディアなんだよな!?」
「そ、そうさ? どうしたんだよいきなり! てかそんなことより斑目が……」
そうだ。
こんなことをしている場合ではない。
何故だか大蛇は消えてしまった。
けれどリディアが生き返ったのだ。
大蛇がリディアの口から入って以来、リディアの心臓部分の傷はすっかり何事も無かったかのように塞がっていた。
融合したということなのか?
わからないが、今はわからないことを考えている余裕もない。
目線を落とすと、衣服が破れ胸元が露わになっていた。
その大部分を目に焼き付ける。
残念、先端は見えない。
ふぅ……目に毒だ。
仕方がないと目を逸らした。
そして僕は自分の服を着させた。
大蛇のことは気掛かりだけど一先ず置いておこう。
今は斑目をどうにか……いや、敵う相手でないのならば、なんとかして逃げなくては!
「あらぁ。私も舐められたものだわ? ペリドットくん」
「逃しては……くれないみたいですね……」
「そうね〜。けれどあなたが警戒しなければならないのは私の存在じゃあなくってよ? ほら、あなたの可愛い幼馴染ちゃん、本当に大丈夫なのかしら?
嫉妬の悪魔……リディアちゃん? あなたがそうだとすると、私の手にはおえそうに無いわね。目的を果たしてズラかるとするわっ」
そう言った瞬間、僕の視界から斑目が消えた。
それこそ煙のように。
これも吸血鬼の能力らしい。
どこだ!!?
そう周囲を見渡したとき、目の前に斑目の顔が近づいた。
「ありがとう」
まずい。
僕の予見が1秒先の未来を見せた。
それは残酷なものだった。
1秒先、僕の視界は真っ暗だったのだ。
真っ暗。
光のない世界。
文字通りの闇。
即ちそれは、僕の視力の消失を意味していた。
つまり、僕の両目は斑目によって抜き取られてしまうのだった。
___グシャッッ
両目に激痛が走る。
温かい何かが顔面に溢れる。
熱い!
「あ、がぁぁぁっっ! クソッッ!」
斑目の目的は、アイリーンを殺すことだけではなかった。
僕のグリーンアイを持ち帰ることが奴の悲願だったのだ。
「ごめんねペリドットくん。お姉さん、あなたのグリーンアイが必要なの。命だけは取らないであげるから、恨んじゃ嫌よ? 先生は……とどめを刺さなくたって、もう助かりそうにはないわね。
まあいいわ、また会いましょう。
大丈夫よ。死にはしないわ。
まあ、生きているとも言えなくなるけれど」
斑目の声が近くに迫る。
視力をすっかり失ってしまった僕は、迫り来る脅威に恐れ慄いた。
その瞬間である。
……ガブリっ。
ガブリ……?
首筋に鋭い痛みと熱が走る。
「こっちの世界へようこそ」
___やられた。
何故、もっと警戒しなかったのか。
僕の身に、最も防がなければならないことが起きた。
吸血鬼を相手にする上で、僕たち人間が最も恐れるべきことが起きてしまったのだ。
僕は、斑目と呼ばれる吸血鬼から血を吸われてしまったのだった。
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