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6-2:〈竜槍の塔〉

【6-2:〈竜槍の塔〉】


 祝祭が終われば人々は再び元の生活に戻っていく。新たなる一年を刻み始めた王都には平穏が流れ、ほとんどの者は大きな変化の無い日常を送る。しかしたった一握りの者には、あまりにも突然、その日常の崩れる時はやって来た。祝祭より一か月が過ぎた夜、戦火を潜り抜けた堅牢さを誇る王城の一画にて、二人の騎士の会話をきっかけとして。


「リード団長……今のは、私の聞き違いでしょうか? 陛下の勅命とは――」

 男はつい今しがた聞いた言葉に驚愕の表情で応える。部屋の主であり上司に当たる騎士団長の目から深刻さを悟ると同時に、ごくりと生唾を飲み込んだ。自分が他者の運命の岐路を作り出すとも知らず、ただ緊張で身体まで震えだすのを抑えることしか出来ない。齢の50を越えた男は騎士団の中では年配で、経験年数だけならば目の前の騎士団長よりもある。だがこれまで大役を任されたことはなく、少しばかりの要領の良さと時の運の成せるわざで小隊長になってからも、うだつの上がらないまま。そこへ急に飛び込んで来た任務は、彼には荷の重すぎるものだった。

「驚くのも無理は無いが、事実だ。国の、いや、世界の未来すら懸かっているかもしれない任務を、フィアナ王国騎士団第六小隊に。重大でありながら、動かせるのは小隊規模が限界だ。他の隊との連携はほぼ望めないものと覚悟してほしい」

リードと呼ばれた方は十五年間騎士団長を務め上げた貫禄と、人魔大戦の英雄が一人と呼ばれる威厳をここぞとばかりに発揮し、鋭い光を湛えた黒い眼で以て男を射抜く。リードのゆっくりと窓際へ向かう一挙手一投足にすら、彼より十以上も年上の男は圧倒されていた。リードはそれに気づきながら敢えて何も言わず、男に背を向け、淡々と任務について語り出した。

「既に知っていると思うが、国の指定した立ち入り禁止区域の一つで、約一か月前から三度に渡って不審人物による侵入未遂が行われている」

 フィアナ王国では、戦争の名残りで今も危険な地域や王家に縁のある聖地を、一括りに一般人の立ち入り禁止区域としている。それらは管理の手が足りていないせいで、最低限の見張りを置いているだけというのが現状だ。一般人の安全のためというのなら、魔物や事故の危険があることを伝えておけばそう近づく者はいない。だが、貴重な宝の保管されている場所となると話は変わってくる。今も昔も高価なものを狙う盗人は後を絶たない。

「〈竜槍の塔〉、人魔大戦の最中に失われたとされる〈竜槍ドラグニール〉が安置されている場所だ」

 そこにあるのは、よりにもよって王家の至宝であった。フィアナ建国の伝説にも関わる二つの武器〈竜の双牙〉。初代国王が世界を支配していたドラゴンと戦い、見事討ち取った後にその牙から創り出したとされるものだ。剣と槍、それぞれが選ばれし者の手にする時を塔の上で待っている。

 ただしそれは昔の話。今では塔の中には伝説の痕跡など無いはずだった。

「団長、失われたと『される』とはどういうことでしょうか。私の記憶が正しければ〈竜槍ドラグニール〉並びに〈竜剣ドラゴニア〉は魔族に奪われ、どちらも破壊されたはずです」

担い手は勇者になれるとまで言われた代物だったのだが、人魔大戦の際、その力が振るわれることは終ぞ無かった。それは武器の主が現れなかったからであり、また双方共に魔族の手で破壊されたからだ。だから当時人々は希望を失ったと嘆き、勝利に終わった後は伝説への関心も薄れさせ、国の発表を何の疑いも無く信じていた。

「表向きはな。心苦しいが、騙していたってことだ。王家や当時の上の人間のごく一部、それから英雄(おれたち)だけがそれを知っていた」

 男の率直な疑問に、リードは振り向いて頭を掻きながら苦々しげに答える。口調を取り繕うことも止め、騎士団長としてではなく、英雄の一人として隠してきた真実を明かした。


「ドラゴニアは確かに行方不明だ。あの時〈竜の双牙〉を守るため、密かに塔へ派遣された者たちが居たんだがな。結局魔族に先を越されて、ドラゴニアは盗られちまったんだよ。戦争が終わった後も、結局見つかってねぇし」

 言葉こそ客観的にしようとしているが、語る彼の表情には悔しさが滲み出ている。それだけで、男はその作戦にリードが関わっていたことを悟った。黙って聞きながら、当時の関係者に想いを馳せる。間近で希望の光を奪われたのは、どれほど辛かったことかと。

