機関車での昼
「精霊って簡単に見れるものなんでしょうか?」
機関車を乗り継いで数日、最初は驚いていたアミも馴れてきたようだ。
「見るだけなら簡単だね、精霊競売に行けばいい。 ただ、触ったり話したりとなれば別だ」
ミストはパンを一つアミに渡しながら続ける。
「精霊は高価だからね、金持ちと偶然持ち物に精霊が宿ったごく一部の人しか持っていないよ」
アミは丁寧に頭を下げて御礼を言った後、質問をする。
「じゃあ、今から精霊競売に……?」
「いや、違うよ。折角なら触ったり話したりしたいよね」
ミストはパンをミルクで流し込む
「ワタシの知り合いの所さ。仕事柄相手を探るような事をしてしまうけど気にしなくていい、それが彼だ」
「その人の職業って……」
『ノーチェ。ノーチェ。リグロースへは三番への乗り換えを……』
機関車は目的の駅につき、アミの質問はアナウンスに掻き消された。
「駅から少し歩くよ」
ミストは袋を掴んで立ち上がろうとした。
「あ、お持ちします」
袋を掴もうとしたアミの手は空を掴んだ。
「大丈夫だよ」
ミストは横に避けた袋を元の位置に戻す。
「アミ、君は洗脳を受けていないというけどね、少しばかり影響を受けすぎてると思うんだ」
「で、でも……」
「君の場所を見つけたいのはもちろんだけど、ワタシ個人としてはその洗脳を治しておきたいんだ」
「……はい」
少し不満そうな表情をするアミ。
ミストは「言いすぎたかな」と思う一方、「表情が豊かになってきたな」と喜びを感じていた。
駅を出て数十分程歩き、三つ目の真っ暗なトンネルに差し掛かったところでミストはアミに説明を始めた。
「これから向かうのはチヴェッタ、夜が長い街だね」
「夜が長い……ですか?」
「四方を連なる高い山に囲まれていてね、朝日が顔を出すのが遅いんだよ」
「なるほど……」
「ガジェータス、ワタシはジェータと呼んでいるんだけどね。彼はその街のボス的存在だ」
「ボス、ですか?」
ミストは消えかかったランプに燃料を補充して頷く
「そう、ボス。あの街はある職業の者たちが集まってできた街なんだ」
アミは機関車でアナウンスに遮られて聞けなかった質問を思い出した。
「あの、ガジェータスさんの職業って」
「そうだね、それはジェータに会ってから話そうか」
ミストは人差し指を立てて口にあてる
「あまり外で言うような職業では無いんだ」
「え……」
「さ、そろそろだよ」
驚くアミにミストは前を見るように目線を向ける。
前の方から光が見え、トンネルが終わりを迎える事を示していた。