5/19
5
「姫」
その言葉を無視する姫は、わざとらしく先程の従者と同じ格好、同じ表情だ。
………………苦虫を噛み潰したような顔を隠しもせずに、従者は言葉を訂正した。
「ルルイ姫」
「なんでしょうか、ヒロイ『殿』」
小首をかしげた姫の姿は愛くるしい。重ねて目を淡く伏せるしぐさも、教えたとおりにこなしている。
そこに込められる嫌味が分かるだけに、従者はその間を思考に費やす。
打開策は見つからない。この『庶民』あがりの小娘には。
「どうかされまして?
…………時間はゆっくり流れているけれども、余分な時間などないんでしょ?
言いたい用件くらい、まとめてからしゃべったら?」
辛らつな言葉で。
棘を安易にさらけ出す。
その言葉は、この塔に来たころと比べて、明らかに洗練されていた。
これだから『庶民』は困るのだ。
「その口上が出来るのなら、そろそろ刺繍のひとつでも仕上げていただけませんか。
姫としての、御自覚を」
「姫ねえ……じゃあ私が自覚しなかったとして、姫以外になれるの?」
「……」
「この場所以外に住める所なんてないのに、どこにいけるっていうのかしら?
私が、何になれるっていうのかしら」




