58「蜂」
『お主、目が光っておるぞ! ははは! かっちょいい!』
え!? 光ってるってどう言うことだよ!
自分で自分の目を見ることなんてできる訳ないし、今は動けないから鏡を、いや、それの代わりになるものを見ることもできないからな……その異変に僕自身が気がつく事など無かったとして……
アイリーンよ、教えてくれよ……
そんな異変なら教えてくれてもいいじゃないか。
目が光る人間なんて普通はいないよ?
それに、かっちょいいって……目が光ってかっちょいいことがあるのだろうか。
目が光ってかっちょいいのならば、夜行性の猫なんかの獣がたいまつの光を受けたときにも「かっちょいい」だなんて思うのだろうか。
いやアイリーンならそう思うのかもしれない。
目が光るというのはそれだけで異質だからな。
変わり者のアイリーンならば憧れを抱くのかもしれない。
むしろ、サラやガーネットなんかのいわゆる「美少女」を見つめるアイリーンの目もそれなりに光っていたが、あれはいったい何だったんだろうか。
まあ、野生動物感がアイリーンにも備わっていると思うと納得のいく話ではあるのだけれど。
と、そのときだ。
『かっちょいい』をきっかけにしたかのように、突然僕たちの耳に、視界に、前触れもなく時間が取り戻された。
「うわ! まだ何も話せてないじゃないか!」
その瞬間、時間とともに失われていた脚の傷が、目覚めたかのように、痛みを取り戻した。
ズキぃぃッッ
「く……」
石像の封印が解かれたように全てが動き出した。
なにごともなかったかのように時間が一斉に流れ出す。
「ねぇロベルト? あなたこのままじゃあ死んでしまうわよ? いつも先生が言ってるじゃない。あなたたち人間はからだが脆いんだから、初手で傷を負った方が圧倒的に不利なのよ?
それも、こんなに大っきな風穴を開けられちゃったあなたが、いまさら逆転なんてできる訳がないわ?
それに、この室内じゃああなたの火炎魔術も披露できないんじゃないかしら?
さあ先生を離しなさいな。とどめを刺してあげるわよ』
斑目は爪を振り上げる。
尋常ではないほど血管の浮き出た右手の先端のその凶器は、さらに鋭く、黒い霧を発しながら研ぎ澄まされた。
怖い。
僕は恐怖する。
僕はいつも恐怖する。
僕はいつも憤慨する。
誰だってそうだ。
恐れ、怒り、悲しみ、そして生かされる。
一体何回これを繰り返すのだろう。
繰り返した先になにがあるというのだろう。
何もなかった。
それが今までの僕だった。
この恐れは、怒りは、悲しみはどこから来るのだろうか?
……そうだ。
この数々の感情は『失うこと』から来るのだ。
アイリーン。
ロベルトさん。
セブさん。
サラ。
シルビアさん。
ガーネット。
父さん。
母さん。
大切な人々。
僕はみんなを失いたくはない。
けれど僕は、ロベルトさんとアイリーンの二人をこれから失ってしまうのだ。
「待て……斑目……!」
嫌だ。
そんなのは絶対に嫌なんだ。
「あら〜。二人を殺した後にたっぷりと可愛がってあげようと思っていたけれど、そんなに早く死にたいのかしら? ペリドット君」
斑目が振り返ったあと、セブさんが僕の隣に並ぶ。
「おいペリドット。俺はまだまだ死ぬわけにはいかないぞ。生きのびてやらなければならない事が山ほどあるんだ。
それに、さっきの話もまだ終わっちゃいない」
「僕もです……待たせている人がたくさんいるんですよ」
「あらあら、かっこいいこと。フフ」
とにかく隙を作るんだ。
斑目の隙をついてアイリーンたちを救い出す!
「『闇の綻びよ いま眼前を 霧となせ スモーク!!!』」
最大限の出力で闇魔術師『スモーク』を放った。
黒煙が斑目とその周囲を覆い尽くす。
セブさんは狙いを定めていた脇から駆け込み、アイリーンたちを目指した。
しかしその瞬間、スモークは一蹴される。
締め切っている筈の室内を、突風が吹き荒れたのだ!
これはアリスさんが得意とした風魔術!
一瞬にして黒煙は消え去る。
そこに紛れていたセブさんが小さく舌打ちをした。
そんなセブさんを斑目は逃す筈がない。
鋭利な爪先が強靭に鍛えられたセブさんの右肩の肉をえぐった。
「ぎッッ……!」
しかしセブさんは引かない。
傷を負っていない左肩が大きく旋回したかと思うと、斑目の首元で血が舞った。
セブさんの全力の斬撃が斑目の肩からたすき掛けに、皮肉にもその細く美しい首筋を大きく切り裂いた!
斑目は文字通り首の皮一枚で繋がった頭部を大きくもたげ、鮮血を吹き流した。
しかし、それだけだった。
次の瞬間には、切り口はすっかり元の状態を探すようにくっ付いて、元通りの綺麗な首筋を露わにさせた。
完全治癒。
やはり吸血鬼。
常識が通用しない相手だということだ。
セブさんは距離をとって、右肩の傷を抑えた。
結局のところ、今の攻防で与えた傷は皆無。
セブさんは利き腕に重傷を負ってしまった。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、お前にくらべれば大したことはない。しかし、万事休すとはこのことだな。勝てるイメージが全く湧かない……!」
僕の足の傷とセブさんの肩の傷は、比べても優劣がつかないほどに、ともに痛々しい。
「あ〜ん。イライラするわねぇ。私の服が裂けちゃったじゃない。もう、ふたりともエッチなんだから〜」
「だ、黙れ化け物……」
セブさんが苦しそうな声を漏らした。
そのあたりからか、僕はだんだんと視界に靄が掛かるのを感じていた。
まずい……血を流しすぎたのかもしれない……
丁度僕の意識がだんだんと遠のき始めたころ、僕は信じられない光景を目にする。
ある人物が来たのだ。
助けに来たのだ。
僕たち全員を、救いに来たのだ。
そんな勇気のある人物に、僕は素直に頼る事ができない。
いや、できる筈がない。
僕はこの時にこの場所で、もっとも会いたくない人物に会ってしまったのだ。
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