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村人Aに恋した魔王

作者: 野田いしと

 どす黒い雲がこの街を包み込むように落ちてくる。黒い雲から落ちてきたのは天使でもなく漆黒の羽を広げて降りてくる魔族達。


 そんな彼らが裂くように分かれていき姿を現したのは白く美しい髪に線を描くような細い指、その身体は何もかも白くまるで暗闇の中に落ちてきた綺麗な光だった。

 

 しかし、落ちてきた天使の羽は片翼であった。片翼とは思えない程力強く羽ばたいており落ちてくる光は神話に聞く女神の様だった。


「魔王様。この街は全て制圧致しました。」

「ご苦労であった。兵士以外は殺してないな?」

「はっ。」


 彼女は魔王ルシィフィア。

 

 その姿からは元女神や堕天使だとも呼ばれるほどに神々しく、初めて目にする者には魔王などと一切思いはしないだろう。


 魔王は辺りを見渡す。街はまるで侵略されたとは思えないくらいに綺麗なままでいつもの街の風景そのままだ。

 

 人々は囚われはしたものの一人として殺される事はなかった。 


 反撃に出た兵士などは死を覚悟したものは戦いにおいて戦死したが戦意を喪失したものまで追うことはなかった。


 そんな不思議な光景に人々は恐怖するしかなかった。「なにか実験にされるのかもしれない。」「もっと酷い目に合うかもしれない。」「相手は魔族だから、魔王だから。」


 怯える者が大半の中、1人の青年は平然と魔王を見ていた。魔王という圧に押されたわけでもなく、美しさに見惚れたわけでもなく。ただ、なんとなく懐かしいと思っていた。


 そんな視線に気づいたのか魔王もまた青年の方へと目を向けた。


・・・


(見つけた!あの人だ!間違いがない!!)


 魔王のまわりの空気はゆらゆらと揺らぎ出した。魔王の感情の昂りに魔力が放出されたのだろう。


「魔王様。如何なさいましたか?」

「なんでもない。人属をそのまま広場に集めよ」

「かしこまりました。」


(私落ち着きない。大丈夫、大丈夫)






_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _








 天界には美しい兄妹がいた。兄はフォーレスト妹はルシィフィア。しかし、ある時ルシィフィアは兄に冤罪を突きつけられ片方の翼をなくし下界へと落ちてきた。

 

 翼を無くした際に魔力のほとんどを持っていかれ身体が小さくなり村へと落ちていった。

 

 落ちた先には何もなく川が流れる音だけが聞こえ、ルシィフィアは溢れ出る血を見て「ああ、私はここまでなのだな」と諦めていた。


 そんな最期を迎えようとしていたルシィフィアの前にあの青年が現れたのだ。青年は傷だらけの少女を抱き抱えると急いで街へと走った。


 青年の住む村ではここまで酷い怪我は確実に治せないのだ。青年はこの少女の命は守らなければと走った。


 村からでも1日はかかるであろう街まで休みなく走り続けた。


 ようやく街についた時は夜だったが必死な顔の青年と重症を負った少女を見て街の医師は早急に手当てをしてくれた。


 傷を塞いでからは治りも早く一月もせず完治した。


 それらの日々は少女にとってかけがえのない大切な時間へとなった。毎日の様に看病しに来てくれる彼、献身的で爽やかな笑顔に少女は惚れていってしまった。


 この世界は魔族で溢れかえっている。


 彼の住む村にも近隣のこの街にもいつ魔王が来てもおかしくはなかった。


 彼女は思う。


(私1人の力では守ることはできないが軍でも動かせれば。しかし、罪を課せられ天界に軍を呼ぶことはできない。どうすれば彼を護れるの。)


 彼女は考えた、人属を強化するなど武器を授けるなど。だがそれでは護りたい時に護ることができない。


(他の魔王を黙らさればいけるんじゃ?私が魔王になってここを領地にすれば良いんだわ!)


 恋は盲目である。1人の男のために魔王になり護ろうとするのだ。告白をすればよかろうに…。





_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _




「魔王様。人属は集まれました」

「よくやった、下がれ」


 魔王は人属を見渡せるとこへ行き見つける。


(あそこにいるのね!よかったわ!)


