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16「地下闘技場?」

 訳の分からない僕は、引きずられるように光の方へと歩かされる。

 その時、鼓膜を叩くような音圧が体の中にまで響いた。


『レディース・エーンド・ジェントルメン!!

 人々はなぜ戦うのか! なぜ人生に抗うのか! 野生と人間との狂宴! 今宵も選ばれし勇者が、荒ぶる魔獣との戦闘で我々を楽しませてくれるでしょう! さあ、宴が始まります!!』


「オォォォー!!!!」



 袋を頭に被せられたままの僕は、大音量のアナウンスとそれ以上に大音量の歓声を全身に浴びて停止させられた。

 なにが起こっているんだ?

 宴?

 どう考えたってそんな楽し気なものじゃないだろう。

 ここで僕はきっと何かをやらされるのだ。


 袋の中からも異常に感じる程のライトの明るさが目に伝わる。


『今宵の選ばれし勇者は、若干16歳にして二級剣士(セカンズ)の称号を持つ青年! 父はラスラ騎士団長にして元Aランク冒険者。その実力は未知数! その名も、ペリドット・アーガイルゥゥゥ!!!』


 紹介と共に袋が取られ、両手が解かれた。


 僕はリングの中にいた。

 眩しい……

 リングの広さは、大人が20人程度は剣術の訓練ができる程に広く、眩いばかりに照らされている。

 明るさに目が慣れ、辺りを見回した。


 なんとリングの周辺には、リングの僕を見下ろす形で客席が設けられ、一杯の観客が僕を取り囲んでいたのだ。

 観客の視線が恐ろしい。

 こいつらは何故にもこんなに冷たくも興奮した眼差しができるのだろうか。


 まさか、ここは闘技場か……!?

 賑やかな都市アミットの地下に、こんな施設が存在していただなんて……

 それにさっきの紹介、父さんの名を恐れずに語っていたよな。

 ふざけやがって……

 父さんをコケにされたような気分だ。


 会場にはぎっしりと観客が座っている。

 主催者はどこだ? 

 あたりを見回してもそれらしき特別席も無ければ目立つ人物もいなかった。

 どうやらここは、用心深く完成された興行施設のようだ。



「まだまだガキじゃねえか!」

二級剣士(セカンズ)ですって。楽しみだわ」

「さっさと始めろ!」


 あたりから怒号が飛び交う。


 いったい、僕が何をやったというのか。

 そして一体何をやらされるんだ……?



『お待たせしました! 対する今宵の討伐対象はこちら!! その角は数多の冒険者の心臓を一突き、アルグスト荒野の暴れ者。なんと捕獲にはCランク冒険者1名が犠牲となりました。その恨みを今夜晴らしてくれるのか? ペリドット青年の運命やいかに! ベヒモスの登場です!!』


 べ、ベヒモスだって!!?


 ガシャン!


 前方の金網が開かれた。

 真っ暗な檻のなかに()()()いる。

 ここからは全容は把握できない。


 檻の中のそれは「フシュー」だとか「グルルル」だとか、そんな物騒な音を立てながら(うめ)いて、ただじっとしている。

 獣臭さがこちらまで伝わってくる。


 落ち着け僕。

 まずは状況を整理しよう。


 僕とリディアはサラを探すために石切り場の屋敷に忍び込んだ。

 そこには人っ子一人いなくて、諦めて出ようとしたときに地下への階段を見つけたんだ。

 僕たちは手分けして地下牢を探索した。


 壁の血文字に気を取られた僕は、ジョズから殴られて気絶。気がつくとこの地下組織に運ばれていた。

 ここは屋敷から秘密の通路を通って進んだ地下組織の闘技場らしい。

 そして今から訳も分からずに荒野の魔獣ベヒモスと戦闘させられるのだ。


 リディアはどうした?

 あいつは無事なのか?

 それともリディアもこの闘技場に?

 いくらリディアが期待の新人だと言われるほどに強くたって、ベヒモスと戦うだなんて無茶もいいところだろ。


「早く始めろ!!」

「殺せ!!」

「血を見せろ!!」


 物騒な野次が飛ぶ。


 ジョズの言いぶりによればサラは無事だろう。

 確か、依頼だ金だとか言っていたな。

 クソッ! やっぱり犯人はあの変態野郎じゃないか!!


 いやいや待てよ、今はそれどころじゃないだろ?

 目の前には魔獣。

 それもベヒモスがいるんだ。

 ベヒモスだなんて魔獣、教科書の挿絵でしかみたことないぞ。


 僕とベヒモスとの距離は……20歩も離れていないじゃないか。

 ベヒモスと言えばBランクの魔獣だ。

 恨みを晴らすことができるか? ってそんなの知ったこっちゃないじゃないか。


 こんな魔獣に僕が敵うわけがない。

 そうか、観客は僕が痛ぶられ、なぶり殺されるのを楽しみに来ているのか……全く悪趣味な連中だ。


 武器は腰の短剣一本。

 幸い頭痛も無いし視界も良好だ。



 やれるか……?



 クソっ! やれるかやれないか、そんなのどっちでもいい。

 やるしかないじゃないか!



 僕は魔獣ベヒモスと真っ向から決闘する。

 僕の平凡な日常は、今や跡形もなく消え去っていた。

 (さら)われた挙げ句、こんな場所に放り込まれるだなんて……


 リディア、お前は無事なのか……?


 しばらくじっとして動かないベヒモスを刺激するように、ベヒモスの頭上から長槍が向けられた。

 長槍はベヒモスの目のあたりに一刺し傷を与えると、簡単にへし折られた。

 興奮したベヒモスは咆哮を上げる。


「グウォォォンッッッ!!!」


 人々は一瞬怯み顔を見合わせた。

 そして大歓声が巻き起こる。

 会場の興奮は最高潮だ。

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