久しぶり 2
本屋に着くと、すぐに目的の雑誌を手に取った。
本の内容はここ数年間の未解決の事件がまとめられた雑誌だ。
雑誌ををぺらぺらとめくっていく。そしてある事件のページで手が止まる。
「2047年 連続殺人事件 被害者6名」
今から3年前隣町で起こった連続殺人事件であり、昼からする予定の話の内容そのものだ。
当時は報道規制もあり、なかなか情報が入らなかったが、俺と竹本、高橋は細かな情報を持っていた。
何故なら、その事件を追っていた警察の中には俺たちの高校時代からの友人の
「守山 匠」がいたからだ。
しかし守山は6人目の被害者がでたと同時に行方をくらまし、
以後消息不明となっている。
6人目の被害者が出るまでは、部外者への情報漏洩など気にしてないかのような素振りで、
逐一メールで捜査情報を少ないながらも報告してくれていた。
結局、容疑者は赤いコートの女ということしか分からなかったが、守山は防犯カメラが一瞬だけとらえた唯一の資料だと言っていた。
「当時殺された被害者の共通点は...」
次のページをめくろうとした瞬間
「おじさんもその事件興味あるの?」
若い女の声だった。唐突な呼びかけに思わず驚き、雑誌を地面に落としてしまった。
振り返るとそこには、まだ10代半ばにしか見えない、黄色いコートを着た女の子がいた。
気付いたときには落とした雑誌を拾って差し出してくれていた。
「あ、ああ。そうだね...」
急な質問で少し言葉が詰まった。
「私もなんだ~」
その答えに俺は疑問を覚えた。何故3年前の事件にまだ若いこの娘が興味を持つのだろうか。
すぐにその疑問を問い返した。
「何で興味があるんだい?」
「この事件捜査してたの私のおじさんなんだ~。
まぁ、今はいないけど探し出して聞きたいことがあるんだ。
どうしても聞かないといけないことがあってね...。」
髪に隠れて表情はよく見えなかったが、彼女の言葉はひどく冷たい気がした。
俺はその返答に何故か言葉を返すことができなかった。
雑誌を棚に戻すと
「見たい物も見れたし!私もう行くね~」
若い女の子は走って本屋を後にしようとする。
名前を聞かないとまずい。そう思い、去ろうとする彼女を呼び止める。
「君ー!名前は!?」
彼女は迷うことなく
「ユリ!ユリだよー!また会おうねマヌケなおじさん!」
そういってユリは走って静かに振る雪の中に消えていった。
「俺まだ29なんだけどなー...29っておじさんになるのか...」
歳はあまりとりたくないな、この時初めて思ったかもしれない。
心に小さな傷を負いながら時計の針を見つめると正午を回っていた。
このままでは約束の時間に間に合いそうにない。
久々に全力で雪の上を駆けた。
「真理...怒ってるんだろうな...」
そう呟いたことすら忘れて、俺は本屋を後にした。