第1049話「絶対障壁とその代償」
こんばんわー更新です!
ここ数日更新出来ずにすいません_(:3 」∠)_
前回までのお話……
フローゲル鬼コーチに、いい様に扱われる主人公……
しかし人の教えは、そう簡単には得られないのも理解の上だ。
此処は黙って従い、長年の経験を少しでも吸収しようと試みる……
しかしながら、その場所はカサンドラの氷穴と呼ばれる凶悪なダンジョンである。
生半可な攻撃など、奴等には攻撃とも思われなかった。
そんな状態でありながらも、フローゲルの鬼指導(実地訓練)は続くのであった……
「ウォーターバレット!……瞬歩………フレイムアロー!!……バースト・ハンマー!!」
僕は手当たり次第に魔法を唱え、敵の総数を減らす……
しかし一向に減らない魔物の数に、詠唱と対応が雑になっていた。
それを見た口喧しい爺様から、僕へのお叱りの怒声が飛んで来る……
「馬鹿もん!氷系魔物にフレイムアローはMPの無駄じゃ!」
「ですがお父様!あの威力は馬鹿に出来ませんわ……」
「そうね……スノーパペットの上半身がドロドロだもの……。あれじゃもう……見た目通り、魔石ごと消し飛んで動けないわよ?」
「く……!!揃いに揃って……結託しおってからに……。えーい!ダメなものはダメじゃ!!いいか?今からお前達は口を出すな!あの鼻垂れには、この儂がもう少し効率的な戦いをだな……」
サイキはそれを聴くと『また調子いい事言って……』と細い目をする……
しかし僕はそれどころでは無い……
サイキが言った様に『スノー・パペット』と言う煩わしい敵と戦っている。
スノー・パペットとは、氷で出来た素体に魔石を埋め込んで動く魔物で、それを操る魔物が群れの奥に居る。
そのスノーパペットを操る魔物が『スクリーム・クラウン』と言う化け物だ。
ぱっと見は道化師の様な出立ちで、その表情は苦悶を浮かべ叫んだ顔だ。
上瞼から下瞼を通り顎近くまで赤い線状のピエロの様な化粧が見える……
しかしそれは、近くで見ると化粧では無く、引き裂かれた傷跡だと分かる。
そしてこの魔物の厄介な所は、スノーパペットを操る事だけでは無い……
忙しく動き回り、突然二つに分裂する厄介な魔物なのだ。
放置していると倍々に増えていき、現状の様な多勢に無勢な状況を作り出す魔物だった。
当然、双方ともアイスデビル・マンドリルと同じ様に、悪魔種の魔物だ。
「くそ……埒が開かない……フローゲルさんはシリカさんとサイキを連れて、入って来た部屋の入り口まで下がって!仕方ないので……今から範囲系魔法で、全部纏めて処理します!」
「ちょ……ちょっと!?ヒロ……そんなふうに言うなんて……貴方何か危険な事する気でしょう!?」
「ちょっと……ねぇさん!!今はヒロさんの言う通りにしましょう?」
「サイキいいから行って!僕が倒れたら全滅確定でしょう?そもそも僕一人で戦ってるんですよ?戦法は僕が選びます!!」
そう言った僕は、アイスストームとウォータートルネードの魔法を、併用する事を思いついていた。
アイスストームの効果は、氷系の魔物であるスノー・パペットには効果が薄い……
だが、分裂して沢山増えているスクリーム・クラウンを氷結させる事には、間違い無く適している。
そこに複数のウォータートルネードをぶち込めば、雪と氷で出来たスノー・パペットと凍結させたスクリーム・クラウンを纏めて始末出来るはずだ。
「ヒロいいわよー!!ちゃんと避難した!」
「娘二人は避難済みじゃ!……儂の事は構わんでいい。100%魔法防御があるからな。何をするか興味があるから早うやれ!」
フローゲルの爺さんに、そうぶっきら棒に言われた僕は再確認せずに魔法を唱える……
『アイスストーム!!』
「ぐぎぃ!?………ぎえぇ……」
「ぎひぃぃぃ………ごがががが………」
「ぎょごぉぉぉ……ぎぃぃぃ…………」
次々に悲鳴が上がり、スクリーム・クラウンは凍り付く……
続いてウォータートルネードを使おうとした時、フローゲルが僕の側に歩み寄ってきた。
「ほう……先にスクリーム・クラウンを根絶やしにする気じゃな?ようやく気が付きおったか……まぁエリア魔法の種類が無いのは、鼻垂れの証拠じゃな!……致し方無い……」
そう言うと、『この場合はじゃの……こういう魔法が最適じゃ!』と言って地面を蹴り、石の杖を取り出した。
そしてフローゲルは『アイナスパイク・アースィファ!!』と詠唱をする。
長ったらしい詠唱をしない所を見ると、僕と同じ無詠唱呪文を獲得している様だ。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………メキメキメキメキ』
