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世界を救いたいなら、騎士団長を惚れさせろ!?  作者: 緋原 悠
第一章 レティシアの物語(1)
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14.街に魔物出現-1

 レストランは劇場に隣接しているだけあって、正装した人ばかりだった。普段着を着ている私たちは入店を拒否さえされなかったものの、店員には見るからに嫌そうな顔をされ、しぶしぶ案内された席はトイレの近くだった。


 場違いな服装をしている自分が私は恥ずかしくてたまらないのだが、ユベールは周りの目を気にしている様子はなく、一人の客として堂々と振舞っている。


 リーヴェスたちの席と私たちの席は近くはないものの、リーヴェスたちの様子を気兼ねなく観察できる、ほどよく離れた位置だった。


 ユベールはメニュー表を見ると

「案外安いね」

とつぶやいた。


「何言ってるのよ、ここ高級店よ」

と言いながら、私もメニュー表をのぞき込む。


 飲み物一杯の料金が、私がよく遊びに行く庶民向け食堂の昼食よりも高い。


「私、あんまりお金持ってないんだけど、大丈夫?」


 私は心配になって、小声でユベールに尋ねた。レストランに入ってしまった以上、何かしら注文しなくては追い出されてしまう。


「好きなものを頼むといいよ。お金なら僕が持っているから」


 ユベールの身なりを見るかぎり裕福そうには見えないのだが、メニュー表に載っている金額を見ても動じないということは、ユベールは案外お金持ちなのだろうか。

 高い金額を見てしまうと自分でメニューを選ぶことができず、結局私はユベールと同じものを頼んだ。


 料理の注文が終わったので、

「じゃあ私、リーヴェスを浄化してくるわね」

と私は早速、自分に与えられた任務を遂行すべく席を立とうとした。

 しかし、ユベールがすぐに止めてきた。彼は私の服の袖をつかみながら言う。


「ちょっと待って、何て言ってリーヴェスに近づくつもり?」


 そこまで深く考えていなかったので、


「ひとまず自己紹介よね。『私はレティシア。あなたを浄化しに来たの』って言って触るのはどうかしら?」


とその場で考えながら答えた。ユベールは渋い表情をしている。


「却下。第一印象は大事なんだ。最初に変な印象を持たれてしまうと、挽回するのに時間がかかる。レティシアはリーヴェスを浄化するだけじゃなくて、好きになってもらわなきゃいけないんだからね?」


 ユベールは作り笑顔で教え諭すように私に言う。ユベールが袖を離してくれないので、私は仕方なく椅子に座り直した。


「じゃぁ、どうしたらいいのよ?」


 私は口をとがらせながら、ユベールに聞いた。


「まずは二人を観察して、接触するのに最適なタイミングを見極めよう」


 グラディウスはこのレストランで魔物が出ると言っていたのに、ユベールは悠長なことを言っている。


「接触するよりも前に魔物が出たらどうするのよ?」


 ユベールはリーヴェスたちをじっと観察しながら、私の質問に答える。


「被害さえ出さなければ、魔物が出現したあとだって問題ないよ。むしろ、魔物の出現後に危ないところを助けた方が、リーヴェスは僕たちの話をちゃんと聞いてくれるかも」


 ふとユベールと出会った時のことを思い出した。ユベールは、私が命を狙われて危なかったところを助けてくれた。


「ねぇ、こんなこと聞きたくないけど、もしかして私が魔物に遭遇するよりも前から私のこと見てた?」


 ユベールはリーヴェスたちを見たまま、何も答えない。


 給仕が食事の前に飲み物を運んできて、テーブルの上に置いた。

 ユベールは「ありがとう」と言うと、氷の入った飲み物をすぐに飲み始める。私の質問には答える気配がない。


「ねぇってば」


と言って、私はユベールの視線を遮るようにユベールの前に立った。


「――分かったから、席に座ってくれない?」


 ユベールは面倒くさそうに言った。そして私が席に座ったのを確認してから話し始める。


「実際に魔物と遭遇する前に『一緒に魔物から世界を救ってほしい』って言っても、信じられなかったでしょ? どんな状況であれ、僕が君の危ないところを救ったっていう事実は変わらないから」


 ユベールは冷たい笑顔で言うと、またリーヴェスたちの観察を始めた。


 はっきり肯定はしていないが、ユベールは私が危険な状況に陥るのを、近くで黙って見ていたのだ。だがユベールの言う通り、私は危ないところを助けてもらったことには変わりないため、

「そうね、ありがとう」

と言うと、この話を終わらせた。


「そんなことより」

とユベールは話題を変えてきた。


「意外と、リーヴェスと婚約者の仲を引き裂くのは簡単かもしれない。二人の仲は悪くはなさそうだけど、親密そうな雰囲気はない。さっきから観察してるのに、お互いに一定の距離があって、ちょっとしたボディタッチもない」


 グラディウスもすぐに同意する。


「だろ? リーヴェスにとってあの女は一緒に育った兄弟のようなもので、大事な存在ではあるけど、それ以上ではないのよ」


 私もユベールと同じように、リーヴェスたちを見た。


 確かにユベールの言う通り、リーヴェスたちの間に一定の距離はある。

 リーヴェスから婚約者の女性に何かを話す様子はなく、ただ相づちを打っているだけのように見える。だが女性は、尊敬の眼差しでリーヴェスを見ながら、時には頬を赤く染め、嬉しそうに話していた。

 女性はリーヴェスの反応の薄さにたまに寂しそうな表情を見せる時もあるが、それでもリーヴェスのそばにいられることを嬉しく感じているようだ。


 他者から見たら、バスチアンに片思いしていた時の私もあの女性のように映ったのかな、と思うと、楽しかったはずの過去が蘇ってきてつらくなった。

 私の恋は叶わなかったけど、あの婚約者の女性は、リーヴェスのそばにずっといてほしい。


 時おり自分の世界に入りながらもリーヴェスたちを見続けていたら、ふとリーヴェスの顔色が気になった。


「ねぇ、リーヴェスの顔色悪くない?」


 リーヴェスたちの仲をいかに引き裂くかを話し合っていたユベールとグラディウスに、私は声をかける。


 最初はリーヴェスの美しさにばかり目が行って気づかなかったが、よくよく観察してみると、リーヴェスは何かに耐えているようなつらそうな表情を見せる時があった。


「リーヴェスはオレを継承してから、ずっと不調なんだ。邪気がどんどんまとわりついてきてて、もう限界なのさ。明日死んじまうだけある」

と、グラディウスがいつもの軽い調子で教えてくれた。


「何あれ?」


 隣のテーブルに座っていた女性の声が聞こえてきた。急に店内がざわめき始める。

 周りを見ると、みんな同じ方向を見ていた。みんなの視線の先には、リーヴェスたちの座っているテーブルがある。

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