第1009話「水龍の宝珠」
おはよう御座います!_(:3 」∠)_
朝食にミスドの持ち帰りドーナツを頬張って、喉を詰め死にそうにもがいていました_(:3 」∠)_み……ず………
前回までのお話……
シリカの中に別人格を見た主人公……それは見る限りあまり気持ちの良い物ではない。
そしてその問題の人格は『ホリカワ』だった。
前のような剥き出しの狂気こそ感じないが、何かを企んでいることは間違いが無い。
しかしホリカワは、言葉少なくあっという間にその意識を消した……
「くそ!!足元から……吸い込まれる!?」
「あ!ああ!……ヒロさん消えちゃう!!私消えちゃう!!」
僕は咄嗟に消えかけている足を使い、瞬歩で距離を詰めてラウレーネを抱き寄せる。
『ドンガラガッシャーン!!………ドサ……ドサドサドサ……』
「キャァ!もうもうだめ……ヒロさん……私……わた……あた!?あたたた?な……なに!?……って本!?いっったぁぁぁい角が!魔導書に門が頭に………」
「ぐは…………!?これは魔導書?………こ……ここは……魔導書の倉庫?」
どうやら僕達は、シリカの移送魔法で魔導師ギルドへ飛ばされたようだ。
場所はどうしてだか魔導書の倉庫で、僕達は飛ばされた勢いのまま書棚にぶち当たった。
そのせいで、頭上から本が降り注いだようだ。
「何があったんだい!?何だい!!……ってヒロにラウレーネ!?……何をしてるんだい……あーあ……本をこんなにしちまって……」
僕はモルガンの呆れ顔を見ながら事情の説明をした……
◆◇
「移送系魔法か……って事はあのシリカはこの部屋に、一度は入ったって事だね……何を探ってたんだか……」
「モルガンさん……でも問題はそれだけじゃないんです!あのシリカの中には別人格がもう一人居ました!!」
「別人格だって?……ふむ……もうちょっと詳しく教えてくれるかい?」
そう言ってモルガンはラウレーネに話を聞く。
僕が説明した方が早いが、ラウレーネは何故か張り切ってその説明をし出した。
「なるほどね……それで?ヒロ……アンタも言いたい事があるんだろう?」
「あの中身に居たのは知り合いです。名前はホリカワ。邪悪な思想を持つやつですね……」
モルガンはその言葉で大方を悟ったのか、それ以上は聞かなかった。
「はぁ……だけど目的はハッキリしたね。シリカの目的それは中にいるソイツの手伝いだ。ソイツが何を捜しているかにもよるが……」
そう言ったモルガンは『ガフの間と魔導書の倉庫……ねぇ……繋がりがサッパリだよ』と言う。
「この魔導書倉庫には、何かそれらしい本は無かったんですか?」
「無いわけないだろう……だが持ち出されたなら天井の印に色がつく……何も無くなってない証拠さ」
「それは確実なんですか?」
その言葉を聞いたモルガンは『どう言う意味だい?ラウレーネ……』と尋ね直す……
するとラウレーネは『いや……だって移送系呪文でこの部屋に送れるんですよ?なら見つからないようにその逆も……』と僕が考えていた言葉を口にした。
なので僕はもう一つの方法を示す……
「いや……多分持って出る必要が無かったって事でしょう……」
僕はそう言ってスマホで魔導書の写真を撮る。
「ほら……こうすればもう複写できたも同じですから……」
「成程ね!複写の魔道具かい……羊皮紙じゃないから朽ちて無くならないし、そもそも燃えない……持ち出す方法を考えたって事なんだね!」
僕は首を縦に振ると、『この魔導書倉庫に、彼の必要なものがあったとすればの話です……』と言って周りを見回す。
既に多くの本が棚から落ちている。
その理由は当然だが、僕達がここへ飛ばされたのが理由だ。
「じゃあ……私達ははやくシリカを追いかけないと……」
「なんて言うんだい?持ち出したのを返しな?って言うのかい……そんな魔道具……仲間に預けちまったたらもはや見つけようがない。そもそも用事が済んだならシリカの奴は街から帰ったんじゃないかい?」
モルガンの言葉を聞いて尚、ラウレーネは『なら……馬で追いかけないと!!』と言って本棚を片付けるのをやめて立ち上がる……
