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第七話 ー 鼓動

二人にとってはいつもと少し違う護衛回です。


「『魔力を高める』のが間違ってるって、どういう事だ?」

「もしかしたら、聖杖ハーナの求めているものは”魔力ではない”可能性があるっていう事よ。」


 シンはなるほど、と頷く。


「だけどそうなると、今まで俺達のやってきた事って…。」


……………………………。


「あ、あくまで可能性の話よ。 でもこれだけ魔力の溜まり場に行っても反応しないなんて、少しおかしくない?」

「確かにそうだがな…そーすっと根本から間違えてたって事か!?」

「そうかもしれないの。」

「うぅ…そうなると手掛かりがまったく…、」


 私とシンが聖杖について話をしていた、その時だった。


「あの…。」


 一人の女性が声を掛けてきた。

 絶叫していたのでクレームかと思ったけど、


「冒険者様…ですよね?」


 控え目に聞いてきたのは、私達と同い年位の女性だった。


「そうですが、何か…?」

「頼み事があるんです。」

「? よければお力になりますよ。」


 私がそう言うと、


「ありがとうございます! 実は、次の東の街まで護衛を頼みたいんです。 私、聖職者ビショップに成り立てで、パーティとか無くて。」

「いいですよ。 お名前は?」

「ナリーと申します。」

「ナリー!?」


 私とシンは思わぬ偶然に驚いてしまった。

 まずは私が恐る恐る聞いてみる。


「あ、あの…名字は?」

「バートです。 ナリー・バートなのですが、何か私、迷惑な事言ってしまいましたか…?」

「いえ、そんな事一切! お任せ下さい!」


 別人なのはわかっているけど、やっぱり思い出しちゃうな。





 東の街に行くまでは、魔物はいるが広々とした草原を渡る必要があった。


「えいっ」


 ナリー…さんが防御壁バリアを張る。

 しかし、ガシャンとすぐに壊れてしまう。


「俺が防御壁張るから平気っすよ。」


 シンが笑顔を見せる。


「すみません、お願いします。」


 道はやがて、左右を森に囲まれた細い道へと変わる。


「!」


 私とシンは同時に魔物の気配に気が付いた。


「ナリーさん、そこから動かないで!」

「えっ?」


 シンがナリーさんを制止し、防御壁を強める。

 ナリーさんは何があったんだろうと辺りをキョロキョロと見ている。


「ファル! 一人で行けそうか?」

「この数なら平気!」


 ーー左方向に三体。

 走って遠くまで引き付けよう。


炎纏剣フレイムソード!」


 私は得意なこの魔法で魔物三体を一掃する。


「凄い…魔導士さんって格好いいですね!」

「そうかしら? ありがと…うございます。」


 私はつい『ナリー』に対するようにタメ口で言いそうになる。

 でも、彼女は『ナリー』であって『ナリー』ではないのだ。


 細道から出ると、そこにはさっきのような広い平原が広がっていた。


「! この感じ…。シン!」

「わかってまっせ! ナリーさん、真ん中まで一緒に走って!」

「えぇっ!?」


 ナリーさんはまだよくわからないみたいだけど、シンは平原の真ん中へと誘導してくれた。


 するとーー



 歩いてきた道も含め、全方位から魔物が次々と出てくる。

 そう、囲まれたのだ。


依頼人ナリーさんの安全が最優先だ! ヤバくなったら言ってくれ!」

「了解よ、シン!」


 シンは防御壁を強める。

 何度も張っていたせいか、上達し壁が厚くなっている気がした。



炎壁ファイアウォール!」


 私が唱えたこの魔法は、自分を中心に全方位に炎の壁のようなものを放出するという、囲まれた時に便利な魔法だ。


「こっちもだ! 炎壁!」


 シンの追撃が入る。

 敵はのけ反っているのか、今は中央に魔物はいない。

 ナリーさんは一番安全な中央でシンの防御壁の中にいた。

 そう余裕でいたら、


「ファル!」

「…っ!」

「きゃあああ!」


 背後から、ウルフの一撃。

 私はまともに喰らってしまった。


「回復(ヒール!)!」


 シンがとっさに唱えてくれなければ、危なかっただろう。


「あり、がと…。」

「へ、平気ですか!?」

「当然!」

「よかったです、微力ながら…「回復」!」


 傷が少し塞がった。


「ありがとうございます。 気を楽に。」

「は、はい。」

「平気です、必ずあなたを次の街までお守り致します。」


 そう言うと、


 トクン…


 突然鼓動が早くなる。


 トクン…


 ……?

 何だろうこれ…?


 ………………………!


「ファル! 来るぞ!」


 私ははっとした。

 考え事をしていたから反応は遅れだけど、シンが機転を利かせてくれたようで、足元に少し大きめな”無神域ノーマル・サークル”を展開してくれていた。

 お陰で、私達がいる中央へ近付いて来た魔物が足止めを食らっている。


「シン! 私を防御壁に!」

「さては…()()をやる気だな?」

「よくわかってるじゃない。」


 私は防御壁の中に入り、詠唱を始める。


火地獄円ファイアグラウンドッ!」



 ーー地面が動いた。

 ゴウ、ゴウと、火柱が平原にいるであろう魔物全体に、円状に発射される。

 俗にいう、レーザーのようなものだ。



 ドォオオオン!


 地面の揺れが、収まった。



「…全部、倒したみたいね。」

「だな。 後はあそこにある入り口から街へ行ける。 ナリーさん、平気で…、」


 ナリーさんは、あまりの衝撃に気を失っていた。


「な、ナリーさん! 流石に驚かせちゃったか。」

「冒険者成り立てみたいだからな、あんなもん見せられたら気絶するのも無理ねぇよ。」


シンはナリーさんを背中に乗せる。


 街まで到達した私達は、まずナリーさんを病院に連れていった。

 意識は割とすぐに戻ったらしく、護衛料としてお金を渡され、何度もお礼を言われた。


「本当にありがとうございました! 明日には退院できると看護師さんが仰っていました。」

「これからどうするんですか?」


 私が質問すると、


「護衛より先に、ギルドで見付けたんです。 聖職者の魔法を教えてくれるという方に。 その方が今この街にいると聞いて、護衛して頂いて。」

「なるほど。」


 シンは頷くが、私は嫌な予感がしていた。

 念の為、聞いてみる。


「ちなみに、魔法を教えてくれるという聖職者の方のお名前は…?」

「リティ・アンガーさんです。」


 この一言に、私達は別の聖職者を探すようにと必死に訴えるのだった。




 ナリーさんを説得する事、一時間。

ギルドを通じてお金を先払いしてしまったらしく、更に早く魔法を習得したいと思い、強そうなリティさんを優先したいという事で、私達は説得を断念した。

 最後に覚悟しておいて下さいと述べ、病院を後にする。

 ナリーさんは不思議そうな顔をしていたけど、彼女が心配でならない私達であった。




 外のベンチに二人で座る。


「しかしまあ、『ナリー』を助けに行くはずの俺達が、『ナリー』…さんを助けるなんてな。」

…偶然だけど、重ねてしちまわなかったか。『ナリー』と。」

「…そうね。純粋な性格も、聖職者なのも、雰囲気も似ていた。 …いろいろと思い出しちゃった。…本当は依頼に私情を挟んじゃいけないんだけどね。」



 近くのベンチにストンと座る私。


「…”今度”は、守れたね。」

「…そうだな。」



 トクン…


 鼓動が、また早くなる。




 少しして、私は立ち上がった。


「シン。」

「ん?」

「大事な話があるの。」

鬼教官の名前を覚えていた方挙手!(?)

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