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世界を救いたいなら、騎士団長を惚れさせろ!?  作者: 緋原 悠
第一章 レティシアの物語(1)
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9.ユベールの作り笑いの威力-1

 お兄様が部屋から出て行くと、今度は部屋の窓がコツコツと鳴った。


 窓の方を見ると、森で出会った美しい青年の姿が見えた。私の部屋は二階にある。ユベールは木の上に登って、「窓を開けてくれ」と私に合図を送っていた。

 私は急いで窓に駆け寄り、窓を開ける。


「女性の部屋のすぐ近くに木を植えるなんて、不用心だと思うよ。防犯面を考えるなら、すぐにでも切り倒した方がいい」

と言いながら、ユベールはすぐに部屋に入ってきた。


「よう、さっきぶりだな。体、大丈夫か?」


 グラディウスの声も聞こえてきた。


 百年後の未来から来た子孫。喋る聖剣。にわかには信じ難い現実が、今実際に私の目の前にある。


「倒れた私をうちまで運んでくれたみたいで、ありがとう」

「気にしなくていいよ。それより、話の続きをしよう」


 ユベールは近くにあった椅子に腰を下ろした。私もベッドに座る。


「魔物退治を手伝ってくれるって言ってたけど、今でも気持ちは変わらない?」


 ユベールの目は、中途半端な気持ちで協力すると言われても困ると、私に訴えているかのようだった。


「もちろんよ。私にできることなら、喜んで力を貸すわ」


 私は自分の誠意が伝わったらいいなと願いながら、ユベールから目をそらさずに答えた。そして

「でも……」

と気まずそうに言葉を続ける。


「リーヴェスって人を惚れさせるっていうのは、勘弁してくれないかしら? 私にはきっと無理だろうし、それに……」


 言いかけて、私は口をつぐんだ。誰にも話したことのない私の秘めた思いを、会ったばかりの子孫に話すべきかどうか悩ましかった。すると、なぜかユベールが代弁してくれた。


「ひょっとして、自分には好きな人がいるって言いたいの? 君の兄さんの友達だろ? バスチアンって名前だっけ?」

「なんで分かるの? そしてなんで名前まで知っているのよ?」


 誰にも話したことがない話を、なぜユベールが知っているのか意味が分からなかった。

 いくら未来から来たとは言え、先祖が片思いしている人の名前をなぜ言い当てることができるのだろう。もしかして、人の心の中まで読める……?

 私が目を白黒させていると、ユベールは愉快そうに笑った。


「君の思いが赤裸々に書かれた日記、百年後まで残っているんだ。日記にすべて書いてあったよ」


 日記!? ほとんどバスチアンについてしか書いていないあの日記が、あろうことか百年後まで残っている!?


「ちょ、ちょっと待ってよ、ただの日記が百年も残っているなんて、おかしいわよ。なんで誰も捨ててくれなかったのよ……」


 顔から火が出るのではないかと思えるくらい、顔が熱い。

 ユベールもグラディウスも他人事だと思って、楽しそうに笑っている。会ったばかりの人を、こんなにも憎いと思ったのは生まれて初めてだ。


「お前の日記からは聖の気が溢れ出てたから、みんな無意識のうちに聖の気を感じ取って、捨てられなかったんだろ」

「せ、聖の気……?」


 私が聞き返すと、グラディウスが親切に教えてくれた。


「人や物が発する目には見えない雰囲気が、オレやリーヴェスには見えるんだ。心が綺麗なヤツからは心地のいい聖気が、逆に陰りのあるヤツからは邪気が見える。聖気や邪気は、人が大事にしている物にも宿るんだぜ」


 確かに日記は大事にしている。書きたい時に書いて、書いていない時は鍵付きの引き出しの中にしまっている。たまに読み返して、バスチアンとの思い出に浸っていることもある。

 しかしその日記が後世まで残ってしまうなんて考えものだ。日記だけは死ぬ前に何としてでも処分しなくてはと、私は心に決めた。


「それより話を戻すけど、片思いの件なら大丈夫だよ。レティシア、もうすぐ失恋するから」

「え?」


 私は耳を疑った。ユベールは女神のような美しい顔で、残酷なことを遠慮なく言ってくる。しかもなぜか少し楽しそうだ。


「全然大丈夫じゃないわよ、どういうことよ?」


 私はユベールを睨む。


 バスチアンと初めて会ったのは六歳の時だ。一目惚れだった。それ以降、十年間片思いをしてきた。

 バスチアンの動作一つに一喜一憂して、もしかしてバスチアンも私のことが好きなんじゃ? と妄想を楽しんできた。


 私のしていた妄想はすべて日記に書いてある。それもすべてユベールに読まれているのかと思うと、今すぐこの場から消えてなくなりたいほど恥ずかしい。


「君が知らないだけで、お兄さんの友達はすでに結婚が決まって……」

「――それ以上話さないで!」


 遠慮なく私の未来を話そうとするユベールを、私は慌てて止める。ユベールは不満そうに

「最初に聞いてきたのは君の方だろ」

と文句を言った。


「――決めた」


 私は手を強く握りしめる。


「私、明日バスチアンに告白する」


 容赦なく未来を教えてくるユベールは、正直なところ憎たらしい。しかし今は前向きに考えて、失恋する前に教えてくれた彼に感謝することにしよう。


 今までバスチアンから好きだと言われることを夢見るだけで、自分から積極的に動こうとはしてこなかった。でも、何も行動を起こすことなく、失恋なんてしてたまるものか。

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