19「対等」
「______待たせたな」
その声が耳に届いたその時、何かに耳を塞がれたように全ての音が消え去った。
周囲の色という色が失われ、道しるべを無くした感覚。
全ては一瞬の出来事だった。
色のない世界で、白い玉がいくつも出現する。
その白い玉のようなものは、複数個現れては一点に集中し、ベヒモスの心臓を貫いた。
ベヒモスの心臓には巨大な穴がすっぽりと空いていた。
次第に穴の周りから血液が滲み、すぐに滝のように流れ出た。
ベヒモスは少しも声を上げることも叶わないまま、大きな音を立てて地面に倒れた。
___一撃。
そう一撃だった。
それもベヒモスに触れることもなく、一瞬にして絶命させた。
こんなことができる人物を、僕は一人しか知らない。
五大魔術天に数えられる伝説の魔術師。
時魔術の先駆者。
その名も、〝幻想の魔術師アイリーン〟である。
横たわるベヒモスの上に一人の少女がゆっくりと降り立った。
真紅のローブを纏い、紫色の髪が揺れている。
首に巻かれたスカーフもふわりと揺れる。
その目は怒りに満ちていた。
「茶番は終わりじゃ」
未だ感じたことのほどの高圧的な魔力。
その怒りの矛先は闘技場を構成するこの組織全体に向けられていた。
「アイリーンさん……?」
「呼ぶのが遅いのじゃよ! バカ者!!」
『な、な、なんとぉぉぉぉ!!! 突如乱入した何者かによって、ベヒモスが一撃で倒されましたぁぁぁぁ!!! い、いったいあの少女は何者だぁぁぁぁぁぁ!!?』
沸く観衆。
へたり込む僕。
す、すごい……
まさに圧倒的。
「誰だ? あのガキ」
「何かの仕掛けだろ?」
「もしかして運営の演出か?」
「どおりで。あっちのガキの動きも異常に良かったもんな」
「なんだ、そういうことかよ」
「ヤラセはいらねーんだよ!!」
観衆は思い思いの持論を展開している。
「なんじゃコイツら。うるさいのぅ。全員ここで殺してやろうか______」
アイリーンさんの髪が浮き上がるように広がる。
「ま、待ってください! 妹が攫われているんです! 手がかりを聞き出さないと……」
サラの身の安全を確保しないまま立ち去るわけにはいかない。
それに、アイリーンさんが一緒なら、サラを救い出すことができるのかもしれない!
「もう大丈夫ですわ」
この声は……アリスさん?
「妹ちゃんならここよ。もちろんリディアちゃんも無事よ」
「お兄ちゃん!!」
サラが客席の脇から姿を現した。
アリスさんも一緒だ。
「サラ!!! 良かった……良かった……」
「もう、お兄ちゃん泣かないでよ」」
「ペリドット、今回は守護精霊に感謝するんじゃな。
妹君の居場所を教えてくれたのは彼女じゃぞ。
どこの街にもこういう地下組織は存在するものじゃ。
しかし、領主の住むこのアミットにも存在するとはな……。
この街は少々闇が深いのかもしれんぞ。
因みにこの場所を吐いた奴らは……何かムカつく奴等じゃったからのぅ。
組織ごと壊滅させたわい」
知らせてくれたのは僕の守護精霊だって……?
「まだまだペリドットの魔力じゃ会話することも視認することもできんじゃろうが、彼女も彼女なりに頑張っておったのじゃよ」
守護精霊……
そうか、僕は魔力が無いから君を見つけることができないのか……。
君はいったいどんな女の子なんだい?
女の子って言ってたけれど、今の僕に声は聞こえないし見ることもできない。
なんて僕はちっぽけなんだ。
僕やサラのことを助けてくれたのに、面と向かってお礼を言うこともできないだなんて。
僕はそのとき決意した。
必ず魔力を蓄えて、彼女と会うんだ。
そして、顔を見て感謝の言葉を言うんだ。
「ありがとう……」
僕は何もない空間に礼を言った。
そして改めて、大きな声で宣言をするように言う。
「い、いまは、君を知ることができないけれど、必ず僕は君と出会うと誓うよ! そのときは、君の目を見て、君に触れて感謝の気持ちを伝えたい! だから今は、伝えることができないかもしれないけれど、本当に、本当にありがとう!!」
彼女は命の恩人だ。
「ははは! 恥ずかしいやつめ。じゃが嫌いじゃないぞ。
いいや寧ろ好きなくらいじゃ。ソウルメイトよ。はは!」
そのとき僕は気づいてしまった。
アイリーンさんにとっては、僕が命の恩人。
なるほど、こんな気持ちだったのか。
アイリーンさんが呼び捨てにこだわる理由がわかった気がした。
アイリーン。
そう呼ぼう。
僕とアイリーンは対等だ。
「さあて、こやつらはどうするかのぅ」
アイリーンは両手のひらから青く燃え盛る魔弾を浮かべ観衆を見渡した。
「アイリーン!」
突然の呼び捨てに驚いたあと、アイリーンは「にしし」と笑った。
「助けてくれて。ありがとう!」
「当然のことをしたまでじゃ」
観衆は状況が飲み込めずにいたが、恐ろしく強い魔術師が自分たちに敵意を向けているという現状は察知したらしい。
観衆は一斉に出口へと逃げ出して行った。
さながらパニック状態の闘技場を見て、やっと終わったのだと僕は安心した。
サラが駆け寄って来る。
その白く滑らかな膝の上に倒れ込むように頭を乗せると、いつの間にか僕は眠りについた。
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