50「家族とは」
「もういい。もういいよアイリーンさん……」
そう遮ったのはリディアだった。
とても弱々しい声だった。
誰もが黙ったままだった。
こんなにも重すぎる話を、僕はアイリーンの口から聞きたくはなかった。
誰もがそうだった。
ロベルトさんは眼鏡を取って遠くを見つめ、アリスさんは……アリスさんは何を思っているのだろう。
表情に色がない。
僕の知らないアリスさんがそこにいた。
草原を駆ける風のような、少女のようで、しかし色気を纏った彼女。
不思議な生い立ちの、記憶を失った少女の過去。
兄弟子との恋。
実らなかった、いや、失われた二人の未来。
大切な者を失った悲しみと、大切な者を自身の手で葬った苦しみ。
いずれについても、今の僕には想像がつくはずもなかった。
僕はアリスさんの目を覗くことができないでいた。
◇◇◇
___翌晩
討伐隊はミリシオン家の邸宅を囲む森を歩いていた。
ガーネットの協力もあり、一番隠密に侵入できる経路で進んでいる。
討伐隊は、リディアを除く騎士団の団員4名とアイリーン達、魔術師3名の計7名だ。
前衛はゼパイルさんとセブさんと僕。
その後ろを魔術師が固め、殿を副団長が務める。
エイル副団長は、昨晩のいざこざで新しい剣を早急に新調しなければならなかった事もあり機嫌が悪い。
そんなのは自業自得だと言ってやりたいところだったが言えるはずもない。
たとえ尊敬に値しない人間でも上司は上司だ。
一応のこと立ててやらないと後が怖い。
と、そんな風に考えてしまう自分に少しだけがっかりしたのと同時に、大人になるってこういうことなんだと妙な納得をするのだった。
そんなとき、普段は殆ど会話を交わすことのはいゼパイルさんが僕にだけ聞こえるような音量で語りかける。
「おい団長の倅。
確かペリドットとかいったか? 俺は、いや、俺や副団長はお前の親父さんに恩義がある。だが、昨日の振る舞いは許されることではないだろう。
次は無いと思え。
団長は俺にとっても父親同然だ。
何が言いたいかわかるか? そうだ、お前は弟になる。
兄は弟を導かなければならないだろう。
俺達は家族だ。わかるな?」
「ええ。ありがとうございます……」
そうゼパイルさんから諭されてしまった。
僕達は兄妹で家族か……
僕は理解が足りなかったのだろうか。
そうなのだろう。
けれど、僕は僕の行動が間違いではなかったと思いたい。
僕達が兄妹だとしたらリディアは妹だ。
妹を守るのは、導くのは兄の役目だ。
それだけは信条にしたかった。
アイリーンと弟子たちとの関係性を考える。
それも家族と似たものだった。
アイリーンは母親、いや父親になろうとした。
エイル副団長やゼパイルさんを始め、団員からの信頼を集める父さんの事を、一番知らないのは実の息子である僕なのかもしれない。
◇◇◇
ガーネットの実家、要するに領主様の住むミリシオン家の敷地は驚く程に広い。
地図やコンパスもなく歩けば間違いなく迷ってしまうだろう。
いや、遭難と行った方が正解だろうか。
しかもこの森には魔獣が住んでいる。
なぜこんなに危険なところに住まなければならなかったのだろうか。
すると僕の心を読んだようにロベルトさんが話してくれた。
「小僧、このあたりの魔獣を殲滅させないのには理由がある。並大抵の盗賊じゃあ簡単には侵入できないようにするためだ。
小僧のような雑魚が気を抜いて歩いていると、10秒後には魔獣に襲われ、20秒後には命を落とす。
ボサッとするな」
雑魚は余計だと思ったけれど、口が悪くてもロベルトさんはいつでも僕を気にかけてくれる。
この人もしかして、いや確実にツンデレ気質だ。
僕は『予見』を展開して進んだ。
この呪いの副作用は少し先の未来が見えるのだけど、展開しっぱなしだと疲労感がすごい。
調子に乗って1日中展開した次の日は高熱と頭痛に悩まされた。
今回に限っては戦闘を控えている分、無闇矢鱈に使えない。
しかし、この森では、いつ敵が襲いかかってくるのか分からない。
そんなとき、『予見』が魔力の動きを捉えた。
『ペリドット! 近くに魔獣が居るよ!』
「(ああ。僕も何かを感じたよ!)」
「皆さん! 魔獣が潜んでいます!」
「……何? 何故分かる!? 」
「話は後です!」
見えた!
ゼパイルさんの左側から大きな獣が……!
これは熊か……?
飛び出して来たのはヘルグリズリーだった!
森の中とはいえ、アミットにこんな魔獣が生息しているだなんて!
『果てなき闇』
アイリーンがそう呟いた瞬間、ヘルグリズリーは黒い煙となって消えた。
一瞬だ。
僕達は呆気にとられた。
やはりこの人は強い。
いや、強いなんてものじゃない。
最強なんてものじゃない。
この世の理と表現できる程、全てを超越している。
……ゴクリ。
セブさんが生唾を飲む音が聞こえてきた。
副団長やゼパイルさんも、己との力量の差をまざまざと見せられ、明らかに落胆している。
___大丈夫だ。
この人がいれば、吸血鬼も倒せるだろう。
それ以降も、何度かヘルグリズリーとの戦闘になったのだが、3人の魔術師の力によって、僕達は無傷でミリシオン家の邸宅に辿り着くのだった。
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