甘い甘い甘い〜これは婚約破棄でしょうか〜
マリアージュ フランス語で婚姻・結婚
「君とのマリアージュは無かったことにしてくれ」
近くにいるはずの彼の声がすごく遠い......。
私はかなり甘いらしい。
いつからだろう。私と彼が一緒にいるようになったのは。
彼は私と一緒が当たり前。
「私のいない時の彼は物足りない」なんてよく言われていた。
相性がよくて、お似合いの二人。
ただ、長く一緒にいすぎたせいか二人の関係はマンネリ化していたのかもしれない。
時々、彼の側には違う子がいた。
もちろん、最後には私のところに戻ってくるんだけど。
いつも、私は彼の白く広い背中に顔を埋める。
とろけるような甘い香りがした。
二人の関係はずっと変わらないと思っていた。
……私があの人と出会わなければ。
最初は遊びのつもり。
とろけるような甘さはないけれど、優しくやわらかな人。
長く続かない関係。
そう思っていたはずなのに……。
あの人は、少しクールな彼とは違い、私の事をいつも優しく包んでくれた。
「珍しい組み合わせだね」
そんな風に言われていた私達が「お似合い」と言われるまでに時間はかからなかった。
彼とあの人、私はどちらも選べなかった。
我ながら甘い考えだと思う。
そして、自分は常に選ぶ側だと思っていた。
けれども世の中そんなに甘くない。
あの日、私はあの人に駆け寄ろうとして彼の甘い香りを感じた。
最初は二人が私の取り合いをしているのだと思った。
「私を取り合わないで」そんな陳腐な甘い台詞を吐こうとして息を飲む。
目の前の光景は私のそんな甘い思考をすぐに取り去った。
その場から逃げ出した、まるで転がるように。
彼の白く広い背中にとろけるような彼の甘い香り。
やわらかな優しさで包み込んでくれたあの人。
しかし、先ほどの光景が頭に浮かびその思い出が塗り潰される。
彼の白い肌を、あの人がやわらかなその体で抱きしめていた。
まさか、そんな。あの二人が合うはずなんてない。
固定観念が否定する。けれども、そんな概念はちっぽけなものだと思い知らされた。
まるで彼の香りを逃がすまいと包み込んでいたあの人の肌。密着して絡み合う体。
何より意外な組合せだけど、間違いなくお似合いの二人。
そして思い知った。私は彼らに選ばれなかったのだと。
これが、温室育ちで甘やかされた……私の婚約破棄の顛末。
「こういう感じにしようと思うんですよ。今度のグルメスイーツフェスティバルの『ショートケーキin大福』の紹介文。苺にも勝るって感じでてるでしょ。どうですか、店長」
「甘い、却下」
マリアージュ フランス語で食べ物などが絶妙調和した状態。