第1027話「氷の大地とロナ・ウルグス」
更新!\( ॑꒳ ॑ \三/ ॑꒳ ॑)/ふおー!
遅くなりました一!今から三話更新かけますっぽ!
コールドレインのトーテム像事件を目の当たりにしていた彼は、僕を知っていた様だ。
馬車から飛び降りた僕が、自分たちの元へ来た時に彼は『うん!逆らうのは逆効果だ!!仕事だから罠には嵌めるが……逃げると言うなら放っておこう!』と心に誓ったと言う。
それを知った残りの2人は彼を責め立てた……
『知っているなら先に言え!』と言いたかったそうだが、説明したら藪蛇だと思ったそうだ。
「因みに……ロナから逃げた実績は?過去にありますか?」
「ねぇな……噂じゃ、行けても別戦場って話だが、そこが胡散クセェ。行き先は全部ヤベェ。トロル丘やら牙山、ゴブ山送りだからな。まず死んでるよ……」
「そう言えば一人居たよな?マジックアイテム作りが上手かった奴だよ!戦場に赴く度に運良く何度も生き残り、最終的にロナからトロル山へ送られたことが……」
僕はその情報にピンときた……マジックアイテム作りの天才肌。
そして僕の持つ魔法の地図と、トロルキングダムの王子の出会い……
全部が合致した瞬間だ……
彼は旅をした訳では無い……ロナ送りからトロル丘へ送られて、そのままトロル山送りになったのだろう。
その結果彼は山でトロル退治の任務を受けて放逐された。
周りは死ぬとばかり思っていたが、トロル王の隣人にまでなっていたとは夢にも思っていないだろう。
僕は完全にロナ送りに活路が見えてきた。
「成程……活路はトロル山か……それ以外かですね……」
「はぁ!?何でそうなるんだ?お前の頭は正気じゃねぇよ!!牙山はオークの巣だぞ?」
そう言った男は僕の知らない情報を次々と詰め込んできた……
オークの巣は別名牙山と言うが、正式名称はメイシャール遺跡群と言う遺跡がある場所らしい。
住居に適しているのでオークが根城として接収し、それ以降爆発的に増えてしまったそうだ。
「でも所詮オークですよね?上位個体のブラックオークでも群れでいるんですか?」
「馬鹿言うな……所詮オークだと?ネームドが居るんだよ!!ノコギリ歯のアイアン・ジョーに斧腕・カズモル。そして猪王・ゴルザムの支配圏だ!!三竦みの状況で動くに動けないから今の状況に甘んじてるだけだ」
「成程……ゴブリン山の方は何て言われてますか?」
僕がそう聞くと、『お前冷静なのか、頭がおかしいのか……もう分からんな!!』と言いつつ教えてくれた。
「ゴブ山は別名ゴブリン山だが、正式名称はメイシャール洞窟群で自然の要塞だ。大陸全土の地底洞窟にその洞窟が通じちまっているせいで、もはやゴブリンの生息数は未知の領域だ!」
僕は成程……と思ってしまう。
以前ゴブリンやらオークには痛い目にあったが、どいつもコイツも地底洞窟を経由している話だ。
山の洞窟から地底洞窟全体を占拠していたら、確かに数の把握は難しいだろう。
「今のでわかっただろう?」
そう言った後、彼等は口々に『トロル丘に送られたら最後、人間の歩行速度では逃げ切れん』とか『ゴブリン山は洞窟直結の自然の迷路だ。山も洞窟も全てがゴブリンの津波だ』と言い、最後は『牙山は古代の要塞の様なものだ。遺跡が邪魔で逃げ切れない!!』と説明をした。
自分から聞いておいてなんなのだが……親切なのか何なのか……非常に謎だ。
◆◇
「おい坊主!!話しているうちにもう着くぞ……ロナ・ウルグス正門ご到着だ!」
「すいません。情報収集助かりました」
「どういたしまして……じゃねぇよ!!ちょっと待て!!俺達は親切をした覚えはねぇよ!?どれだけ過酷な土地か………って過酷な土地なんだよな?」
「当たり前だろう!!俺達が足を踏み入れたら1刻も持たねぇよ。馬鹿かオメェは……」
彼等は仲間内で喧嘩を始めたが、僕は彼等と違ってトロル達と仲がいい。
トロル丘に行ったら、王国の話やらマジックテントの話をして呼んでもらえれば誤解はすぐ解けるだろう。
当然……彼等が石にならず、無事帰ってきていればだが……
問題はトロル山でない部分だ。
聞いた以上フラグでしか無いが、極力自然の地下洞窟迷宮やら、オークの三竦みだけは避けて通るべきだろう。
『ガチャン』
僕は色々と思案を巡らせていると、外側から声がして鉄製の金具が外される音がする。
「全員配置につけ!この檻も異常に歪んでいる。中の相手は化け物だ。魔物との戦闘だと思え!」
正直全部聞こえているから辞めていただきたいが、お偉いさんも雰囲気を出しているのだ……それに乗った方がいいのだろうか?
