第264話「碌で無しヤクタ男爵と、運が尽きたお付き達」
帰宅時間用の更新ですよぉ〜_(:3 」∠)_
ようやく今から小説書けますw
明日の分書き溜めしなければー!
日が暮れて、魔物の動きが活発になる『平原』で怒鳴り声が上がる……
「どうなっておるんだ!いつまで待たせれば気が済む!アイツらはこんな簡単な事さえできないのか!」
大声で怒鳴っているのはヤクタ男爵である。
朝日の4時進も前に叩き起こされ、先行し野営地候補を探す様に言われて放り出された男爵家のお付きが、八つ当たりに殴られていた。
お付きは兵も与えられず、最低限の荷物だけで予定地まで命からがら進んでいたが、当然そんな距離は進めないので男爵達に早々に追い付かれて、それからずっと酷い仕打ちを受けていた。
魔物避けの香を焚いては魔物をやり過ごし地道に進んでいたのだが、冒険者でもない彼等は武器も持っていないのだ。
常識が通用しない程に、男爵のバカ加減は度を極めていた。
さらに荷馬車を任せたのは自分なのに、お付きが馬車を扱えればこうはならなかったと言って、平手打ちで少女達を殴っていた。
ちなみに男爵のお付きの殆どは、奴隷商から売られた屋敷用の奴隷で、犯罪奴隷などではない。
変な人間を屋敷に入れて、周りに何か喋られると困るからだ。
この奴隷達は、男爵と特別な魔法契約は結んでいないのが救いだ。
逆らえない服従契約などは犯罪奴隷などに適応されるが、口減らしで売られた子供の奴隷などには人道的にこの国では使われない。
仮にも貴族の家で奴隷を扱うので変な噂が立つのは嫌だった為に、男爵は躾が行き届いている上等な奴隷を買い込んでいた。
問題の男爵はこの状況なのにも関わらず後続を待って愚痴を言っていた……既に騎士団が伯爵へ投降したとは毛ほどにも考えていなかった……お付きでも気がつく事なのにだ。
日が暮れる前に帝国に近づける様に進みたかったが、荷馬車が来ないので徒歩のお付きが邪魔で全く進めなかった。
お付きはずっとこの所ゆっくり眠れた試しはない……その理由から体調に現れてすぐ疲れて動けなくなってしまう。
外では常に魔物の遠吠えや、物音がする。
昼間は勿論、夜も襲撃があるのであれば一般の人間は怖くて当然だ。
更にこの周辺は2から3メートルクラスの中型の昆虫型魔物が『群』で出る。
姿形が気持ち悪く、街で見かける蟻と同じ形なのだ……それが人よりデカければ怖くもなる。
大人の男性が10人がかりで連戦で何匹もの魔物と戦うのだ、それを見ていつこっちに襲ってくるか気が気じゃないのだ。
しかし、それに比べて彼と共に来た騎士達10名は『潮時だな』と考えていた……彼等は次の村で男爵の荷馬車を強奪して伯爵の元へ鞍替えする気であった。
当然、貰える物を貰う予定なので、投降と言うよりは男爵の私財を賄賂にした騎士団の鞍替えだ。
奪った男爵の私財を幾らか貰う事と、伯爵家か男爵家のお抱え騎士になる条件と引き換えだ。
伯爵は無理でも、ヤクタ男爵と同じ爵位に居る『ウィンディア男爵』にはチャンスがあると踏んでいた。
彼等は既に犯罪者である男爵と同様に『縛り首』になる身であるのに、今まで金でどうにかしてきた為に『今回もどうにかなる。』と勘違いしていた。
彼等がそもそも襲おうとしたのは王都へ護送中の『秘薬』であり『王様への献上品』だ……許される理由など1ミリもない。
例え中身が目的と違う『特別な荷物』だとしても、襲った結果は変わらない。
それに分かっていないのは、相手が『伯爵家』だと言う事だ。
ヤクタ男爵は『腐敗貴族筆頭』と呼べるに相応しいが、伯爵家は『名門』であり騎士団は王の目に留まる程『勇猛果敢』な行動をする。
そんな者が『襲撃班の賄賂』など受け取ると考える方が無理である。
しかし、彼等はチャンスとして考えていた事がある。
