第68話「ゲオルの死んだ魚の様な瞳……その理由は『誤解』」
今から出ちゃうので念の為予約で入れました。
上手くいけばコレが読めているはずです。
2話目は後程!
3人娘は歯を磨いたあとは懲りずにレイカのところに行って、スライムに鳩の魔物のクルッポーっと遊んでいた。
スライムもクルッポーも遊び終わると、僕と美香のところに戻ってくるので飼い主と遊び相手を見分けている様だ。
テロルとマッコリーニは意見が合ったらしく、遊んでいる間は常に心配そうに遠巻きから様子を見ていた。
小さい子が居るので安全のため僕は魔物避けチャームをコッソリ出してリュックに括り付けた。
エクシアもマッコリーニも実は出していた様だ…それに気がついたのは朝だった。
翌日早い時間から馬車を泥濘から出す事になった。朝食を結菜とコックが作り始めたのを合図に冒険者が起き始め、皆で馬車の所まで行って朝飯前の一仕事と言って馬車を出していた。
馬車は壊れてはおらず、馬さえつなげば普通に使えそうだったので、冒険者と入れ替わりで兵士が馬を連れて行き馬車を引いて戻ってきた。
暗闇では豪勢な感じを知る事はできなかったが、朝日を受けた馬車は男爵の持ち物にふさわしい見栄えだった。
一部ウルフの噛み跡や肉球跡があるのだが、現代人にしてみればアクセントの様に付いた肉球跡は可愛かった。
昨日に続き焼肉祭りを朝から行い大満足な冒険者一同は、それぞれの目的地に向かい歩き出す。
僕等にとってはこの世界で初めての『街』だ!
僕らは野営地を出発して2時進程もかからず前にジェムズマインの街の検問まで僕達は来た。
こんな近いのならいっそ門まで来ればよかったのに……と言ったら。
夕暮れと共に門が閉まり、翌朝まではよほどな事がないと通らせてもらえないらしい。
なので時間がずれて門についてしまった場合は門の前で夜営と言う恥ずかしい事になるらしい。
安全な事は安全だが後から来る冒険者の目は痛いものになる。
この世界には電気の街灯がないのだ。
日が暮れると篝火が焚かれるし、燃料費も馬鹿にならないので早く寝てしまうのだ。
異世界は朝日と共に起き出し、夕暮れ前には仕事は終わるのだ。
大きな城壁はファンタジー映画の様な重厚の作りのままだった。
城壁の周りには人工のお堀の様なものが作られて、水路のようなものがこっちの方まで続いている。
魔物除けだろうか?それとも別の用途だろうか?お堀の場所から正面口を通らねば直接城壁に張り付けない造りになっていて、お堀は中途半端に何故か森の入り口付近まで続いている。
城門付近には身分を確かめる為と思われる兵士達が数人ずつ並んでおり、検問を受ける旅人や商人、冒険者は列を作るそして商人の荷馬車は中身を慎重に調べられている。
並ぶ列の中には冒険者もいて、横柄な態度をするものや真面目な態度の者など様々で、列の少し前を見ると別の入り口があり貴族専用の造りの門構えで兵士の態度も貴族に対しては挨拶程度だった。
貴族用の入り口手前に見慣れた馬車が停まっている、僕らが助けた騎士テロルの馬車だ。
僕らの列に比べて手短に処理が終わるせいか、苦も無く門をくぐって進んで行く。
暫く貴族と思われる列を眺めていたが貴族を捌き終わると何やら動きがあった、リーダーと思わしき衛兵が数人の兵士を連れて大きな声を発しながら、列に近づき歩いてきた……そのせいで列が騒ついている。
「マッコリーニ商団とギルド・ファイアフォックスの者は居るか!繰り返す!マッコリーニ商団とギルド・ファイアフォックスの者は居るか!」
「はい!マッコリーニ商団のマッコリーニです。」
「なんだい?私に何かようかい?ギルドマスターのエクシア・フレンジャーだよ!」
一般列に並ぶ皆の見る目が衛兵に呼ばれた二人に集まるが、そんな事はお構いなしに衛兵は二人に向かって話し始める…
「まずは、御二方の身分確認をさせて頂きます。列を抜けて此方までお願い致します……事情の説明をいたしますので何卒ご協力を。テロル様と言えばお分かり頂けますでしょうか?」
促されるままに少し離れた先に居るリーダーらしき衛兵の側に2人が向かう。
衛兵は二人にのみ聴こえる様に簡潔に説明をした。
「男爵様の御令嬢、アープ様、イーファン様、ウーファン様の救出!ご苦労様でございます!騎士テロル様から事情を伺いました。」
