第七話 ー 鼓動
二人にとってはいつもと少し違う護衛回です。
「『魔力を高める』のが間違ってるって、どういう事だ?」
「もしかしたら、聖杖の求めているものは”魔力ではない”可能性があるっていう事よ。」
シンはなるほど、と頷く。
「だけどそうなると、今まで俺達のやってきた事って…。」
……………………………。
「あ、あくまで可能性の話よ。 でもこれだけ魔力の溜まり場に行っても反応しないなんて、少しおかしくない?」
「確かにそうだがな…そーすっと根本から間違えてたって事か!?」
「そうかもしれないの。」
「うぅ…そうなると手掛かりがまったく…、」
私とシンが聖杖について話をしていた、その時だった。
「あの…。」
一人の女性が声を掛けてきた。
絶叫していたのでクレームかと思ったけど、
「冒険者様…ですよね?」
控え目に聞いてきたのは、私達と同い年位の女性だった。
「そうですが、何か…?」
「頼み事があるんです。」
「? よければお力になりますよ。」
私がそう言うと、
「ありがとうございます! 実は、次の東の街まで護衛を頼みたいんです。 私、聖職者に成り立てで、パーティとか無くて。」
「いいですよ。 お名前は?」
「ナリーと申します。」
「ナリー!?」
私とシンは思わぬ偶然に驚いてしまった。
まずは私が恐る恐る聞いてみる。
「あ、あの…名字は?」
「バートです。 ナリー・バートなのですが、何か私、迷惑な事言ってしまいましたか…?」
「いえ、そんな事一切! お任せ下さい!」
別人なのはわかっているけど、やっぱり思い出しちゃうな。
*
東の街に行くまでは、魔物はいるが広々とした草原を渡る必要があった。
「えいっ」
ナリー…さんが防御壁を張る。
しかし、ガシャンとすぐに壊れてしまう。
「俺が防御壁張るから平気っすよ。」
シンが笑顔を見せる。
「すみません、お願いします。」
道はやがて、左右を森に囲まれた細い道へと変わる。
「!」
私とシンは同時に魔物の気配に気が付いた。
「ナリーさん、そこから動かないで!」
「えっ?」
シンがナリーさんを制止し、防御壁を強める。
ナリーさんは何があったんだろうと辺りをキョロキョロと見ている。
「ファル! 一人で行けそうか?」
「この数なら平気!」
ーー左方向に三体。
走って遠くまで引き付けよう。
「炎纏剣!」
私は得意なこの魔法で魔物三体を一掃する。
「凄い…魔導士さんって格好いいですね!」
「そうかしら? ありがと…うございます。」
私はつい『ナリー』に対するようにタメ口で言いそうになる。
でも、彼女は『ナリー』であって『ナリー』ではないのだ。
細道から出ると、そこにはさっきのような広い平原が広がっていた。
「! この感じ…。シン!」
「わかってまっせ! ナリーさん、真ん中まで一緒に走って!」
「えぇっ!?」
ナリーさんはまだよくわからないみたいだけど、シンは平原の真ん中へと誘導してくれた。
するとーー
歩いてきた道も含め、全方位から魔物が次々と出てくる。
そう、囲まれたのだ。
「依頼人の安全が最優先だ! ヤバくなったら言ってくれ!」
「了解よ、シン!」
シンは防御壁を強める。
何度も張っていたせいか、上達し壁が厚くなっている気がした。
「炎壁!」
私が唱えたこの魔法は、自分を中心に全方位に炎の壁のようなものを放出するという、囲まれた時に便利な魔法だ。
「こっちもだ! 炎壁!」
シンの追撃が入る。
敵はのけ反っているのか、今は中央に魔物はいない。
ナリーさんは一番安全な中央でシンの防御壁の中にいた。
そう余裕でいたら、
「ファル!」
「…っ!」
「きゃあああ!」
背後から、ウルフの一撃。
私はまともに喰らってしまった。
「回復(ヒール!)!」
シンがとっさに唱えてくれなければ、危なかっただろう。
「あり、がと…。」
「へ、平気ですか!?」
「当然!」
「よかったです、微力ながら…「回復」!」
傷が少し塞がった。
「ありがとうございます。 気を楽に。」
「は、はい。」
「平気です、必ずあなたを次の街までお守り致します。」
そう言うと、
トクン…
突然鼓動が早くなる。
トクン…
……?
何だろうこれ…?
………………………!
「ファル! 来るぞ!」
私ははっとした。
考え事をしていたから反応は遅れだけど、シンが機転を利かせてくれたようで、足元に少し大きめな”無神域”を展開してくれていた。
お陰で、私達がいる中央へ近付いて来た魔物が足止めを食らっている。
「シン! 私を防御壁に!」
「さては…あれをやる気だな?」
「よくわかってるじゃない。」
私は防御壁の中に入り、詠唱を始める。
「火地獄円ッ!」
ーー地面が動いた。
ゴウ、ゴウと、火柱が平原にいるであろう魔物全体に、円状に発射される。
俗にいう、レーザーのようなものだ。
ドォオオオン!
地面の揺れが、収まった。
「…全部、倒したみたいね。」
「だな。 後はあそこにある入り口から街へ行ける。 ナリーさん、平気で…、」
ナリーさんは、あまりの衝撃に気を失っていた。
「な、ナリーさん! 流石に驚かせちゃったか。」
「冒険者成り立てみたいだからな、あんなもん見せられたら気絶するのも無理ねぇよ。」
シンはナリーさんを背中に乗せる。
街まで到達した私達は、まずナリーさんを病院に連れていった。
意識は割とすぐに戻ったらしく、護衛料としてお金を渡され、何度もお礼を言われた。
「本当にありがとうございました! 明日には退院できると看護師さんが仰っていました。」
「これからどうするんですか?」
私が質問すると、
「護衛より先に、ギルドで見付けたんです。 聖職者の魔法を教えてくれるという方に。 その方が今この街にいると聞いて、護衛して頂いて。」
「なるほど。」
シンは頷くが、私は嫌な予感がしていた。
念の為、聞いてみる。
「ちなみに、魔法を教えてくれるという聖職者の方のお名前は…?」
「リティ・アンガーさんです。」
この一言に、私達は別の聖職者を探すようにと必死に訴えるのだった。
*
ナリーさんを説得する事、一時間。
ギルドを通じてお金を先払いしてしまったらしく、更に早く魔法を習得したいと思い、強そうなリティさんを優先したいという事で、私達は説得を断念した。
最後に覚悟しておいて下さいと述べ、病院を後にする。
ナリーさんは不思議そうな顔をしていたけど、彼女が心配でならない私達であった。
外のベンチに二人で座る。
「しかしまあ、『ナリー』を助けに行くはずの俺達が、『ナリー』…さんを助けるなんてな。」
…偶然だけど、重ねてしちまわなかったか。『ナリー』と。」
「…そうね。純粋な性格も、聖職者なのも、雰囲気も似ていた。 …いろいろと思い出しちゃった。…本当は依頼に私情を挟んじゃいけないんだけどね。」
近くのベンチにストンと座る私。
「…”今度”は、守れたね。」
「…そうだな。」
トクン…
鼓動が、また早くなる。
少しして、私は立ち上がった。
「シン。」
「ん?」
「大事な話があるの。」
鬼教官の名前を覚えていた方挙手!(?)




