夜の観察者
「ホホウ、そこはくすぐったいですよ」
「あ、ごめんなさい」
「…………」
ガジェータスはグラウクスを撫でているアミを観察していた。
一応整えてはいるが、プロが切ったわけでは無い髪。ただ短くする為に切った、という感じだ。
体も丁寧に扱われていたとは思えない。一見華奢に見えるかもしれないが、よく見てみれば細すぎる。全体が細いせいで分かりにくくなっているだけだ。
服は綺麗な物だが……あれはミストの趣味だ。ミストが用意したのだろう。
好奇心は……まあまあだ。知識については情報不足だが、田舎の村にいたのなら精霊を知らなくても無理は無いだろう。
そんなガジェータスの観察思考をアミの言葉が止めた。
「あ、あの……何かありますでしょうか」
「ん、いや。なんでもない。グラウクスと他の人間が話している光景は中々見ないからな」
「マスター・ガジェータス。嫉妬は褒められた物ではありませんよ」
咄嗟に思いついた言い訳をグラウクスが拾い上げる。
「グラウクスさんは人間が嫌いなんですか?」
「グラウクスとお呼びください、ミス・アミ……人間嫌いではありませんよ」
「俺がここの奴らと話すのを禁止しているからだ」
「そうなんですか」
「まあ、ワタクシはここに住むフクロウ達と話しているのでいいのですがね」
「なるほど……」
うまく話題が変わってくれた。ガジェータスは心の中でため息をつき『また悪い癖が出ているぞ』と自分に忠告をした。
「……それにしても」
ガジェータスは小さく呟いて考える。まさかバレるとは思っていなかった。
仮にも情報屋の町のボス。普通の人にバレるような見方はしていないはず……
「ならば……」
ならば。ガジェータスは思考を再開する。
彼女は人の視線に敏感なのか……それか、人の視線になれていないのか……
「どちらにしても親との死に別れとかじゃあ無さそうだな、ミストよ」
ガジェータスは小さく呟いた後にまた癖が出ている事に気付き、再度自身に忠告した。
○
夜。時計は一時を指していた。夜型のガジェータスとしては寝るには早い時間だ。
寝室を出ると机の上でグラウクスが何処かで捕まえたであろうネズミをじっと見つめていた。
「グラウクス、そんなものを机に置くな」
「ホホウ、これは失礼、マスター・ガジェータス。少しばかり気になったもので」
「何がだ?」
グラウクスはネズミの腹部をガジェータスに見せた
「ここにある模様のようなコレが気になったのです」
「ふむ……」
確かに模様にも見えなくは無い。少し考えてからガジェータスは無害だと判断した。
「痣か何かだろう……まあ、一応保管しておけ」
「ホホウ、了解です」
グラウクスがネズミを保存箱に入れたところで客室の扉が開き、アミが出てきた。
「寝れないのか?」
ガジェータスが聞くとアミは小さく頷いた。
「はい、移動中に寝てしまったからでしょうか。 寝付けなくて」
「ふうん……」
時計は二時を指している。ガジェータスが寝るにはまだ少し早い。
「今から少し散歩するが……来るか?」
散歩というよりは街の状況調査だが、一人増えたところで変わりはしない。
「えっと……あなたは?」
アミはグラウクスに視線を向ける。「ワタクシも行きますよ」
「なら……行きたいです」
「では、行きましょうかミス・アミ」
グラウクスがアミの肩に乗り、蝶ネクタイのアクセサリーを整えた。