第1175話「ヴァンパイア・ユキとその使い魔」
お昼更新death!\( ॑꒳ ॑ \三/ ॑꒳ ॑)/
ポータルの中から出てきたのは4体のヴァンパイア・スレイブだ。
ヴァンパイア・スレイブとは、名前の通り奴隷であるがユキが望んでその立場を与えた訳ではない。
彼等自らがその立場を望んだのだ。
ヴァンパイア・スレイブの特徴は『太陽光で負傷』『太陽光下にて能力半減』『痛覚無視』『無限再生』『精神汚染無効』『聖属性ダメージ半減』という馬鹿げた能力だ。
アンデッドなのに聖属性のダメージを半減する時点で、アンデッドからかけ離れた存在の様に感じるがまさにそうだ。
ユキの扱うヴァンパイアの奴隷たる彼等は『まだ半分は人間』なのだ……
やがて時が来たらレッサー・ヴァンパイアになる『候補生という立場』というべきかもしれない。
しかしその能力から考えても人とは言い難い。
太陽の光にあたれば焼け爛れ、身体が燃え上がりやがて絶命する。
再生速度が、光属性ダメージに追い付かないのが始祖を除くヴァンパイア達のデメリットだからだ。
しかし日が当たらない霊廟ともなれば話は変わってくる。
ユキが以前言ったように、『この環境はヴァンパイアの好むべき場所』なのだ。
薄暗く、死体が無数にある……
ノーブル・ヴァンパイアより下の眷属は『グールやスケルトン・そしてゾンビ』を多用する。
勝ってこその主人への貢献であり、負けてしまっては意味がないからだ。
その点においてユキやボーはお咎めを言わない……
何故ならノーブル種は、レッサーヴァンパイアやヴァンパイア・スレイブと比べて圧倒的に力の差がある。
ダンジョン産の始祖で魔神クラスであり、本来の始祖においては魔王クラスとも言われている。
なのでレッサー・ヴァンパイアより上の存在は、下手な小細工をするより単独で動いた方が早く、その場に居たという証拠を残さず済むのだ。
ユキはそのヴァンパイア・スレイブを『呼び』出した…………
という事は、もはやその存在をエルフの国で隠すつもりは無いという宣戦布告の意味もある。
敵は母の仇であるエルフ元老院長老達であり、長い年月の集大成とも言える日が今日なのである。
ユキがその本性を隠す必要など、今日に限ってはあり得ないのだ。
「生命の賢者……我が母君の伝言よ?よく聞きなさい………」
『必ず来なさい……地獄で待ってるわ!』
そう言ったユキは九尾の姿に自分を変える……
「な!?九尾………何故!何故だ!!お前は既に九尾を……」
『矮小なるエルフの成れの果てよ!我が前で主らが手にかけたユキに言葉をかけるなど………身の程を知れ!!『イッルジオ・ザイブ!!』」
九尾はそう念話で叫ぶと幻影の尻尾で薙ぎ払う……
この魔法は、九尾の魔法の一つで精神錯乱の永続効果がある幻影の尾だ。
「ぐぅ!なんたる失態……まさかユキとボーが参戦したばかりか……ユキが既に九尾を手に入れたとは……此処は逃げるが得策!!」
そうエルリウは言うと、エルフ族お得意の魔法で姿を消す……
『次はこうはいかんぞ……お前達が生きたままこの太陽の王国から出られる事は無い!エルフの始祖モアに九尾のユキ……ライカンのボーよ!!』
「念話で捨て台詞とは恥ずかしくてよ?賢者エルリウ……いえ……モアによって追放されるのだから元賢者のエルリウの方が正しいわね?うふふふ」
『……………』
ボーはユキの言葉を聞くと周囲のフレッシュゴーレム達を一掃してモアを見る。
「何故!?……貴方が力を使わなくても……自分が……」
「今俺がやらかしたのはライカン族の俺の考えがあってこそだ。お前がやる仕事じゃねぇ………だからもう気にすんな………モア」
「ぐ………でも!!助けられなかった……あそこまで魂が癒着したら………」
塵となって消えた元エルフ達にモアは膝を折り祈りを捧げる……
モアの言う通り、素材にされたエルフ市民達は既に助からない程の実験をされていた。