「昨夜の事になりますがC級ギルド『番犬』は嘘の報告をしたことが今しがた分かりました。テロル様及び御令嬢3名の存命により判明した為、現在は衛兵による捜索をする旨となりました。」
「つきましては、大変お手間をかけますが当時の事情の説明と現在の状況の報告をお願い致します。一応警備上の決まり事でありますのでご協力願います。」
そう言われると、エクシアもマッコリーニも従う。
「商団の皆さん此方へお願いします。」
「おい!お前たちまた一仕事増えそうだよ!こっちに並びな!」
2人がそういうと衛兵が言葉を続ける。
「身元確認及び積荷の確認等此方の貴族入場門にて行いますので、一般列には並ばずに此方までお願い致します。確認時間は手間をとらぬ様に出来る限り短縮させていただきます。」
僕らが列を抜けて貴族用の門に行こうとした時、一般列の中から野次が起きた…。
「オイオイ!なんでそんな奴らが俺たちより早いんだよ!後から来て俺たち『番犬』のギルドよりも早く進むなんて許せねーぞ!」
「そうだぜ!俺たちは貴族の亡骸と所持品がないか調べにわざわざ魔の森まで行ってきたんだ!お前たち衛兵が言ったから向かったんだぞ!」
その馬鹿げた台詞で一般列に並ぶ者がざわつき始める…どう見ても秘密事項である筈だから。
「どうだ!列に並んでいるお前らも分かっただろう!俺たちの方が重要な仕事してるんだ!わかったらそこの衛兵さっさと案内しやがれ!」
「女子供と話している暇があったら、エールの一杯でも持ってこい!衛兵さんよ!」
かなり横柄な態度の2人だと僕は思ったが……どうしてギルド名を今名乗ったのだろうか?あの先程の馬車を見ればマズイと思うのが普通だろうが。
あの頭に詰まっているのは僕とは違う味噌の方なのだろう。
そう言った冒険者の2人が列から出てきて衛兵に詰め寄る。しかし次の瞬間…
「ここに居たぞ!この2名を捕らえろ!」
「クリスタルレイク家ウィンディア男爵御令嬢に危害を加えようとした罪により、今よりお前達2名を拘束・連行する!」
「くそがーーー!お前らなんぞに負けるか!たかが衛兵の分際で!」
衛兵に連行されそうになりヤケを起こした1人の男がそう言うと、バレーボールくらいの火球を目に前に出した。
多分あれを目の前の衛兵にぶつけるつもりなのだろう。
衛兵は耐火装備には見えないのでその火球を見て若干不利そうだが、既にその火球は術師の手元を離れている。
マッコリーニの商団の人も一般列の周りの人も火球の威力がデカければ下手をすれば怪我をする…
僕は衛兵に向けて水障壁をかける1日1回の魔法だが彼はこれで無事だ。
凄い水流が衛兵の周りで渦をなす。その渦に火球をぶつけた『番犬』のメンバーだが、魔法は効かずに水に当たって激しい水の渦に飲み込まれてしまった。
残念な事に火球特有のかっこいい爆発音も燃焼音も出ず…『ジュ!』って音しかしなかった……使う人間が残念なら魔法も残念だ。
そしてロズとエクシアに蹴り飛ばされた番犬の2人は、ベンとベロニカが上から踏みつけておとなしくさせる。
ベンは二刀流なので相手は下手に武器を使おうものなら勿論、両手若しくは両腕が無くなり、ベロニカはもっと単純で矢が既にオデコに当てられている0距離だ……矢から指を離すだけで終わる。
僕は水障壁を消すと、衛兵は周りを見てから自分の身体の隅々まで触って自分が無事なのを確認する。
「感謝致します!ゲオルさん!咄嗟の水魔法で命拾いしました!流石!銀級ギルドの魔道士です!」
衛兵の突然のお礼にびっくりしたゲオルだが、彼の為とはいえ僕はうっかり魔法を無詠唱で唱えたので、怒られない事を考えれば結果オーライだ!これはゲオルがやったんだと言うことにするのがwinーwinってヤツだ!
それにしても番犬の行いは駄目すぎだ。あの後は逃げるのはどうする気だったのか?目の前に銀級ギルドのメンバーが居るのに……そして列からも冒険者が何人か躍り出て犯罪者制圧の動きをしていた。
やっぱり…馬鹿はどの世界でも馬鹿だった…。
それから僕らは衛兵に連れられて貴族用の門へ連れて行かれた。
その際もファイアフォックスのメンバーへの冒険者や商人、村人の拍手はやまない。
列に並ぶ魔法使いはゲオルの所まで来ては握手を求めていた。
彼らが列に帰っていくたびに、ゲオルが困った顔でこっちを見てきたので凄く心苦しかった。




