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世界を救いたいなら、騎士団長を惚れさせろ!?  作者: 緋原 悠
第三章 レティシアの物語(2)
36/45

36.氷の鎧が溶けるとき-1

「こんにちは」


と言いながら、私はオルヒデー家別邸の玄関の扉を叩いた。しばらく待っても、屋敷の中からは物音一つ聞こえてこない。

 今度はもう少し大きな声で言いながら扉を叩いてみたが、結果は同じだった。


 仕方がないので、

「お邪魔します」

と言ってドアノブを回そうとしたが、扉には鍵がかかっていた。


 屋敷の窓にはカーテンがかかっていて、外からは中の様子が分からない。


「この家にお兄さんたちがいるのよね?」

 私は一番後ろにいたリーヴェスに話しかけるが、リーヴェスは

「さあな」

と言うだけで、教えてくれなかった。私たちのすることを止めはしないが、助けてくれる気もないらしい。


「この家にリーヴェスの兄弟がいるの、間違いないのよね?」

 私は、今度は隣にいたお兄様に尋ねた。

「そのはずだよ」

 お兄様は困ったように笑いながら言ったあと、

「中から開けてくれる人がいないんだ。レティシア、今日はもう帰らないか?」

と遠慮がちに聞いてきた。


「いやよ」


 リーヴェスの兄弟に会うために二日も待ったのに、何の収穫もないまま帰るのはごめんだった。

 お兄様自身、私がまっすぐ帰るわけがないことぐらい、簡単に想像できたようで

「そうだよね」

と、伏し目がちに小さくつぶやいた。


「決めたわ。私、誰かがこの屋敷に来るまで帰らない」


 私は大きな声で宣言すると、玄関の扉の前に腰を下ろした。そんな私を見てユベールが

「地べたに座るなんて、はしたないよ。仮にも伯爵令嬢なんだし」

と小言を言ってきたが、聞こえないふりをする。


 誰も何も喋らないまま、時間だけが過ぎていった。私たちの間には重い空気が流れているが、そんなことお構いなしに小鳥たちは楽しそうに屋敷の周りを飛び回っている。


 扉の前から動く気配のない私を見て、リーヴェスは大きなため息をついた。そして今まで胸の前で組んでいた手をポケットに入れると、ポケットから取り出したものを私に向かって投げた。

 それを両手で受け止めると、私は手の中を見る。リーヴェスが投げたのは、鍵だった。この屋敷の鍵に違いない。


「リーヴェス、ありがとう」


 私は笑顔でお礼を言うと、急いで立ち上がった。扉の鍵穴に、リーヴェスから受け取った鍵を差し込んでみる。鍵を左に回すと、かちゃりと軽い音がした。


「関わるなと言っていたくせに、意外と協力的なんだな」

 お兄様がリーヴェスに向かって言った。

「わざわざ俺を呼んだのはお前だろ」

とリーヴェスはお兄様を睨みながら言うが、

「なんのことだか」

とお兄様は笑顔で受け流した。


 私には分かる。お兄様がいくら否定しようと、リーヴェスを呼んだのはお兄様だ。

 屋敷に鍵がかかっていることをあらかじめ知っていて、鍵を開けてもらうためにリーヴェスを呼んでくれたに違いない。

 なぜそれを私に隠したがるのかは分からないが、お兄様はたまに恥ずかしがり屋なところがあるので、「さすがお兄様!」と私に尊敬の目で見られるのが恥ずかしいのかもしれない。


 玄関の扉を開けると、屋敷の中は真っ暗だった。出入口のすぐ隣には机が置かれていて、机の上には二個のランプと一箱のマッチがあった。


 ぎしぃ……。


 薄暗い部屋に、床のきしむ音が響く。外から見ると立派な屋敷なのだが、室内は埃っぽく、ところどころに蜘蛛の巣が張られているありさまだった。

 天井に吊るされている豪華なシャンデリアに、最後に火が灯されたのはいったいいつのことなのだろう。


 オルヒデー家別邸の玄関は広く、うちの食堂程度の広さがあった。外から入って右側には赤色の扉、左側には青色の扉、そして正面奥には廊下が続いている。


「使用人たちはこの屋敷を気味悪がって、昼間に一度しか顔を出さない。そしてこの屋敷を任された使用人のほとんどは、三か月も経たないうちに辞めていく」


 後ろにいたリーヴェスが、私の隣まで歩いてきた。


「この屋敷の様子を知ってもまだ、兄たちに会いたいと思うか?」

「思うわよ。そんなに困っている人が多いんだったらなおのこと、私が力になれることがあるのなら力になってあげたいわ。そのためには、まずお兄さんたちに会わなくちゃ」


 私はランプの準備をしながら答えた。リーヴェスはただ黙って私がランプに火をつけるのを見ている。

 私がランプ二つに火を灯し終わると、リーヴェスはそのうちの一つを手に持って

「ついてこい」

と言った。お兄さんのいるところまで案内してくれるようだ。大きな屋敷なので、一部屋一部屋探さなくてすむのはありがたい。


 残り一つのランプをユベールが手に取った。


「あいつ、なんだかんだ言いながらあまいよね」


 私の隣を歩きながら、リーヴェスに聞こえてもおかしくないくらいの大きな声でユベールが言った。


 歩くたびに床が悲鳴を上げている。元気よく走ろうものなら、床はすぐに抜けてしまいそうだった。

 ゆっくり足を動かし、リーヴェスの後を追う。私を気遣ってくれているのか、前を行くリーヴェスの歩く速度はややゆっくりだった。


 リーヴェスは玄関の間の右側にある赤色の扉を開けた。扉の先には廊下が続いていて、左側には部屋が何室も並び、右側には一定の間隔で窓が並んでいた。どの窓のカーテンも重く閉ざされ、外の光はまったく室内に差し込んでいない。

 リーヴェスは廊下を進むと、一番奥の部屋の前で止まった。

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