僕らが見た、フレッシュゴーレムの実験結果から言える事は、元老院の長老達は既に魂レベルを自在に手にかける事が可能なほど危険な領域までその知識を増やしていると言う事だ。
モアはその結果を痛いほど理解した。
「モア……今はスゥの事が最優先だ!心を鬼にして先に進もう。その想いはいずれ敵に届く……お互い避けられない運命の中にあるんだから!」
「そうねヒロ………その通り!!スゥの為にも先を急ぎましょ」
そう話した僕とモアは『既に元老院の者達が私たちの動きを察知してる』事を急ぎ移動しながらも少し話し合った。
モアの推測では、首都全域に精密な探知魔法が張り巡らされていて、何か異変があれば元老院長老に連絡が飛ぶようになっていると言う事だ。
月エルフ族にそれができて、太陽エルフ族が出来ないはずがない。
だからこそたどり着いた観点だが、エルフの戦士団が待ち構えていなかった事から推測すると、霊廟の実験はあまり公にしたくない事情があるのだろう。
フレッシュゴーレムの存在が大きな理由だろうが、エルフ市民の反感を買えばエルフ元老院の敵がモアやスゥ以外にもできるのだからから仕方のない事だが………
問題は生命の賢者エルリウのみが、僕達の侵入を察知しているだけでは済まないという事だろう。
「ねぇヒロ……戦士団や面被りが居ない理由は揺動が上手くいっているって事なのかな?」
「おそらく……問題は何時迄もこの状況では済まないって事だろうね」
僕は霊廟を駆け上がりつつそう質問に応える。
既に侵入はバレバレ……しかしあの程度の魔物であればモアや僕には問題はない。
悪魔にとって脅威なのは『エルフの戦士』であって『アンデッドの群れ』では無い。
そう思っていると、ボーからも急ぐように言われる。
「そうだぜ?ヒロにモア。俺達が踏み留まってしまってはダメって事だ!これから先また何があるかわからねぇ……その度足止めしてたら何時迄もおわらねぇからな!」
「確かにボーさん。急がないと……面被り達も死んでしまう」
「それにモア……私たちが少数精鋭で侵入した意味もあるでしょう?」
そう言ったユキは『さっきみたいな変な打算や甘っちょろい考えではスゥは助からないわ』とダメ出しをする。
モアは『ユキ!そんな事は分かっているわ!』と言いたい気持ちを抑え、『ギリッ』と唇を噛み締めてその言葉をしっかりと飲み込む。
何故ならばユキの言う通りだからだ。
やるべき事がわかっているのにエルフに関わる事だと、頭で考えるより早く行動に出てしまう。
しかしユキの言うように、元老院長老の誰かに自分達の手の内が読まれればスゥは助からない……
モア自身がそれを理解している。
表情を見てそれを理解したユキは行動に移す……
「………先を急ぎましょう!エルリウを逃した以上悠長にしている暇なんか無いわ!」そう言ったユキはスレイブ達に助けた市民を守るように言いつけた。
◆◇
霊廟を抜けると戦士団が待ち構えて居ると思われたが、どうやら誘導がうまく行っているのか敵らしき敵は居なかった。
面被り達の元老院側の勢力が待ち構えていた事を除けば、誘導作戦や少数精鋭でに侵入は上出来だった。
エルフレアは、そんな面被り達の攻撃を軽く躱して戦闘不能にしていく。
「皆さん目前に見える神殿の建物が目的地であるフェニックス神殿です……此処は私に任せて……」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!お前も分かっちゃいねぇな……目的はスゥの復活なんだよ!こんな雑魚共放置していけばいいだろうが!!」
そう言ったボーは『ネグロ・リエール!』と呪文を唱える……
すると真っ黒い蔦が辺り一面を覆い、面被り達をすぐに捕縛してしまう……
「どいつもこいつも………うまく魔法を有効に使う事が被害が最低に収まる事だって知らねぇのか?」
そう言ったボーはエルフレアを見て『もっと勉強しろや!』と言った。
しかし僕にはもっと有効な妙案があるのであった……




