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―――お昼休み
「―――でさ、そのあとに」
「幸一!」
「うん、真島?どうした?」
昼食前にトイレに行き、手を洗って帰ってくるとクラスメイトの一人があわてた様子で僕に声をかけてきた。
「なんか、お前に弁当届けに来たやつが現れて委員長と一触触発寸前になってる!」
「ハァ!?」
先週の委員決めで星良は再び学級院長になった。
もともとあだ名の『委員長』を武蔵が言っていたので、『委員長』予備はすぐに広まった。
ただ、僕は星良からできれば名前呼びしてほしいと言われたので名前で呼び続けている。
星良はクラスの中の女子たちの仲を取り持ってくれるおかげであまり壁はないように思える。
文武両道なので疎まれるかと思えば役職の仕事に加えて、困っている時に声をかけて力を貸してくれることからクラスの評価は高く、クラス外でもなかなかに評判だ。
故に、仲良くしている僕との関係を疑う者も多い。
まあ、ただならぬ関係ではあるけど。
さて、急いで教室についてみるとそこには、僕の席に座り男装をしたオルトラが座っていた。
その正面では机をくっつけた星良が俺の弁当を喰って灰となって撃沈していた。
「お、おい。オルトラ。言いたいことはいろいろあるが星良はどうしてこうなっている?」
「うん?僕が君の忘れた弁当を届けに来てやったら、一発で僕を女の子と見ぬきこのお弁当の事を聞かれたから「あいつがせっかく作った弁当忘れたから届けに来てやった」と言ったら、こうなった」
うん。やばいね。ただでさえ、聞いた側からすればやばい状況なのに何一つ訂正のしどころがない事がなおやばい。
「幸一君?」
「お、おう。せ、星良?・・・大丈夫か?」
「この件、静香ちゃんとにも連絡させてもらいますからね」
「まて、なぜそこで静香が出てくる!?」
「なぜって・・・同盟の条約適応案件だからですよ~。あとユフィーちゃんにも連絡しますから」
「いや、待て。一旦落ち着こう。話せばわかる」
「だーめ。お話は放課後にね?」
普段は真面目な星良。彼女は許容範囲の現実を超えるとえろく・・・じゃなかったえらく妖艶なお姉さんのような雰囲気を醸し出す。
星良は僕の〈暴食〉に対応する〈忍耐〉の美徳を持っているがその〈忍耐〉は未経験や経験の少ない事柄に対してもろい面を持つ。
また、忍耐はその許容量を超えたとき大いなる力を得るが、秘められた人間御3大欲求の一つを耐えた分を威力と効果時間と効果範囲に換算して発動させる。
おそらく今回は未経験による早期の忍耐決壊の為、おそらく3大欲求の〈性欲〉が解放されて、威力はかなり弱く〈酩酊〉、効果時間はそれほど長くは無いだろう。効果範囲は周囲に作用が無いことから弱いと言える。
「お、おい。まお・・・幸一。彼女は大丈夫か?」
「あ、ああ。たぶん時間で治る」
オルトラも急に雰囲気の変わった星良に驚いたのだろう。
心配そうに僕に問いかけてくる。
「あー、もうそうやって新しい女の子をひっかけて・・・あれ?」
俺とオルトラがこそこそと話しているのを見て星良が何か言おうとして顔の赤みが消えて妖艶さが息をひそめる。
その瞬間、忍耐決壊の大いなる力が発動する。
「―――あれ?わたしなにして?」
周りを見れば全員が少しボーとしている。
俺の頭の中にも何かが干渉してきたが暴食がそれを喰らい打ち消す。
干渉してきたものを解析すると〈記憶消去〉の恩恵プログラムの干渉をブロックしたと声を受ける。
俺はいち早く記憶消去の終わった星良に上着をかぶせる。
「その、前はちゃんと閉めろ」
妖艶な状態だった星良はワイシャツの第2ボタンまであけて水色の下着と豊満な胸によってできた谷間が見えていた。
それに気づいた星良は悲鳴をあげながら急いで身だしなみを整える。
「幸一君、これは・・・」
「星良の忍耐の恩恵が発動した結果だ」
「こいつの行動が周りの奴の記憶から消されてゆく」
オルトラが周囲に干渉し、自身にも干渉する力を弾きながら驚きを露わにする。
「これが、私の手に入れた巫女の力。記憶操作なんて伝説なのに」
「魔王の力を封じ、また支援する巫女の力だからね」
俺はそう言って彼女の肩を叩いた。
「本当にすごい・・・って、そうです。幸一君、彼女はなにものですか?」
さすが星良。オルトラが人間でないことにすでに気づいている。
気づけば遮音と幻影の結界が貼られている。
「これで大丈夫ですよね?」
どうやら張ったのは星良のようだ。
「速度、精度、魔力循環率・・・なかなかだね」
オルトラは結界に触り流れを読み取る。
「星良、彼女はこの間の吸血鬼で名前はオルトラ」
「魔族!しかも、幸一君にけがを負わせた奴じゃない!まさか、また襲いに?いや、まさか…増えるの?」
「あれ?おい、星良?おーい?」
なんかやばい空気纏ってない?また忍耐発動してない?
「幸一君!」
「はい!」
勢い良すぎてこっちもつられて元気に返してしまう。
「いろいろ聞きたいけどとりあえずまずは―――」
なんだ?まずは、何を聞いてくる?
「―――なんで、彼女が幸一君のお弁当を持ってくるの!?」
「うん、予想してた。えーと、それはね・・・」
ここでオルトラを家に泊めたと言えば、まずくないか?
星良は僕を怪我させた(・・・・・)オルトラを危険視している。
だが、弁当を持っていることで思考はオルトラが家に上がったことを想像している確率は高い。
だからこそ、オルトラの今の境遇を少しぼやかせば・・・。
「うそだね」
「否定が早い!まだ何も言ってないのに!?」
「だって、今考えたでしょ?」
「い、いや・・・」
「はは、魔王。巫女に愛されているな」
「・・・」
「なんだい?僕はちょっとした事情で家でしてね。彼に助けてもらって朝食を貰った。そのお返しがしたくて、ただ持ってきただけさ。別に危害を加える気はないさ。僕自身彼の事は気に入っているからね・・・べー」
「ッ!?・・・あなたが、候補者?」
僕からは見えなかったがオルトラが舌を出すと、何を見たのか星良が驚いた表情を取る。
「星良?オルトラ?」
「そうだね。ここに宣言しようか。・・・ぼくも、彼が欲しい。いわゆる一目ぼれさ」
「オルトラ?さっきから何の話を・・・」
「魔王、僕は帰るよ。・・・夕飯期待してるよ」
「お、おう」
「そっちの巫女さんも他の巫女さんい伝えてね」
「・・・」
「ふふ、じゃね」
嵐のように過ぎ去るオルトラ。
彼女のその後ろ姿に僕は何故か少し、悲しさを感じた。
「オルトラ、待て」
「・・・命令口調の幸一もいいね」
オルトラは足を止め軽口をを叩くも、どこかうれしそうだった。
「家にいろよ?・・・うまいもの食わせてやるから」
そう言うと彼女は頬を赤く染めて教室の窓から出て行った。
「幸一君?」
これで完全にごまかせなくってしまった。
―――ピロン
僕が星良への返答で困っていると携帯にメールが届く。
『オルトラ:楽しみにしておく』
そのメールに思わず笑みをこぼしてしまい、それで星良がさらに怒ってしまい、この後授業中も正座させられてしまった。
足がしびれた・・・。