「開けるぞ!全体構え槍!!」
その言葉を聞いた冒険者3名は、檻の奥で抱き合いつつ固まっている。
『とばっちりだけはもう勘弁』と言う表情が読み取れる。
『ギギギギッギ』
『瞬歩!!』
僕は開いた途端、斜めに身体を傾け開く細い隙間から飛び出て馬車の天井に駆け上がる。
当然脚を縛る紐は腕力で引きちぎっている……
「く!!逃すな追うんだ!!」
「僕なら此処にいる!!逃げも隠れもしない……全員纏めてかかってこい!!」
つい気分を込めてそう言うが、周囲は雪景色を通り越して草も生えぬ氷の世界だ。
『あ!……草も何もねぇ。これあかん奴……防寒用荷物ひとつ持たずに飛び出たら、凍死確定じゃん……』
僕の脳裏によぎる、凍死の未来予想図……
僕は腹ばいになって、よじよじと馬車の天井から降り、薄ら笑いしながら投降する。
突き立てられる長槍に、タジタジになりつつも引き続き薄ら笑いで誤魔化す。
「囚人番号810番。調子に乗っていられるのも今の内だぞ!!」
「まぁまぁ……監獄主任大目に見てあげて下さい。彼は何も分からず、此処へ送られてきたんです。取り付く貴族を間違えた為にね!」
「で……ですがシリカ様………」
そう言った監獄主任に、勢い良く蹴りを入れる薬剤商の男……
「シリカ様がそう言っているのだ。黙って聞いておれこの馬鹿が!!」
そう言った男は僕を見るとニヤリと笑う。
「お前は本当に俺が誰か分から無いのか?魔法学に疎い大馬鹿者め!!本当に間抜けな奴だ。幻影術の基本は解呪と心眼魔法学だろうが!!」
そう言って薬剤商の男は、マジックワンドで解除魔法を唱えた。
「あ!?………貴方……何処かで見覚えが……」
「そうよ?見覚えがあるのは当然……彼は帝国魔導師協会のルッティ特務魔導博士。貴方が罠に嵌めた私の部下よ?パウロの鞄事件の責をとってロナ送りにされたの。でも……私が特別に機会を与えることにした。そうよね?ルッティ?」
「はい!シリカ様……この御恩一生かけて尽くす所存にございます!!その上……我に……罠に嵌った汚名をそそぐチャンスまで……」
僕はシリカの言葉を聞き漏らさず話ながらも、その違和感を探る。
今の彼女の意識には、あのホリカワの特殊な感覚が無いのだ。
「貴方……あのお方の探りを入れているのね?なんて……抜け目の無い……」
「シ……シリカ様……あのお方?とは……」
「ルッティ……貴方は余計な事に首を突っ込まない様に言った筈よ?じゃないと……ロナどころじゃ済まなくなるわよ?」
ルッティはその言葉に恐れ慄くが、その意味はルッティが恐れている『トロル山送りや牙山送り』とは大きく意味が異なっていると僕には理解できた。
『首を突っ込めば、ホリカワに寄生される』そう言いたいのは、彼を知っている僕と彼女だけの共通認識だろう。
「平気なんですか?貴女は……」
「ええ……前も話した筈よね?まぁ私は用向きがあれば、この席を空け渡すだけよ?元々既に私のものじゃないもの……」
「でもそれが僕と対立する理由にはならないのでは?」
「だって……貴方……邪魔をするんでしょう?ならば……私にとっても敵よ?」
僕は伏せ字で内容を伝える。
その身体をホリカワに何時迄使わせるつもりだと言う意味だ……