しかし今更追いかけても遅いだろう……
「ラウレーネ……もう遅いって言ってるのさ!既にシリカの奴は帝都だろうよ……中に得体の知れないモノが潜むんだ。多分それくらいはやってのける筈さ……」
そう言ったモルガンは、マジックワンドをクルリと回す。
すると次々と本は棚に収まっていく……
埃まみれのラウレーネはそれを見て『私が片す前に……それやってよぉ……』とボソリをいった。
◆◇
「では我々は帝都には、明朝帰るぞ?ヒロ……大義であった!!」
「はい……ドネガン公爵様にモイヤー公爵様。この度は直接持参出来ず……ギルドまでお越し頂いて、すいませんでした」
「なにを言うか。構わん!!これだけの財宝だ……お前がお供もつれずに移動すれば途中に襲われかねん!」
その言葉を聞いたルンハルトは『誰がこの化け物を襲うんだ?』と疑問に思ったが、その言葉は飲み込んだ。
「ヒロ……やっと一件落着?……終わったならこれを試着して?」
ラウレーネの視線が刺さるように痛いが、サイキが渡した物は以前作ると言っていた物のようだ。
「漸く出来たのよ。メインは龍皮で裏地はハイドホラー、妖精の鱗粉を混ぜ合わせた染料で染めた防寒具よ?冷気無効・氷結無効効果があるわ……あとは保温性に優れてるから寒冷地で有名な帝国内では有用な筈よ?」
それを聞いたラウレーネは『無効ステータス持ち!?』と驚きが隠せない。
「ははは……ラウレーネさん驚くのも無理はないわ!まぁ素材が素材だからね。そもそもこの素材はヒロが得た物なの。だからそれを加工して返しただけなのよ?」
事情を聞いたラウレーネは、クロークをじっと見つめる。
それを見たサイキはため息を吐きながら……
「ねぇヒロ……このブレスレット多めに作ったから、ラウレーネさんにもあげて良いかしら?三人で同じものを着けましょう?」
そう言って見せてきたブレスレットを鑑定すると……それはとんでもないものだった。
『ブレスレット・オブ・ウィンター(冬の宝寿)……レジェンドアイテム・水龍ウィンターコスモスの翼の骨を加工してのみ、作成が可能な宝寿を含んだブレスレット。特定範囲内の水をコントロールする力を有している』
僕が止める間も無く、サイキはラウレーネの腕にそのブレスレットを嵌める。
そして突然プレゼントを貰ったラウレーネは、大喜びでクルクルとはしゃぎ回った。
その結果……ギルドホール中央にある噴水の水が中に浮かび上がったり、ぐるぐると回転して天井の方へ上がっていく……
そしてラウレーネとサイキの遥か頭上でひとつの水の塊になった。
しかしサイキもラウレーネもそのことには気が付かない……
単なるアクセサリー程度にしか思っていなかったのだ。
そしてラウレーネが手を下ろした瞬間、頭上から大量の水が落ちてきた……
僕は『ああ……こりゃ無理だ!』と思って、瞬歩で咄嗟に回避を試みる。
「ヒィィ!?」
「ほわぁぁぁぁぁぁ!?」
見事にずぶ濡れになる……二人は乾いた格好の僕をジロリと見ると……
「折角作ってきたのに!!ヒロ何すんの!!」
「そうですよ!ヒロさん!!……水をかけるなんてひどいです!!」
僕は無言でモノクルを差し出す……
「何よ?これで何を見るの?……え?ブレスレット?………」
二人して覗き込んだ瞬間その表情が固まる。
「僕のせいじゃなくて……そのブレスレットはめて回ってたので……止めようが無かったと言いますか……」
僕は『乾燥』の生活魔法を使って二人をすぐに乾かすと、二人はブレスレットを見つめる。
「貰えないわ……流石に無理よ?幾らするやら……」
「でも……同じの3つもあるし。サイズ的に用途が無い素材が余っちゃって、捨てるのは勿体ないからって……調子こいて作り過ぎたのよ」
そう言ってサイキはラウレーネの腕をガシィっと掴んで……『三人共通の内緒ってことで!』と言う。
『既に水の塊を見られた以上……内緒じゃねぇし……』と思いながらも僕はその言葉を飲み込んで、ブレスレットをクロークにしまい込んだ。