突然壁や天井の至る所から、石で出来た突起物が無数に飛び出してくる……
僕がその状況に驚きどうやって身を守ろうか考えていると、今度は部屋の中央に旋風が巻き起こる。
その風は、みるみる内に大きくなると、まるで竜巻の様に渦を巻く。
「ちょっとフローゲルさん何してるんですか!?……不味い……これは……僕には避けようが無い!!」
「なんじゃ?鼻垂れ……障壁も使えんのか?仕方ないのぉ……」
そう言ったフローゲルは『こう唱えろ』と言い『奈落の女神よ……如何なる災も我に寄せる事なかれ!……インディストゥラクタブル・ヘカテ』と詠唱をする……
僕もフローゲルの言葉に従いそれを復唱する……
すると突然黒いモヤが噴き出して、自分を中心にして周りに黒い渦となって回る。
「これはのぉ、『不滅の死の女神』と言う魔法じゃ。使い勝手が良いから覚えておくといい。じゃが……ちと問題もあるぞ?」
そうフローゲルが言うと、すごく不安な事を伝えてきた……
その内容は『呪文をあまり使い過ぎると、死の女神ヘカテーの気を引いてしまう』と言うものだった。
「まぁ敵を倒せば、遺骸がヘカテーへの供物になる。まぁ余り気にせんでもいいじゃろう。どうじゃ?なかなか使い勝手が……」
何かを言いかけたフローゲルが僕を見て、突然『ひぃぃぃぃ…………お主は……なんて運の無い鼻垂れなんじゃ!!』と慌てふためく……
「な……何を急に叫んでるんですか?…びっくりさせようとしてもその手には乗りませんよ?」
「何を急にじゃと?お……お主は!!……鈍感にも程があるじゃろうが!!バカみたいな魔素を感じんのか?後ろを見てみぃ!!」
僕はフローゲルの言葉通りにそのまま背後へ振り返る……
「あら!?……私の魔法を契約者が使った感覚があったから来たら……まさか貴方だったの?……ってか……ヒロ……アンタ勝手に私とのラインを切ってんじゃ無いわよ!それで眷族魔法を使うだなんて……私を馬鹿にしてるの?殺すわよ?」
出会い頭に殺害宣告を受けた僕は、若干昔の空気を感じてしまう。
エクシア達と冒険をしていた時の感覚だ。
「誰かと思ったら……ヘカテイアじゃないか!!実は前にコンタクトしようとした事があったんだけど……上手くいかなかったんだよ」
「あら?そうなの?全然気が付かなかったわ……。それにしても……あのエルフどもが作った移送の扉から何処へ行ったかと思ってたんだけど……。こんな穴蔵に居たのね?ああ……薄暗くて寒いわ……」
そう言ったヘカテイアは『そういえば、エルフどもの光魔法は闇の繋がりを断ち切る効果があったわね……』と、ボソっと問題発言をする……
しかしヘカテイアは何事も無かったかのように、話を戻した。
「理由は何にせよ、貴方とのラインは消えるし……音沙汰ないしで……コッチはもう大変だったのよ?特にシャインが闇落ちしそうでヤバかったんだから!」
僕はその言葉に『シャインなら探し回りそうだなぁ……』と思いつつ、ヘカテイアと話を続ける……
「あれ?そう言えば……マモンは?」
「ちょっと自分の領地で問題があったらしくてね。今は少しばかり里帰り中よ?」
僕は『悪魔も里帰りするんだ……』と率直に思ったが、今はそれどころではない。
フローゲルの爺さんが、人を見る目で僕を見ていないからだ。
「あ……ヘカテイア……積もる話は後でもいいかな?あの人が今世話になってるフローゲルさん。因みにここは……」
そう言いかけると、ヘカテイアは『位置関係くらい分かるわよ?此処は氷雪地帯……帝国の北ね?』と言う。
そしてフローゲルの方へ向くと、ニコリと笑う。
「あら!?……フローゲル……貴方……私の防御系魔法を何度か使っているのね?魂が黒ずんでるわよ。気を付けないと……下級悪魔に変異するかもしれないわよ?」
「か……かかかか………下級悪魔に………儂が……変異!?」
そう言ったフローゲルを見たヘカテイアは『してやったり!』と言う顔をして笑い出す……
「ぷ…………ぷはははは!嘘よ?う・そ!!どうして私の眷族魔法使う位で人間が悪魔になるのよ?全く……」
つい先程まで『ヘカテーに気をつけろ』とまで言っていただけあって、フローゲルの爺さんが受けた衝撃は大きい様だ……
「フローゲルさん……綺麗さっぱり魔物は居なくなった様なので……勉強になりました。絶対防御の魔法もつかえる様になって……結果オーライですし!」
「け……結果オーライじゃと?ヘカテーなんぞを呼んでおいて、結果オーライは無いじゃろう!?」
そう言ったフローゲルは『あ!』と言う顔になる……
自分の今の言葉は、偉大なる死の女神を呼び捨てにしているからだった。




