17「地下闘技場!」
ついにベヒモスが動きだした!
奴はのそのそと檻から歩み出る。
大きな頭部には禍々しいまでに尖った2本の角が剥き出しになり、濁った黒い瞳、顔よりも大きく開きそうな口、手足は短いが鋭い爪を持っていた。
張り出した背骨に沿うように鬣が尾まで続く。
教科書で見たベヒモスの挿絵は人間に対してとても大きく、その角は天を貫くが如く長く黒光りしていた。
ひょっとすると、このベヒモスはまだ子供なのかもしれない。
全長は想像よりも短いが、人間の僕の2倍はある。
可哀そうに。
お前も僕と同じように連れて来られたのか。
だが同情なんてしている余裕はない。
さあ、どうする……?
のそのそと歩み寄るベヒモスに対して僕は短剣を構えた。
低ランクの野犬のような魔獣を相手にしたことはあるのだが、ここまで巨大な生物を相手にしたことはない。
焦るな、落ち着け、こういう時こそ父さんの教えを思い出すんだ。
何度も何度も言われて来たじゃないか。
『ペリドット。サラを守りたいのだろ? ならば強くなるんだ』
あの日の父さんの存在はとても巨大で強かった。
父さんはなんて言った?
そうだ。
『剣先は相手の急所を常に意識して構えよ』
父さんの教えを思い出した。
ベヒモスの急所?
この場合は、額なのか? それとも喉元か?
『間合いを常に意識せよ』
圧倒的にリーチの長いベヒモスに対して、どう間合いを維持するんだ?
そうか、攻撃の瞬間に詰めて刺す、引いて、また詰めて刺す。
イメージは簡単だけど本当にできるのか?
『急所を晒して引き付けて打て』
いや、これは対人用だ。
魔獣に急所を狙うだなんて概念があるはずない。
そうこう思案している間に奴は、口からよだれを垂らしながら向かって来た。
「!!!」
大きく左に避ける。
ベヒモスはゆっくりと振り返る。
奴にとっては僕なんて只の食事に過ぎないのかもしれない。
舐められたもんだ。
その証拠に全力で向かってくることは無い。
剣先は額と喉元に絞って向ける。
押し寄せて来ては躱し、押し寄せて来ては躱し、そんな状態がしばらく続いた。
ダメだ! このままじゃ埒が明かない。
それに、奴が本気になるのも時間の問題じゃないか。
油断しきっている今が一番闘いやすいのかもしれない。
やるか?
やるしかない!
次に攻めてこられた時には喉を狙って切りつけてやる!
ベヒモスが再度歩み寄ってくる。
僕は手汗をズボンで拭き、短剣を握る手に力を込めた。
剣先は喉元へとしっかりと構える。
左足は敵方に、右足は後ろにしっかりと踏み込む。
奴とは距離は約3歩。
今だ!!
僕はタイミングを合わせて奴の左首元に飛び込んだ!
刃先を立てて肉をえぐる。
ザシュッッッ!!
硬いが手応えを感じる。
そして素早く剣を抜き、再度間合いを保った。
「グワッッッッ」
不細工な声を放って奴の首から血が垂れた。
しかし、出血量は大したことはなかったようだ。
捨て身の一撃がこの程度……
だが少なからず効いているはずだ……!
観客は固唾を飲んで傍観している。
そんなこととは関係なく、奴は今や興奮に目の色を変えていた。
一撃目は軽い攻撃だったが、やはり出血を伴った分、痛かったのだろう。
ヤバイぞ……
一撃で決めようと思っていたのにこの状態はマズい。
興奮させてしまっただけじゃないか。
案の定、興奮したベヒモスの動きは速い。
まるでさっきとは違う生き物かのような俊敏さ。
僕は二撃目を入れる機会を計れないでいた。
このままじゃ、僕の体力がもたない……
足は既にガクガクと力を失いかけていた。
それでも押し寄せてくるベヒモスを躱さなければならない。
紙一重の回避劇が繰り広げられた。
そんなこととはわからずに、あまりの動きの無さに観客の中には少々飽きが来ている者もいるようだ。
このときからだ______
このときから、僕は自身のある変化に気が付く。
信じられない話だが、僕はその変化をありありと感じていたのだ。
不思議なことに、途中からベヒモスの動きが読めるような気がしてくるのだ!
次は左、次は右、真ん中______
どういうことだ?ベヒモスの動きがおかしいような……。
こ、これはまさか……?
いや、間違いない!
読めるぞ!
ベヒモスの動きが少し早めに読める!!
右、真ん中、右、左、左______
いっこうに獲物を捉えることのできないベヒモスに、観客が疑問を感じだした。
「あのガキ、先に動いてねぇか?」
「バカ言え。有り得ねぇだろ」
「だよな。有り得ねえよな……」
「あ、ああ……」
「だけどよ。やっぱり、先が見えてるんじゃねぇか?」
観客たちに呼応するようにアナウンスが響く。
『おおっと!? 勇者の様子が変だぞォォォォォォ!? まるでベヒモスの突撃を先読みしているかのようだ!! さすが二級剣士! 驚くべき身のこなし!!!』
観客たちのざわめきの中、一人の女とその従者である小柄な男もこの戦いを観戦していた。
「……ご主人様。あの少年どう思われますか?」
「ええ。あれは見えているわね。魔道具ではなさそうだし、魔術でもない」
「と、しますとあれは一体……」
「呪いの類かしらね。マモンやアスモデウスが得意とするちんけなものだわ。〝祝福〟と呼ぶには程遠い」
「七悪魔の戯れでございますか……。神は〝選ばれし者〟とも言っておるようですが」
「どちらにしても……面白い子だわ…………」
刹那の、感覚にしてたった一突き分の隙間。
僕のステップと奴の油断が奇跡的に嚙み合った。
次の瞬間、僕の放った二回目の攻撃がベヒモスの喉を貫いた。
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