強奪したマジックアイテムを返却する事を、『男爵』から取り返してきたと誇張する事だった。
襲撃も『騎士団』として聞いていない事にして、口実には『罪を見過ごせず証拠品を押収して投降した』と言う予定だった。
しかし、彼等の目論見が外れた……襲うよりも早く『真っ当な騎士団員達が投降』を選んだのだ。
今伯爵に追いつけば自分たちと同じ境遇の同じ仲間が持って行ったのだ……上手く立ち回ればまだ騎士団の道があると間違ったことを考えていた。
彼等は探しに行くフリをして投降を考えていて、どうタイミング良く話を切り出すかチャンスを伺っていた。
しかし、いくら待っても来る事のない荷馬車を、日が暮れた平原で待ち続けていたが、痺れを切らした男爵の一言でまさかの日暮れの移動となる。
かなり危険な行為だが、彼等は荷物も何も無いのだ。
次の街か村、もしくは王都にこっそり入り込むしか夜を過ごす手段はない。
「ターズ騎士団長!次の村まで距離は如何程だ。」
男爵にそう急に聞かれた、ターズは徒歩で移動するお付きの事を考えて2〜3時進と答える。
徒歩のお付き達は完全に疲弊して、これ以上進むのも困難だ……日も暮れ魔物が多くなっている……3時進あってやっとだろうと踏んでいた。
「馬で先に我らだけ行けば1時進程度だな!魔物など振り切れば良い。ならば行くぞ!お前達は朝までに着けばいい!宿屋で寝たければ早く来るのだな!」
その場にお付き5人は放置される……彼等は魔物の動きが活発化する深夜に『平原のど真ん中』に放置されたのだ。
こうなった以上彼等は魔物の餌になる以外道はない………夜中は魔物避けのお香も効果が悪いからだ。
見た限り対抗手段もない相手の場合、飢え獰猛になった魔物は魔物避けの香など我慢して襲いに来ることが多々ある。
無防備な獲物に出会い、喰らう事ができるのはそうそう無いからだ。
魔物と言えどもそれなりに状況を判断して襲っているのだ。
ターズは男爵にもうちょっと待とうと進言するが、騎士団の性根の腐った部下達は逆に早く村へ行こうと言う。
彼等はチャンスを伺っていたが、疲れた身体を宿で休められれば、裏切るのは明日の朝でもいいと思っての言動だった。
そしてこのクズどもは、男爵に極め付けのいらないことを言う。
「男爵様!村と言えども、いい宿はすぐに埋まってしまう物です。男爵様が手脚をゆるりと伸ばして休める宿などそうそう見つからないはずです。王都から近い事もあり、万が一他の貴族に取られては尚の事癪でしょう!此処は急ぐべきです」
「我々が休みたいから申しているわけではないのです。男爵様の身体のことを第一優先に考えた結果の言葉です。お付きなどはゆっくり後から来れば良いのです。何も男爵様が一緒に居る必要はないのです」
この要らない発言で気を良くした男爵は、『お前達も早く来る様に』そう言って片手で手綱を持ち馬を走らせる。
少し走ったところで、ターズが来ない事に腹を立てた男爵が馬を止めて、声の届くギリギリのあたりでで大声を出す。
夜を迎えた危険なこの場所でだ……
「ターズ騎士団長!早く来い!お前が騎士の統率をしないで何とする!いい加減にしないと本当に置いて行くぞ!」
そう言って再度馬を出す。
「す……すまない……なんとか無事で村まで来るのだ!この武器を持て!希望を捨てるな!……すまない!騎士団長の役目があるのだ……」
ターズは自分の短剣をお付きに渡すと、彼等を何度も振り返りながらも男爵を追って行った……。
お付きは13〜15歳の女児だけだった……彼女達の運命はこの時に既に決まった。
「ウォーーーーン!!ウォーーーーーン!」
平原ウルフの声がする中、男爵一行は闇の中へ姿を消して見えなくなった……彼女達5人はその後ろ姿を恨めしく睨むしかなかった……