「だけどな、実はドラグニールの方は無事だったんだよ。ただ〈竜槍〉の主は現れない。そう予言されてたもんだから、クソ重てぇだけの棒に他の奴らが変な期待を抱く前に、無くなったことにしたんだ。おかげで縋るモンが人間にすり替えられちまったのは誤算だったがな」

皮肉めいた笑みに隠されたものを、男は知らない。だが確かに、ドラグニールという「頼れない希望」の存在は、絶望の中に居た人々にとっては魅力的な毒だった。現実を見て前へ進ませるために、事情を知る者たちは心苦しくとも二十年間嘘を吐き通したのだ。

 男は目の前の「英雄」の話を、敬意を持って聞いていた。リードは肩越しに窓の外を見ているが、視線の先にあるのは今の景色ではないだろう。なぜなら、次に出た台詞は男へ語っているというよりも、自身に言い聞かせているかのように思えたからだ。

「侵入者の狙いがドラグニールだとすれば、どこからその情報が漏れたのか、何のために狙うのかを見極める必要がある。あれは野放しにされちゃならねぇ力だからな」

その漏れ出たような言葉の最後に反応し、思わず男は反論してしまった。

「しかし〈竜の双牙〉はただの伝説ではないのですか? 国宝とされる剣と槍だとはいえ、人知を超えた力を持つ武器など……時を操るとか、あらゆる空間を越えるとか……魔法ですら不可能なことを可能にするなど有り得ません。それとも、伝説は全て本当なのですか?」

「さあな、俺も実際に見たことがあるわけじゃない。だが魔王はその力を危惧してドラゴニアを奪い、国は悪用を恐れて戦争後も全て失われたことにした」

リードは苦笑しつつ男に視線を戻す。男のように有り得ないと言いきれないのは、確信めいた予感があったからだ。強大な力を持っていた魔王ですら警戒したという紛れもない事実。更に〈竜槍の塔〉から動かすことも叶わないドラグニールの現状を見れば、伝承を信じざるを得なかった。


「ドラグニールは城で管理しようにも、持ち上げることすらできねぇんだ。だが万が一盗人が『動かせる』なんてことになったら、場合によっちゃまた戦争だ。だから第六小隊には侵入者の捕縛と、密かにドラグニールの守護をしてもらう」

「……そのような任務をなぜ我々が、というのは愚問なのでしょうな。彼が、居るからですね」

 重要な任務を賜るのは名誉なことだが、男の経歴にはあまりに不釣り合いだ。ここで他の小隊と第六小隊を比べて、先んじていることと言えば、一つしか思い当たらない。

 男とリードの脳裏に、この国には珍しい容姿が思い浮かぶ。いずれ英雄たちをも超えると目されている少年は、現在第六小隊にてその才をいかんなく発揮している。

「俺としては特別扱いをするつもりは無いんだがな。予言師の婆さんはよほどグランディアがお気に入りらしい」

「どのような予言か、聞いてもよろしいでしょうか」

「隊の奴らにも、もちろん本人にも漏らさねぇならな。なかなか笑えるぜ?」

王家お抱えの予言師が告げた内容を聞いた時、リードはある確信を抱いた。予感ではない。今回の任務に迷わず彼の所属する隊を宛がったのは、経験に基づいて考えた限りの最善の判断と言えるのだ。

「〈継がれし偉大なる名の下に、別たれし双牙は邂逅す。剣は放たれ、槍は追う。灰銀の軌跡が描く先、終焉は二つの点にて線を繋ぐ。輪廻は塔に在り。されど求むべきは何処(いずこ)かに在りし未来なり〉」

 次代の偉大なる名(グランディア)が、必ず〈竜の双牙〉を手にするのだから。


――――――――――――


(しかし……こうして見るとやはり他の若手と変わらないな……)

 三日後、第六小隊長として、男は隊の者と共に〈竜槍の塔〉へと赴いた。王都からそう離れていないが、いつ侵入者が現れるとも分からないため、塔の一階部分を簡易の拠点としながら内部と周辺域を交代で見回っている。今も外に居た者たちが一部報告に戻ってきたところだ。報告役の一人として来た銀髪の少年は何かに失敗したらしく、年かさの騎士に叱責と助言を受けていた。少々頼りない表情はまだ未熟な同期と同じだ。

「隊長、外は異常ありません」

「ご苦労。……フィリオン君、二三尋ねたいことがある」

少年――フィリオン・グランディアが近づいて来たのを機に、男はいくつか抱いていた疑問を口にした。

「君のご両親は英雄だ。英雄たちは国が隠してきた〈竜の双牙〉の真実を知っていたと聞く。息子である君も、何かを聞いていたのではないかね?」

「いえ、それが俺も今回のことは初耳でして……。確か昔に尋ねたことがあったと思うのですが、上手いことはぐらかされたような」

フィリオンは記憶を辿りながら気まずそうに答える。聞かれるだろうとは予測していたのだ。だが期待されているようなことは何も知らないため、小隊長の男が任務の詳細――他言無用とされた予言の内容以外――を隊に伝えた時、他の騎士たちと一緒になって驚いていたのだった。

