第1040話「目指せ!トロルキンギダム」
こんばんわー(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾更新death!
「そんな訳があるまい?何故ならシリカの様な者の問題を抱えたまま、ここの死守をせねばならん。今やこの場所の運命が、帝国の繁栄と滅亡の両方を意味する事になったのだぞ?」
それを聞いたブランシュさえもドネガンに質問を繰り返していた。
だがグラズは、その勘定に自分達が含まれていない不思議さを伝える。
「だが……だったら何故、俺らは何故お目溢しされるんだ?」
「グラズ……いい質問だ。ヒロの目的も魂胆は、もはや私には分からない。何故ならこの大うつけは説明と言うものをせんからな!!分かっているのは帝都が抱える危険回避のために、此奴が何かをしでかそうとしていると言うことだけだ」
ドネガンはさらに『私はそれが帝国の民の為になると信じている』と伝えた。
「さぁドネガン、妾も暇ではない。帝都まで送り届けるのであれば急ぐぞ?ヒロ達に置いてけぼりにされたら怒って妾がこの塔を破壊しかねんからな!」
僕は『今日この塔を出るとは一言も言ってない』と思ったが、あえて言わずにおいた。
何故ならドネガンがロナ・ウルグスに居る以上、深い話ができないからだ。
しかしアラーネアの言葉に、ドネガンも冗談と分かりつつも言葉を挟む。
「そ……それは困ります。アラーネア様。生憎私のみ単身でこの地に赴きました。護衛がいないので送り届けていただけるなら是非……」
ドネガンがそう言ったあと、アラーネアは『仕方ないのぉ……まぁ帝国に貸しをひとつ……ってことで手を打ってやろうぞ!』と言ってドネガンを糸でグルグル巻きにする。
どうやら来る時も帰る時も、公爵らしからぬ方法の様だ。
◆◇
僕はドネガン公爵が戻ったあと、3日程様子を伺うことになった。
理由は簡単で、ロナ特有の天候の問題だ。
氷雪地帯ともあり、翌日から吹雪で1メートル先さえ見えない状況だったからだ。
吹雪の中、トロル丘へ行くなど自殺行為に等しい。
ただでさえ危険な場所なのだ……天候まで敵対する状態で行くもんではない。
その上、日光を防ぐ環境下であれば、アイストロルの最適環境でしかありえない。
その結果、アリッサが不平不満を漏らす現状に至る訳だ……
「おい!?なんで何だよ!塔内部のアタイ達の身元はドネガン公爵が補償してくれるって話じゃないか!なのに……なんでこんな早朝に出て行くんだよ!」
「アリッサ!もう観念しなよ……コイツにそんな話しても意味がないって……自分が一番分かってるだろう?」
「だって……ブランシュ……行き先はもはや聴くまでもなく危険なトロル丘だって分かってるんだよ?だったらもう少し、ゆとりを持った行程を組むべきだろう?」
そうアリッサとブランシュは僕を間に挟み、行程を変更するように遠回しに言う。
だが、残念ながらそれを聞いていたらキリが無い。
トロルと言っても知能が低い小型種もいれば、王国ダンジョンに囚われていた知能が比較的高い大型種に、魔法を使いこなす程に非常に高度な知能がある大型種まで様々だ。
そして何より問題なのは、トロル丘の状況は誰も把握できていない。
聞いた話だと、人間にとって一筋縄ではいかない危険なトロル種が居るため、実質その場所はトロルが占拠している。
しかし帝国としては、その場所は自国の領土だと言っている。
そんな話は、元いた世界でもよく聴く話である。
当然この世界の人間も領土問題は抱えている。
しかしながら、非常に重要な問題でもある。
トロルにしてみれば、勝手に人間が線引きした国境でしかない。
それを受け入れられない場合は、人間とトロルの争い……即ち異種族間の戦争が始まるのだ。
しかし今のところ、トロルは問題を起こしていない。
むしろトロルの意見を聞かずに排除するべく、トロル丘に兵士を派遣しているのは帝国なのだ。
僕達はその場所にノコノコ出向き、トロルの国に侵入するのだ。
危険極まりない行為で間違いが無い。
では何故今なのか……と言う問題になるだろう……
何故なら今日は嘘のように吹雪がやみ、トロル丘方面は雲が少なく晴天なのだ……
日光に弱いトロルは、こんな日には日差しを避けるように行動する筈だ。
晴天ともなれば、アイストロルにおいては雪上であろうが出てこないと言う。
だから僕は、日が高い間にその丘を目指したいのだ。
「のうヒロ……まだいかんのか?妾は暇じゃ。ウダウダ言っている奴は置いていけばいいんじゃよ」
そう言ったアラーネアは『自分で道を切り拓けない輩は、トロルに喰われなくてもスノークロコダイルに喰われるのがオチじゃ!』などと、身も蓋も無い事を言う。
アラーネアの言う通り、確かに此処に居る限りは、アイスサラマンダーやスノークロコダイルとの戦闘は避けられない。
「アリッサにブランシュ確かにその通りだ。行くなら丘方面が晴天な今しかない。数日後また雪になれば次いつ晴れるかは天のみしか分からん」
そうグラズが言うと、渋々ながら全員が受け入れる。
そう話していると、出発の雰囲気を運良く感じ取ったのか、塔内部の衛兵詰所へある男が押しかけてきた……
「ほ……本日………塔を出られるとは……誠ですか?」
勢いよく守衛部屋のドアを開け開き、走り込んできたのはルッティだ。
「え?……ルッティ……さん?」
サイキはその言葉に向き直る。
吹雪による足止めの3日と言う貴重な時間を使い、サイキはルッティに一部始終を聞いた。
彼が協会から着服していた金銭は、全てサイキ絡みのことに使われていた。
主にフローゲル像やら、各地に点在するフローゲルの末弟が持っていた情報を守る仕事だと言う。
サイキにしてみれば、義父フローゲルの情報なら頭にしっかり入っている……
その事を聞いた彼女は、『着服は誉められたことではないので、今後はやめるように』と言ったそうだ。
ルッティにしてみれば、サイキが生きている情報だけで十分だ。
その言葉を聞き入れた事は言うまでもない。
当然冷静になったルッティは『サイキが現在も何故生きているのか?』と言う部分に行き着いた。
だがサイキが錬金術師でない以上、寿命を持たない『流れ』である事実に到達した。
その情報から、ほぼ同じ情報を共有する仲の良い僕が『流れ』である事実まで到達してしまった。
しかしフローゲルを師と仰ぐルッティは、その事実について見て見ぬふりをしてくれている。
表情と行動を見れば、流石の僕でも一発で分かる言葉遣いだ。
だが、僕の話す言葉を一文字一句メモをしているので、僕やサイキが暮らしていた異世界の情報を聞きたいのは間違いが無い。
運が良いのは『僕が錬金術師である事実に気がついてない事』だろう……
そんなルッティは、アラーネアにも動揺する事はもう無い。
サイキとアラーネアの関係性もあり、お小言を止める役に抜擢されたからだ。
当然アラーネアの放った白羽の矢が、その時丁度そばにいたルッティにブッ刺さっただけだ。
アラーネアの実力行使の結果、ルッティの恐怖メーターが馬鹿になってしまっただけなのだ。
結果的に魔王種アラーネアとも知り合え、『恐怖・恐慌判定無効』のステータスを得られたのだから結果オーライだろう。




