表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朧竜の居場所  作者: ナガカタサンゴウ
チヴェッタの長い夜
8/19

夜の街のボス

「すみませんが身分証明をお願いします」

 トンネルを抜けた先にあった大きな門の前で二人は門番に止められていた。

「ミストハルフが来たとガジェータスに伝えてくれ」

 ミストがそう言うと門番の一人が通信機を使って連絡をとり、もう一人の門番に耳打ちをした。

 耳打ちされた門番は剣を鞘に収めて敬礼をする。

「失礼致しました。 どうぞお通りください」

「ありがと。さ、行こう」

 ミストに手を引かれ、アミは大きな門の奥に進んでいった。


 チヴェッタはミストの言っていた通り四方を山に囲まれていた。

 街の中には神殿や城といった大きな建造物は無く、似たような形の小さく目立たない家が連なっていた。

「なんだか……暗いですね」

 今は夕方。山の影響で日が見えにくいというのもあるが、アミはまた違った暗さを感じていた。

 まるでここの人は外に出るのを嫌がっているような……

「ここは隠れ家みたいなものだからね、しょうがないよ」

「隠れ家、ですか?」

「そ、隠れ家」

 ミストは似ている家の中から一軒の小さな家を指差した。

「あれがジェータの家。ジェータ、いるのだろう?」

 ミストがそう言って戸を数回叩くと不機嫌そうな声と共にボサボサ頭の男が出てきた。

「ミスト、その呼び方はやめてくれと言ってるだろう」

「君だってワタシの事をミストと呼ぶじゃないか」

「仮の名を略されるのはなんというかこう……変な感じがする。 ミストにはわからないだろうけどね」

「はは、どうだろうね」

 曖昧な笑みを浮かべたミストを見てガジェータスは溜息をつく

「相変わらずつかみどころの無い奴だ……まあ入れ」

「ありがと」

 遠慮無しに入るミストにアミもついていった。


「さて、改めて紹介しようかな」

 ガジェータスの家に入ったミストは手を叩いて切り出した。

「彼はガジェータス、仮の名前らしいけどね。 彼はここらへん一帯に住む情報屋のボスだ」

「ボスって程明確な物があるわけじゃないけどな。まあよろしく」

 ガジェータスを指していたミストの指はアミの方に向く。

「この子はアミ。今回のお供だよ」

「やっぱりか、じゃあ今回の依頼は例の物だな」

「そういうこと」

「お供……?」

 二人の間では会話が成立しているようだが、アミにとってはなんのことかがわからない。

「ガジェータスには養子を欲しがっている人が多くいる場所などを教えて貰うんだ」

「教えるじゃない、売るんだ」

 と言いながらガジェータスは何かを要求するように手を出す。

「せっかちだね」

「いいから早く出せ。売らんぞ」

 ガジェータスに急かされてミストは袋を机の上に置く。

「いつも通りの物だよ」

「……確かに」

 袋の中にある沢山の小袋を確認したガジェータスはそれを一つ取り出して

「これが無いと落ち着かん」

 と、勢いよく食べ始めた。

「……ビスケット?」

「そ、来る途中にあったビスコタスの名産ビスケットだよ。彼の大好物なんだ」

「と、いうより無いと落ちつかん。まるで中毒だ」

「君のはただの……いや、異常なビスケット好きだと思うけどね」

 ミストは苦笑いで続ける

「さ、大量のビスケットは渡したよ」

「……わかってるさ」

 ガジェータスはビスケットを三枚ほど手に持って立ち上がり、後ろの本棚から文庫本くらいの大きさの手帳を取り出した。

「ここに書いてある。お前が来る頃だろうと思っていたからな」

「用意がいいね」

 手帳の中身を確認してミストはアミの方を見る。

「君に行きたい場所が無いのだったらしばらくはこの情報に沿って行こうと思う。途中で行きたい場所が見つかったら言ってくれ」

「…………」

 アミは何かを探すように辺りを見ていた。

「……アミ?」

「え? ……あ、はい! すいません!」

「何か探していたのかい?」

「えっとその……」

 アミは少し小さな声になる

「精霊を……」

「ああ、そうだった。忘れるところだった」

 納得したミストにガジェータスが怪訝な顔をする。

「精霊? 精霊がどうかしたのか?」

「この子に精霊を見せてあげて欲しいんだ」

「それくらいならいいぞ」

 ガジェータスは本棚の上に置かれていたフクロウの置物を机に置いた。

「精霊が宿っているのはこの置物だ。……起きろ、グラウクス」

 ガジェータスがそう呼びかけて置物を数回叩く。

 数秒後、フクロウの置物は小刻みに揺れ始めた。

「ホウ……まだ起きるには少し早いのですが……何か用事ですかな? ガジェータス」

 フクロウの置物と似た姿をしたフクロウがいつの間にか置物の上にいた。

「おはようグラウクス。特に用事は無い。こいつが精霊を見たいと言っているらしくてな」

 ガジェータスが言うとグラウクスと呼ばれた精霊は顔だけを反対方向であるアミの方に向けた。

「ホホウ。見ない顔……ミスター・ミストハルフが連れてきたのですかな」

「そうだよ、ワタシが連れてきた」

「ホホウ、なるほど」

 グラウクスはアミの方にピョンピョンと近づいて顔を覗き込む。

「娘さん、お名前は?」

「あ、アミです」

「ホホウ、アミですか」

 グラウクスは胸についている蝶ネクタイのようなアクセサリーの位置を器用に調整して、丁寧に頭を下げた。

「ワタクシはグラウクス、マスター・ガジェータスに仕えている精霊でございます。どうぞお見知り置きを、ミス・アミ」

「は、はい。よろしくお願いします」

 つられてアミも丁寧に頭を下げた。

「ホホウ、礼儀の正しいお嬢様のようですね」

「そこが問題でもあるんだけどね」

「……ホホウ?」

 苦笑いで言うミストの言葉にグラウクスは疑問符を浮かべて首をくるりと回した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