第169話「やらかす3バカ……勘違いする者達」
13時の更新ですー遅めのランチ休憩の人向けでーす
バームのパーティーは駆け出しがどんな風に戦っているのか、気になったのか褒めちぎりながら質問して来た。
「いやいや……持ち上げすぎです。アレは部屋に入った時向こうも別の入り口から入ってきて急に出会い頭の戦闘になったんですよ。一応すぐに動けるのが僕だっただけで、3匹は辛いので一度に対応する数を減らそうと1匹蹴っ飛ばしただけです。」
「横凪したら多分どちらかは止まるんじゃないかと思って……そしたら2匹とも止まったんで、ああなっただけです。」
「強いて言えば……僕はあの時剣を右側に薙ぎ払ったので、僕から向かって右側のゴブリンを右から袈裟斬りにして、左側もしくは中央は近ければ返刀で右切り上げ……もし距離が有れば突きで仕留める感じですかね……その後は敵の状況にもよりますが。」
僕はそう答える。
「すごいね!初心者が二手三手先を考えて戦闘するなんて余程戦うのが好きそうだね?戦闘狂かいアンタは?」
この言葉に僕のメンバーは激しく首を縦に振っていて、バームのメンバーは僕の後ろの『それ』を見て大爆笑していた。
そんな話をしていると門の扉が勝手に閉まる。
「オ!準備完了だな!いいか駆け出し諸君。ここはフロアボス、階層ボス、エリアボスそんな呼び名がある場所だ。まぁ想像がついていただろうが。」
「此処で何も知らない君達にお勉強だ!このダンジョンでは階層ボスの部屋が閉まると中に『魔物』が発生したと言う合図だ。このダンジョンの場合は扉を開けて中を覗ける。そして中に入ってもヤバクなったら出られるんだ。」
「ダンジョンはその場所特有のルールがある……だから用心をするに越したことはない。中には入ったら最後出られないダンジョンだってある。だから迂闊に入らずそのダンジョンの情報を確認してから挑むんだ。」
「しかし情報は冒険者の宝だそう簡単に教えてくれない。だから聞きたい情報があったら酒場にいる冒険者には酒を奢るんだ。酔っ払っている冒険者は意外と口が軽くなるからな!」
「それってバームが酒場で見かけたら酒を奢れって言ってるように聞こえるわよ?」
「当然そのつもりだ!だから酒場を強調したんだぜ?クーヘン?」
「さぁ皆この辺りで勉強会はお終いだ!いいか俺達が先に入るから準備を十分して挑むんだぞ!?危なくなったら時としてすぐに引き返すのも冒険者として必要だからな。」
「クーヘン!スープー、ベリー。3人は俺と一緒に入るぞ。2人は少し遅れて入るんだ。タルトは入ったらハイドの準備を怠るな!じゃあヒヨッコ頑張れよ!」
前衛の戦士2人に弓使いに回復師が順に入っていく。そして少し待ってからレンジャーと薬師が入るのだが2人はすぐに入らないようだ。
そこへ今度は招かれざる奴らが来る。
「おう!ダメ冒険者共此処で何してんだ?びびって入れないのか!?口だけ野郎共め。此処が5階のボス部屋か!俺らだったら楽勝だ!魔物だって此処に来るまで1匹も襲ってこないんだからな。怖くて尻尾巻いて逃げ出したんだ俺らを恐れてな!」
僕達は彼等の戯言でこの場の空気を壊したくなかったので相手をしなかった……しかし、この行為が後々大変な事になるとはこの時は思ってもいなかった。
「あら?貴方達の知り合い?3人で冒険なんて貴方と同じくらいやる気満々ね!」
バームのパーティーメンバーであるタルトは気さくに話しているのだが、その言葉を無視するビョーン達。
僕は彼女達が気分を害さないように、先に階層ボスの部屋へ入った仲間のことを言う。
「仲間さんもう入りましたけど……まだ行かなくていいんですか?」
「実は私はレンジャーなのよね。一応レンジャースキルで相手の認知から外れる能力があるんだけど、それは既に対象が戦闘に入っている場合成功率が格段に上がる弓使う者には最高の条件でしょう?」
「そろそろよ。準備はいい?貴方達と話せて楽しかったわ!次はあなた方の番だから頑張って倒して地下6階にいらっしゃい!ビックリする世界が待ってるから!」
「でも貴方の言う通りねそろそろ入らないと……」
と言いかけている彼女の話を無視して扉から中に入るビョーン達3人……その様を見て慌てる2人は声を荒げる。
「ちょっと!貴方達何しているの!既に私たちのパーティーが中に入っているのよ!」
「コイツらと仲良くするどうしようもない、馬鹿共の無駄話に付き合う気はないね!せめて銅級になれたら相手にしてやるよヘッポコ弓使いが!」
「退け!邪魔だ!どうせ中の奴も大した事なんかない。」
