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夏の昔

作者: なと

夏の昔。昔の日本ってこうだったんだよ。

うだるように暑い。朝顔もしなびて、小鳥たちは何処かに行ってしまった。

引っ越してきた田舎は、夏の昼間は猛暑で、カンカン照りになり、道端の草花はくたりとしなびている。

陽炎が立ち昇り遠くの路地に蜃気楼が見える。

スイは、みん…と蝉の鳴き止むのを待って、ちゃぶ台の上の水を飲むと、炎天下の外にでた。


人っ子一人いない、田舎の夏。路地を歩くと、全身から汗が噴き出してきて、歩くのがしんどい。拭っても拭っても汗は噴き出してくる。のろのろと、歩みを進める。それでも、何もしないよりは、いいから、と、翠は古い家々の間の細い路地を通って、汚い水路のような川にでる。川面を覗くと、水面の下に川魚がいて、彼らだけ元気に泳いでいるのであった。また、蝉が鳴き始める。


水面はキラキラキラキラと、ひたすら輝いて、蝉がミンミン鳴いている。微かな風に木々が揺れ、木漏れ日が白けた道路にゆらゆら揺れている。———————唵阿毘羅吽欠、オンアビラウンケン。

不意に、思い出した。お寺で賽銭を上げるときに唱えるタントラ。

この間、親と行ったお寺で見かけた大日如来の顔が、鈍色に輝やいていたのを不気味に思い出す。


昨日の夜のテレビは、キノコ雲を映していた。何年も前の第二次世界大戦の映像である。不意に、学校の先生が、夏休みに入る前、夏休みの先祖供養は大事にな、と笑っているのにひんやりとした笑顔で、そしてどこか誰か知らない人みたいに、皆に言付けしていた。


もうすぐ、8月15日になる。


なんだか、この田舎町に引っ越してきてから、ずっと、夏場はそわそわしていた。

昨日も、いとこの家で、蚊帳という古い蚊よけの網の中で寝た。

線香の香りが、どこからともなくして、少し開いた家の窓から、ラジオが、「本日は摂氏37度になるでしょう」と言っている。


落ち着かない――――—、空を見上げると、入道雲が、押し迫っている。

夕立———————、もうすぐ、夕暮れ時に、降るだろう。

夏になると、悔いたことばかり思い出す。

昨日、あのとき、あの子にああいうことを言っていれば、

あのとき、泣いていた母親に、別の言葉をかけていれば。

昔がフラッシュバックしてきて、白昼夢に悲しい海を思い出す。


そして、ぽつぽつ、と、雨が降り出してきたかとおもったら、俄かにザーっとバケツをひっくり返したような雨が降ってきた。


翠は、走って家に帰った。家の中で、雨が止むのを待っていると、雨の止んだ町の空は再び明るくなり、水の匂いと、地熱の火照るような水蒸気でむわっとした夕暮れ時に、蝉が、また、カナカナ鳴き始めるのだった。家の目の前の、神社には、夕暮れ時になると点灯する街灯が、オレンジ色の、不気味な色を翠の家まで照らす。


もうすぐ、親が帰ってくる。





こういう話は何度でも書きたい。

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