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16.魔物退治

「この状態が続けば、死人が出るのよね?」


 店内が緊迫した空気に包まれ、人々が心配そうにリーヴェスとテネブライのやり取りを見守っているなか、レティシアがのんきな声で聞いてきた。


 僕、ユベールは呆れながらもレティシアの問いに

「そうだ」

と答えた。


 テネブライが姿を現してからというもの、体が重くて仕方がなかった。見えない何かに体を抑え込まれているような感覚がずっと続いている。テネブライが口を開くたび、背筋に悪寒が走った。額からは変な汗が流れてくるが、それを拭きとる余裕もない。


 店内にいる人を見る限り、みんな僕と似たような状況のようだった。――ただ一人を除いては。


「魔物はリーヴェスにしか倒せないのよね?」

「そうだ。昨日話しただろ」


 昨日今日で説明したばかりのことを、レティシアは気にする様子もなく聞いてくる。これ以上変な質問をしてくるなという思いを込めて、僕はレティシアを睨んだ。

 やっかいな事に、銀の羽根の守護のおかげなのか、後ろにいるレティシアは僕とは対照的で、生き生きとした顔をしている。


「分かったわ」

と、レティシアは僕のいらだちを気にする様子もなく、無邪気に言った。

 そして彼女は颯爽と僕の横を通り過ぎていく。レティシアの腕をつかんで止めたかったが、体が思うように動かなかった。


 レティシアのことだから、何の考えもなしに突っ込んでいったに違いない。僕は動かない体を無理やり動かしてレティシアを追うが、迷いなく進む彼女の足には追いつかなかった。


 レティシアが近づいて行くと、テネブライは驚いた顔をしてリーヴェスから離れた。


「しっかりしなさい!」


 レティシアは元気よく飛び跳ねると、リーヴェスを蹴った。


 ――最悪だ。


 第一印象は大事だとレティシアに教えたばかりなのに、やはりレティシアは僕の話を聞いていない。レティシアがもう少し考えてさえくれれば、他にも手段はあったと思う。

 男性を飛び跳ねて蹴るなんて、はしたないにも程がある。「こんな服装では入りづらい」とレティシアは最初レストランに入ることをためらっていたが、服装よりも先に自分の振る舞いを気にしてほしいものだ。


 レティシアは蹴った反動で後ろに跳ね返り、そのまま床に落ちた。ようやく追いついた僕は彼女を抱き起す。気を失ってはいるが、見たところ怪我はしていなさそうだ。


 グラディウスはけらけら笑いながら

「レティシア、元気がよくていいな。グッジョブ」

と言った。グラディウスの口ぶりから察するに、リーヴェスの邪気は無事に払われたようだ。


 リーヴェスは信じられない、といった顔でレティシアを見ていた。今日レティシアに出会うまで、邪気を払うことのできる人間がいるなんて知らなかっただろうから無理もない。そして見知らぬ女性にいきなり蹴られたことも、彼にとっては驚きだっただろう。


「何、この小娘は? あともう少しで、リーヴェスは落ちたのに。よくも邪魔してくれたわね」


 テネブライが悔しそうな声を上げた。


 今まで動く気配のなかった魔物が、うなり声を上げていきなり動き始める。

 魔物が動き始めたのと同時に、体にかかっていた圧もなくなった。それは他の人も同じだったようで、自由に動けるようになった人々の叫び声が静かだった店内に響きわたった。


 人々はレストランの出入口を目指していっせいに走ったため、出入口付近は人同士の揉め事が発生しそうになっている。


 リーヴェスは剣を抜くと魔物に切りかかった。リーヴェスの手に握られている剣は、間違いなくグラディウスだった。

 しかし僕と一緒にいる錆びたグラディウスとは違い、リーヴェスの聖剣には神々しい輝きがある。


 たったの一振りだった。


 僕たちを長年苦しめていた魔物は、リーヴェスの一振りで簡単に消え去った。店内にいた人々は、リーヴェスがあっという間に魔物を退治したことに気づくと、歓喜の声をあげた。同時に拍手も沸き起こる。


 聖剣さえ継承できていれば、平和な世界を簡単に維持することができたのだ。今までの僕たちの苦労は何だったのかと、複雑な気持ちになった。

 この気持ちは聖剣を途絶えさせてしまったリーヴェスの失態に対する怒りでもあるし、僕たちがいくら苦しみもがいたところでリーヴェスなくして救いはなかったのだと気づいた虚しさでもある。

 僕の時代――未来にいたまま僕たちも救われたかったという悲しみでもあるし、魔物から救われたこの時代の人に対する妬みも、もしかしたらあるかもしれない。

 どちらにせよ、負の感情であることは間違いなかった。


「せっかく何百年もかけてオルヒデー家を追いつめてきたのに、あの女のせいで今までの苦労が水の泡だわ」


 テネブライが悔しそうに唇を噛みしめながら言った。

 おそらく彼女はレティシアを見ようとしたのだろうが、偶然僕と目が合った。


「あんた……おもしろいわね」


 テネブライは僕に興味を持ったかのように目を光らせている。彼女の目は僕の心の中をのぞき見ているかのようで、気味が悪かった。


「――あんたのこともその女のことも、許さないから。また会いましょう」


 不機嫌そうに言うと、テネブライは黒い渦の中に消えて行った。同時に黒い渦も消えて見えなくなった。


「その女、大丈夫か?」


 リーヴェスが話しかけてきた。邪気は払われたはずだが、リーヴェスは難しい顔をしている。


「ああ、ただ気絶しているだけだ。問題ない」


 僕は自分の本心を隠すように、リーヴェスに笑いかけた。


「その女……何者だ?」

「彼女の名前は、レティシア・キルシュバオム。邪気を浄化する不思議な力があるんだ。気になるようなら、キルシュバオム家へ来い」


 僕はレティシアを抱えたまま立ち上がると、近くのテーブルにお金を置き、その場を後にした。


 僕一人でリーヴェスと話してもよかったが、僕はいったんこの場を離れて自分の気持ちを落ち着かせたかった。

 リーヴェスとこのまま話していると、なんで聖剣を繋いでくれなかったのだと、彼を責めてしまいそうだった。

 聖剣を繋げなかったのは僕の時代のリーヴェスであって、今ここにいるリーヴェスではない。彼を責めても仕方がないのに、なぜか感情の高ぶりが抑えられそうになかった。


 レティシアとリーヴェスが上手くいくかは分からないが、ひとまずレティシアはリーヴェスの気を引くことには成功したようだ。

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