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朧竜の居場所  作者: ナガカタサンゴウ
竜神との出会い
5/19

初日の宿で

「ほお、これは美味しそうだ」

 目の前のアップルパイを見てミストは目を輝かせる。

「めしあがれー! ほら、アミちゃんも」

 ハンナに急かされてアミはアップルパイを一口食べる。

「……あ」

 りんごの酸味と甘みが一気に口の中で弾けた。

「美味しい」

 思わず出た声にアミは自分で驚く。

 口に出すほど美味しいだなんて……初めてだ。

 戸惑うアミを見てミストは笑顔を浮かべる。

「美味しいというのはそれだけで幸せになれる。 これから幾らでも満喫するといい」

「……はい」

 微かだった。それは顔が緩んだ程度のものだったが、アミは初めてミストに笑顔を見せた。


「アミちゃん、あたしの妹になればいいのにー」

「ハンナ、元の村からこんなに近い所に残るのは特例だと言ったじゃないか」

「えー」

「まあいい……そろそろワタシ達は宿に行くよ」

「また来てねー」

 ハンナに見送られ、二人は村の宿に入った。


 簡単な夕食を終え。二人は部屋にいた。

「……ん」

「起きたかい」

 ミストは読んでいた本を閉じ、ベッドから起き上がったアミに話しかける。

「あ、私寝て……すいません」

「何故謝る、自由にしていいんだよ」

「……でも」

 一日で緊張を解くのには無理があったか……ハンナに期待していたミストは心の中で溜息をつく。

「まだ寝ててもいいんだよ、疲れただろう?」

「いえ……目は覚めました」

「そっか、なら……」

 ミストは真剣な目つきでアミを見る

「君のいた施設について聞かせて貰えるかな?」

「……はい」

 アミは少し目を閉じて考えをまとめた後、同じく真剣な目つきでミストを見て話を始めた。

「私のいた施設、ハンナさん曰く『供物所』は龍神様の生贄になるべく産まれた子供達の施設です」

「そうらしいね」

 アミは産まれた時からその施設にいた事、基本的に一人の部屋でスケジュールに沿った暮らしをしていた事。龍神信仰についての教育がまるで洗脳だった事を話した。

「洗脳、ねぇ」

「はい、私は一番初めだったので『龍神様に食べられてもいい』とはなりませんでしたが、数年後からの子はどうなっているか……」

「なるほどね……」

 洗脳は受けていないと言うアミだが、ミストの目からすれば少し影響を受けているように見えた。

「……これくらいにしとこうか、夜も遅い」

 ミストは立ち上がって伸びをして、自分の体をみる。

「うーん、この姿だと君も寝にくいよね」

 いくら竜神とはいえ、今は成人男性の姿をしている。年頃の女子としては居心地は良くないだろう

「いえ、そんな事は……」

 アミは否定しようとしたが、ミストがそれを止めた。

「大丈夫大丈夫、策はある」

 ミストは軽く体を動かした後、アミから少し離れて呟く

『幼き竜の姿に変化を願う……』

 ミストの下に紋様が浮かび上がり、そこから発せられた強い光がミストを包んだ。

「……成功だね」

 光の中から現れたのは子犬くらいの大きさをした小さな竜。

「ミスト……さん?」

 アミが呟くように聞くと小竜となったミストは机の上に飛び乗って答える

「そうだよ、この姿なら気にはならないだろう」

 ミストは枕の上に乗って大きく欠伸をして

「ワタシはもう寝るよ、寝付けないならこれを読むといいよ」

 と、アミに持っていた本を渡して目を閉じた。


「…………」

 アミは椅子に座って渡された本を見る。

『一度は行きたい! 名所百選+裏名所』

 行きたい場所を探す為にという事だろう。アミはページをめくる。

『絶景の秘湯*プブリーク』

『科学の浮遊都市*ドレイヴン』

『龍の加護ありし火山*ブルカン』

 様々な名所が書かれているが、アミには想像もつかない物ばかりだった。

[裏名所]『精霊競売*アーダ・オークション』

 その中でもひときわ想像がつかない、知識としてですら知らない単語を見てアミは首を傾げた。

「……精霊?」

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