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世界を救いたいなら、騎士団長を惚れさせろ!?  作者: 緋原 悠
第三章 レティシアの物語(2)
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37.氷の鎧が溶けるとき-2

「この部屋には、フィデリオ・オルヒデーが眠っている。本当に入るか?」


 リーヴェスは私の気持ちをまた確認してきた。先ほどお兄さんたちに会いたいと答えたばかりなのに、こんなにも早く私が気変わりするとでも思ったのだろうか。


「もちろんよ」

と答えると、私はフィデリオの部屋の戸を叩いた。


「失礼します。少しお邪魔してもいいですか?」


 人がいると言われたにも関わらず、部屋からは何の返事もない。戸に耳を当ててみるが、人のいる気配を感じられなかった。


 リーヴェスを見ると、部屋の中に入ってみろと目で合図された。私はゆっくり戸を開ける。

 相変わらず、部屋の中は真っ暗だった。


 ユベールは私にランプを譲ってくれた。お兄様は私の腕をつかむと、

「くれぐれも気をつけるんだよ」

と心配そうに言った。


 お兄様は私の腕をつかんだまま、私と一緒に部屋の中までついてきてくれた。お兄様が後ろにいると思うだけで、心強かった。

 部屋の中をランプで照らす。狭い部屋の中にはベッドのみが置かれており、ベッドには人が寝ていた。


 私はベッドに近づくと、ベッド近くにあった窓のカーテンをまず開けた。夕暮れ時ではあったが、部屋は真っ暗ではなくなった。

 ベッドで横になっている男性を見ると、顔が真っ青だった。


「フィデリオはたまに悪夢でうなされているが、大抵はいつも静かに眠っている」


 部屋の出入り口付近に立っているリーヴェスが言った。


 フィデリオは顔色が悪く、そしてあまりにも静かなので、私は彼が息をしているのか心配になった。慌てて近づきフィデリオの胸に手を置く。胸は問題なく上下に動いていたので、私はほっとして息を吐いた。


 すると急に自分の体が重くなり、私は後ろによろめく。すぐにお兄様が抱き抱えてくれたので、私は床に倒れずにすんだ。

 いきなりどうしたのだろうと驚いていると、リーヴェスがフィデリオを見つめながら


「……邪気は無事に払われたようだな」


とつぶやいた。


 嬉しくなって私はフィデリオに近づく。確かに、最初に見た時よりも顔色がよくなっている気がした。フィデリオの手を握ると、氷のように冷たかった。


「早く家の外に出られるようになるといいわね」


 私は眠っているフィデリオに笑顔で話しかけた。

 リーヴェスやグラディウスを浄化した時はすぐに気絶してしまったが、今回は気絶せずにすんでよかった。邪気を払うことに私の体が慣れてきているのだろうか。


 邪気を浄化する必要のある人は、この屋敷にもう一人いる。

 フィデリオの手をそっと離すと、私はリーヴェスに向かって言った。


「もう一人のお兄さんはどこにいるの?」

「……今日はもう帰ったらどうだ。そんなに急がなくても、あいつは一日や二日で死んだりしない。日を改めろ」


 リーヴェスは今までも何度か、私の体を気遣うような言葉をかけてくれる時があった。その言葉をかける時の彼は無表情だったり、少し面倒くさそうだったりしたが、いま目の前にいるリーヴェスからは、彼の表情からも話し方からも、心から心配してくれていることが伝わってくる。

 今までの彼の振る舞いからはどことなく冷たさを感じたが、目の前のリーヴェスからは冷たさが消えていた。心温かい人が今まで身につけていた氷の鎧は、熱に耐えきれず溶けてしまったようだった。


「ご心配ありがとう。一瞬気絶しそうになったけど、今は大丈夫」


 私はリーヴェスに笑いかけた。私のことを思ってくれるのは嬉しいが、素直に言葉を受け入れる気はない。


「すぐ近くに苦しんでいる人がいるんだもの。このまま帰ることなんてできない」


 どれだけ頑張ったって、救うことのできない人はいる。しかしリーヴェスの兄弟は、救える可能性が高いのだ。だったら早く助けてあげたい。

 リーヴェスは私を見透かすかのようにじっと見つめてきたが、やがて口を開いた。


「お前は自分の体に危険が及ぶかもしれないという恐怖より、困っている人を助けたいという気持ちの方が勝るわけか」

「そうよ。自分の身に危険が及ぶかもしれないっていうのは不確かだけど、困っている人がいるっていうことと、私にしか助けられないっていうことは確かなことなんだもの」


 室内は薄暗いにも関わらず、リーヴェスはなぜかまぶしそうに目を細めながら私のことを見ている。


「俺にはまったく理解できんが――、そういう考え方を否定するつもりはない」


 気のせいかもしれないが、リーヴェスの口元がほころんだ気がした。


「ついてこい」

と言うと、リーヴェスはもと来た道を戻っていく。


 リーヴェスは玄関の間まで戻ると、今度は青色の扉の方へ向かった。赤色の扉には鍵がかかっていなかったのに、青色の扉には鍵がかかっているようだった。


「こっちの部屋にいる奴はたまに暴れる。気をつけろ」

 鍵を開けながら、リーヴェスは言った。


 青色の扉の先にも廊下が続いていた。右側には部屋、左側には窓が並んでいる。

 今まで屋敷の中は音一つ聞こえてこなかったのに、廊下を進むと、次第に男性の声が聞こえるようになってきた。奥に進めば進むほど、声は大きくなっていく。誰かと話しているような感じではないのだが、ひとり言にしては声が大きい。


 リーヴェスは一番奥の部屋の前で立ち止まると、

「この部屋にシェルム・オルヒデーがいる。本当にこいつにも会うのか?」

とまた私の意思を確認してきた。


「しつこいわね。何度聞かれても、私は会うって答えるわよ」


 さすがにうんざりしながら私が答えると、リーヴェスの口元がまたほころんだように見えた。

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