無視して入ったビヨーンとは対照的に相手を馬鹿にするように吐き捨てながら入っていくザッコとモッキン。
それを聞いたタルトとビーンズは慌てている。
「なんて事をしてくれたの!馬鹿共が!このダンジョンの階層ボスの戦闘中に別パーティーが入るなんて!ビーンズ!いくよ!」
「くそ!パーティー総数が増えれば向こうの魔物も追加召喚されちまう……バームと言えども最悪だ…8匹追加の合計16匹なんて……タルト急いで中に入って知らせるぞ仲間の皆を引き摺り出すぞ!」
血相を変えて入っていく2人……既に中では大変なことが起きていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
この階層ボスの部屋は冒険者側から見ると、部屋のボスがいるのは6階への階段そして地上へのゲートから近い場所になる。
下層行きの階段と階層ゲートは階層ボスの部屋と区切られて別部屋になっていて、区切られた小部屋の左右に別れる形で階段とゲートは配置され、そしてその部屋自体が冒険者が休める休息部屋になっている。
しかしこの部屋に行くには、5階側からではこの階層ボスを倒すしかない……まるで門番の様にその部屋の入り口へ向かう場所を塞いでいるからだ。
この場合のポータルと言うのは通常使う門や入り口とは違う意味だ。
ボス部屋だけに存在する魔物を吐き出す装置の様な者で壁の左右に設置されている。
魔物を吐き出すときだけ起動するらしく、普段は壁に造られた門の形をしている。しかし今はクーヘンが言った通りポータルが起動して門の中から魔物が出て来ていた。
「ちょっとバーム!様子がおかしいよ!8匹居るはずなのに左右のポータルから新手が来やがった……」
「まさか……ヒロ達が入って来たんじゃないか?タルトとビーンズめ…勝手な真似を……アイツら意外と気に入ったのかもな。ボス部屋でパーティー連合戦を駆け出しとやる日が来るとはな!」
「ひとまず此処にいるのを何匹か間引くぞ!後ろから来る魔物の残りは彼等が来たら対応だ!」
「「「おう!」」」
「バーム……アンタだって実はあの子がどう戦うのか楽しみなんでしょ?」
「俺は後チャックっていう奴の弓の腕前も気になるな!外さずに額のど真ん中だぜ?上で見たのは……ヒロがいるのにアイコンタクトも無く、そして躊躇いもなく頭にズドン!だ。」
彼等は笑い軽口を叩きながら目の前のゴブリンを切り払う……しかしホブゴブリンとゴブリン3匹がまだ控えている。
口は達者だが、実は充分注意しながら戦っていた。
バームの言葉は一緒に戦うのを歓迎したセリフであったが、魔物が鎮座するこの場所と入って来た場所は少しばかり距離がある。
この部屋は奥に長い構造なので、自分達が入ってきた入り口が見えないのだ。
だが後ろから来るとすれば、自分達の仲間と今まで話していた駆け出し6人だ。
それもありこんな悠長にしていられた。
まさか来るのが全く知らない奴で、戦い方も見たことも無い奴だとは夢にも思っていなかった4人だった。
トレンチのダンジョンを潜る銅級冒険者は『ドアを開けっ放し』にするのがマナーだった。
中で戦っていると後続に知らせる為だが、当然駆け出しから上がったばかりの冒険者は知らないのだ。なのでギルドを利用する冒険者は情報交換の時に最低限必要なマナーとして先輩冒険者に教えられる。
これが根付いている理由は、このダンジョンの特定空間は参加パーティー数だけ魔物が増える仕組みだからだ。
それでも稀に、駆け出しから上がったばかりで自分勝手な冒険者がやらかす場合が有るのだが……
その上、冒険者は知り得ない事だが、この部屋から逃げ出すとこのダンジョン全体に影響が出る。
特定空間から冒険者が逃げ出すと『ダンジョンの勝利』なのだ……ただでさえダンジョンでの欲望や恐怖は穢れを生み出す原因だが、魔物から冒険者が逃げる事は魔物が指揮を上げる原因に繋がるのだ。
それが特定条件のあるボスの部屋ならば効果は絶大だ。
しかしこの条件は、人間が知る事など無い『ダンジョンの仕組み』だからだ。
知らない条件はさておき、現状は芳しくない……
今回は全く違う理由で、馬鹿な駆け出しが『思い込み』で侵入したのだ。
既に戦闘中の彼等はその事など知らず。
自分勝手な駆け出し冒険者は、『決まり事』さえ知らない。
そして銅級冒険者のバームは決断を迫られる事になる……仲間の命か……それとも馬鹿共の命か……彼等の命はダンジョンの悪意と言う天秤の両端に既に乗せられているのだ………