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世界を救いたいなら、騎士団長を惚れさせろ!?  作者: 緋原 悠
第一章 レティシアの物語(1)
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11.恋愛指南書

 夕食はいつも、家族全員で食べている。食卓に着くと、すでにお父様とお兄様が席についていた。


「レティシア、お前を昼間運んできてくれたという青年は知り合いなのか? どこで知り合ったんだ?」


 お父様はえらく機嫌が良かった。


 キルシュバオム家の当主であるお父様は、いつも陽気で明るく、使用人たちからも慕われている。単純で素直な性格ゆえにたまに騙されることもあるが、優秀な執事たちがお父様を守ってくれていた。


 私はよく父親似だと周りの人から言われる。お父様を尊敬しているので私にとってはこの上ない褒め言葉だ。


 私は昼間、ポリーヌが行くなと言っているのを聞かずに家から飛び出し、結局は倒れて運ばれてきたので、今夜はお父様からお叱りを受けるに違いないと覚悟していた。


 しかしどうやら、ユベールのおかげで救われたようだ。


「森でたまたま知り合ったの」


 私は笑顔で答えた。最近お父様から注意を受けることが多かったので、こんなにも上機嫌なお父様を見られるのは嬉しい。


「お前のおてんば振りには手を焼いていたが、良い結果をもたらすこともあるんだな。彼の名前は何というんだ?」

「ユベールっていうの」

「苗字は?」


 聞いた覚えはあったのだが、すぐに思い出すことができず、私はしばらく考えたあと


「忘れた」


と素直に答えた。


 お父様は飲んでいたワインが変なところに入ったのか、むせている。しばらく咳き込んでいたが、落ち着くとまた笑顔になった。


「親戚に、レティシアと同じくらいの年齢で紫色の瞳を持つ青年がいるとは知らなかったが、紫色の瞳をしている以上、遠縁か何かだろう」


 お父様が、私の肩を強く叩いてくる。


「レティシア、頑張ってユベール君を落としなさい」

「……落とすってどこからどこに?」


 急に嫌な予感がした。私の食事をしていた手が止まる。


「ユベール君をお前に惚れさせろってことだよ」


 お父様は激励の意味でも込めているのか、私の肩を何度も力強く叩いてくる。

 まさか、似たようなやり取りを、同じ日に別の人ともすることになるとは、思いもしなかった。


「お父様、ユベールの身分も分からないのに、そんなこと言っていいの? うちの遠縁だからといって、貴族とはかぎらないわ」


 私は、お父様が私の結婚相手の身分にこだわることを知っている。

 ユベールの実際の身分はよく分からないが、おそらく今の時代では持ち家すらないような立場だ。


「それはもういいんだ、諦めた。父さんが高望みをしていたことに最近気づいた」


 一般的に考えて、私は伯爵家の娘なのだから、家柄のいい男性と結婚することは別に高望みでも何でもない。普通のことだ。


 お父様は急に疲れ顔になった。


「お前が隠れもせずチャンバラごっこをしているせいで、お前の結婚相手探しに父さんは苦労させられているんだ。父さんが結婚相手を見つけられない以上、自分で捕まえてくるしかない。ユベール君を逃すな」


 お父様は、真剣な顔つきで諭すように言ってくる。


 つい最近まで、私は自由に育てられてきた。お父様に教えてもらったことと言えば、乗馬くらいしか思いつかない。今まで息子を育てるかのような教育をしておいて、いきなりのむちゃぶりだ。美青年を惚れさせろと言われたって、私は何の術も持ち合わせていない。


 ユベールが「リーヴェスを惚れさせろ」と言っていた時はごまかすことができた私も、お父様の言うことは拒否できなかった。


「はい」


 私が弱々しい声で言うと、お父様は満足そうに頷いた。


「部屋の中にいるだけじゃ、暇だろう。これは、お前へのプレゼントだ」


 お父様は一冊の本を私に手渡してきた。

 本の表紙には『男に愛される女になるための百八箇条』と書かれている。


「この手の本はいろいろあって選ぶのに苦労したよ。結局、愛される方法が一番多く書いてあるこの本を選んだんだ」


 お父様は笑顔で言った。


 私は最初の一ページを開いてみる。そこには「愛される方法が一番多く書いてあるからといってこの本を選んだのなら、まずはその考え方を改めよ」と書かれてある。


「ほ、ほう……」


 私は助けてほしくてお兄様に視線を送った。お兄様は私の視線に気づいたのか、

「レティシア、父さんの言うことを真に受ける必要はないよ。適当に聞き流しなさい」

と食事の手を止めずに言った。


 それを聞いてお父様は嘆く。


「レティシア、決して聞き流すんじゃないぞ。カーティスといい、レティシアといい、わが家の子は誰も結婚できないんじゃないかと気が気でならないんだ」


 お父様は本当に困っている様子だった。私は苦笑いするしかなかった。

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