 すーっと飛び人々の頭上を通り抜ける。


「貴様、我について来い」

「え?俺ですか?」

「貴様しかおらんだろう」

「はっ…はい」

(ごめんね。びっくりしちゃったかな。)


 青年は魔王の魔法により身体が浮き上がる手足は縛られており動けないため身体を任せるしかない。


「魔王様。他の者は如何なさいますか?」

「自由を与えるのとここの街は我が魔王軍が統治すると伝えよ。反抗する者は殺すが他の街に行くのならば見逃せ。後は宰相貴様に任せる。我は一度城へと戻る、寝室には誰も近づけさせるな」

「はっ!」


 魔王はそのまま優雅に空を飛んでいく。青年は初めて空を飛ぶことを体験し落ち着かない気持ちでいっぱいいっぱいである。そんなこともつゆ知らず魔王はくるくると空中遊泳をするのであった。


 魔王城へ戻ると魔王はそのまま自身の寝室へと向かった。他のものが寄り付かない様に何重にも強固な結界をはり。その強度は人属の王都を護る結界以上の効果が付与されている。


「主よそこの部屋へ入れ」

(どうしよ。好きな人寝室に入れちゃった。大丈夫だよね)

「は、はい」

(落ち着くのよ私。あの時は頭いっぱいでお礼すら言えなかっただから)

「魔王様、私の様なものがなぜここに…」

「そんなもの我の気まぐれだ」

(違うの!一先ずお礼が言いたいの!)


 この魔王何も考えてないのだ。ただただ、この青年と2人きりになりたく連れ出したいという衝動に駆られて出てきただけなのだ。


(まって、そうよお礼がしたいんだから無理に言葉じゃなくても)


「貴様、お茶でも飲むか?」

「い、いえ…。」

「なぜだ!?」

「ひっ。」


(お茶いらなかったのかな?顔色悪いし気分が悪いのかな?)


 この魔王自分の立場というものを理解しようとしないのだ。幾ら街を安全に、そして被害なく侵略したと言っても相手は恐怖の対処魔王なのである。


(どうしよ。回復魔法じゃ気分は変わらないし。とりあえずベッドに寝かす?いや!違うの!寝かすって言っても寝てもらうだけでどうこうするとかそんなんじゃないの!)


「魔王様、私はこれからどうすればよいでしょうか。」

「そこのベッドにでも寝てればよかろう」

「え?」

(どうしよ、この魔王様何考えているかわからない。)


 何も考えてないのである。


 青年は怖いというよりも不思議に思っておりなぜ連れてこられたかがわかっていない。お互いにどうしよどうしよの繰り返して話が進まないのである。


『青年よ聞こえるか?』

「え!?誰ですか」

「どうしたのだ!」

『頭に直接語らせてもらっている。声に出さずともよい』

「大丈夫です。(こんな感じですか?)」

『そうだ。』


 青年に語らう事でなんとかこの場を進めようと試みる。


『青年よとりあえず魔法にお茶を入れてもらえそうすれば良い方向に進む』

(貴方は神様ですか?)

『神ではないが似た様なものだ』

(わかりました)


 この青年物分かりも良く度胸があるのでとてもいい


「魔王様、先程のお茶頂けますか?」

「ああ、よいぞ」

(え!やった!私のお茶飲んでくれるの!)


 2人がお茶とお菓子を静かに流れる光景がこの部屋で黙々と行われている。

 

(神様これで大丈夫ですか?)

『まぁ大丈夫だ』

(魔王様は何がしたかったんですか?)

『魔王はお前に興味を持っている』

(私にですか?)

『聞いてみよ』


 青年はお茶を飲み干しじっと魔王を見つめ聞いてみたのだ。


「魔王様は私に興味があるのですか?」

「なっ!なんでそれを!」


 魔王は突然の問いに不意を突かれいつもの魔王役をできず素の声で反応をしてしまった。


「いえ、そんな気がしただけで」

「そうなの?」

(え?え?私わかりやすいことしちゃってたかな?でもバレてる方がいいのかな?)


(神様これはどうしたんですか)

『魔王はなお前を好いているんだ』

(私をですか?)

『5年ほど前に森で1人の少女を助けただろ、その子が魔王だ』

(え!?あの時のでもそれだとかなり大人っぽく)

『魔力で変わるからな、気になるのなら聞いてみろ』


 魔王があたふたと困惑している中青年はまた問いだす。


「魔王様はあの時の少女なんですか?」

「へっ!?」


ボンッ


 魔王の美しい白い肌はみるみると真っ赤になっていき全身が赤面してしまう。

 耳まで真っ赤になった魔王を見た青年は最初みた威厳ある美しさ、ではなく今は可愛いらしく美しいと思う様になっていた。


「あの、覚えていてくれたの?」

「いえ、今思い出しました」

「あの時は助けてくれてありがとう」


 まだほんのりと赤い頬、穏やかに笑う魔王を見て青年は見惚れてしまうのであった。

 この後は2人で色んなことを話して片想いだった恋は少し進展していくのであった。

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