36「セブの場合②」
セブは奮闘した。
冒険者としての意地を見せたのだ。
奮闘の末、なんとか一角獣を打ち負かした。
低級だが、セブは冒険者としてのキャリアを着々と積んでいたのだ。
例え大きな角をしていたとしても、仲間の腹を突き刺していたとしても、セブは恐れなどしていなかった。
それは仲間を守ろうとするセブの優しい性格の現れだったのかもしれない。
一角獣は派手な音を立てて倒れると目の光を失い絶命した。
彼もまた、自然に還るのだろう。
さあ、これで終わりだ。
セブは、ミネラの力なくうなだれたその重い体を、引きずるように抱かかえた。
早急にミネラを連れ帰ろう。
何とかなった。
よかった……何とかなったのだ。
だが、セブは甘かった。
一角獣は群れで行動する魔獣である。
一介の冒険者なら、一頭の一角獣を見つけたならば、群れの存在を警戒するだろう。
しかしながら、ぎりぎりの状態の中、辛くも勝利した事への安堵感に油断をしていたセブは、いつの間にか大勢の一角獣の群れに取り囲まれてしまっていたのだった。
その数、約10頭。
異常な数だった。
恐怖。
セブは押し寄せてくる白い鉄壁のような圧力と、長く尖った角への恐怖に呆然とするしか術を持たなかった。
______どうやっても、俺一人の手には負えない
”いつか、俺はドラゴンを倒す”
そんなのは、夢のなかの更に夢物語だったんだ___
俺はこうやって死んでいくのか。
つまらない人生だった。
去勢と落胆の繰り返しのような、それだけの人生だった。
ドラゴンを倒す?
バカバカしい。
そんな事ができるやつは、幼い頃からどこか違ったやつだ。
天才というやつだ。
俺はそういうやつとは違った。
そういうやつでは無かったんだ。
生まれつきに決まっていたんだ。
俺が何になりたくたって、どんなに強くなりたくたって、そんなことは始めから決められていたのだ。
誰が決めた?
神か?
誰でもいい。
俺の人生なんてものは、誰かに操作された出来損ないの作り物だ。
もういいや______
己の人生を諦めかけたその時、正面の一頭が首から血を噴き出して倒れるのが見えた。
「!!!?」
その様子に驚き、言葉も出ないセブ。
それを皮切りに、周囲の一角獣達も次々と血を吹きだし倒れてゆく。
鮮血が飛散する木々の間に、飛ぶように走る人影が見えた。
______それは、たった一人の少女だった。
肩の上で切り揃えられた赤い髪が、体の動きを追いかけるように揺れ、健康的で美しい顔面に鮮血を浴びてもなお、少女は攻撃の手を緩めない。
空を舞うかのような躍動感とスピード。
飛び散る赤い血は花弁のように舞う。
彼女と花弁のコントラストの美しさは、呆然としたセブの心に深く焼き付いた。
少女は瞬く間にすべての一角獣を、一頭残らず斬り倒す。
血の匂いが辺りに充満していた。
『さあ立って! 早く医療班に連れて行くよ! あなたは……大丈夫そうだね! 手伝って!』
血まみれの少女はセブにそう告げると、名乗りもせずにミネラの左肩を抱え上げた。
「あなたはそっち!」
「あっ、ああ」
セブは右肩を持ち上げて彼女に従った。
少女とセブが並ぶとセブの方が身長は高く、なぜだか情けなく感じるのだった。
少女はアミットにあるラスラ騎士団の団員だった。
あのラスラ騎士団だ。
なるほど。
この強さも頷ける。
リディアと名乗ったこの少女は、セブよりも2つも若かった。
リディア達は魔獣の異常発生の調査でこの森に来ていたらしい。
詳しくは極秘任務だと明かしてはくれなかったが、そんなことはセブにはどうだってよかった。
少女は気さくで強くて美しかった。
対するセブは弱くて間抜けだ。
医療班のテキパキとした施術に感心しながら、セブはリディアと他愛もない会話を交わす。
先ほどまで、魔獣の群れを相手に立ち振る舞っていたとは思えないほどに、リディアはごく普通の女の子だった。
返り血でまみれ、狂暴に見えなくもない顔を拭くと、美しい顔が覗いた。
ミネラは医療班の回復薬によって一命をとりとめた。
安心した。
ミネラの家族に、悪い説明をしなくて済むという現状が単純に嬉しい。
施術の終了を確認すると、リディア達は早々に森を立ち去った。
目覚めたミネラを負ぶって町に戻る途中、セブは言いようのない喪失感を味わった。
あの美しく強い女の子を失ったような気分になる。
いいや、そんなのは錯覚だ。
なにせ彼女はセブとは違う世界の住人だったのだ。
諦めたくない。
俺は……
”強くなって、いつか彼女の隣が似合う、そんな剣士になるんだ”
セブの目標は簡単に塗り替えられた。
それは彼にとって重要な指標となる。
言い訳もできない程に、セブは恋に落ちていたのだ。
______そして試験当日。
都会の喧騒。
人が多い。
お祭り騒ぎか?
暢気なもんだ。
___見つけた。
すぐにわかった。
あの日の少女だ。
あの日の、美しく強い俺の女神だ。
アミットにいるとは思っていたが、こんなに早く見つけられるとは!
あの日のお礼を……
試験会場でリディアを遠くに見つけたセブは、駆け寄ろうと思ったが、隣に立つ男の存在に気が付き立ち止まる。
その男は慣れ慣れしくもリディアと寄り添って歩いていた。
そして隣を歩くリディアの表情……
そうか……
彼女はきっとあの男のことが好きなのだ。
もしかしたら両思いなのかもしれない。
俺はピエロだ。
そんなことも知らずに、彼女を追いかけてきてしまった。
たった少し話しただけなのに。
「あの男……許せない……」
怒りの矛先は隣の男に向いていた。
辛くも試験を突破したセブは、ラスラ騎士団への入団を許された。
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