「そうか……。ちなみに、はぐらかされたというのは?」

「……何と言うか、幼かったもので」

「?」

「恥ずかしいのですが、幼馴染との言い争いになって終わったんです。確か〈竜の双牙〉は――」

 急に目を逸らし始めたフィリオンに、男は怪訝な顔をする。だがその先を聞き出すことは出来なかった。

「――緊急報告! 侵入者です!」

駆け込んで来た騎士が叫ぶと同時、塔の外から爆音が轟いた。

「相手は魔法使いの模様!」

「内部警備の班はそのまま警戒を怠るな! それ以外の者は私に続け!」

男の号令でフィリオンや他の待機していた騎士たちも塔を飛び出す。外ではすでに戦いが始まっていた。

「ヒャアーハッハッハァ! お前ら全然手ごたえ無ェぞオラァ! 王国騎士団だろ、もっと強えェ奴はいねェのか!?」

 襲撃者の姿は見えず声だけが響いている。想像していたよりも高めの少年の声に驚きながらも、騎士たちは次々と放たれる魔法に応戦していた。

「どこだ!? どこに居る!?」

「気をつけろ! 上から――!」

だが様々な方向からの攻撃に翻弄されるばかりで、全く歯が立たない。そうこうしている内に竜巻に吹き飛ばされ、雷撃に打たれ、気絶して地面に倒れる者が一人また一人と増えていく。仮にも王国騎士団の一小隊が、恐らく一人の魔法使いに壊滅させられそうになっていた。

「落ち着け、態勢を立て直すのだ! ――ん?」

尋常でない被害に小隊長は焦りながらも全体を見渡す。よほど動揺していたのか、目に留まったあるものに気を取られてしまった。

 フィリオンが逆さに槍を構え、目を閉じたまま立っている。飛んで来る魔法弾は確実に弾いているが、それ以上動こうとしない。襲撃者の攻撃はいつの間にかフィリオンに集中し、彼の防御と完全に拮抗している。そこへまた一つ氷塊が迫っているのを見て、男が危機を伝えようとした時だった。

「――そこだ!」

フィリオンは突然槍を魔法に向かって投擲した。だが氷を粉々に砕いたのは石突きの方だ。男がなぜという疑問を抱く頃には、フィリオンは再び謎の行動を取っていた。槍はそのまま飛ぶと、木の葉の陰に居た何かに直撃する。走って行ったフィリオンは地面に刺さった槍には目もくれず、苦悶の声とともに樹上から落ちて来た人物の胸ぐらを掴み、

「何をやっているんだ、この馬鹿!」

思い切り頭突きをかました。


 絶句している小隊長と倒れている仲間たちを置いて、フィリオンと謎の襲撃者の会話は続く。フィリオン自身もやはり痛かったのか、琥珀の目にうっすら涙を浮かべて額をさすっている。

「よォ、フィリオン。相変わらず強ェなおい。腹にブッ刺さったじゃねェか」

「ジン、何でこんな所に居るんだ。暴れたら駄目じゃないか」

ジンと呼ばれた襲撃者は、へらへらと笑って親しげにフィリオンの名を呼ぶ。一方のフィリオンもまるで保護者のような言い様だ。知人であることは、男にも充分伝わった。

「フィリオン君……知り合いかね」

「た、隊長……実は先ほど話した幼馴染で……あの、見逃してあげてくれませんか? 彼は事情があって少々と言いますかかなりと言いますか、変わった性格でして……いや常識が通じない部分があるのと好戦的すぎるぐらいで根は良い奴なんです、本当です!」

「落ち着きたまえ。弁護しきれていないよ」

容易くジンを止めて見せた先ほどの姿と打って変わって、フィリオンは眉をハの字に下げて情けない声を上げている。締まらないと子供を見守るような気持ちで、男が穏やかに宥めれば、明らかにほっとした様子だ。

 気を取り直して二人でジンを見やれば、事の元凶は赤色の目を眠気で細めつつ欠伸などしている。既に他人事な調子に、フィリオンが濃い紫色の頭へ拳骨を落とす。痛がるジンに自業自得だと言って、事の次第を問い詰め始めた。

「それで、何でここに居るんだ」

「この辺りで最近怪しい奴を見かけるって話を聞いてなァ? 立ち入り禁止区域に入ろうとするなんざ、ひっさびさに歯ごたえのある奴が出たじゃねェかと思って遥々ここまで来たって訳よ」

「まさか侵入者と戦うつもりで来たのか?」

「当たり前だろォが。見物してどうすんだ。ついでに精鋭とか言われてる騎士団の奴らとも戦ってみたかったしなァ。でもお前以外大したことねェな!」

満面の笑顔で言う少年に対して、小隊長の男とフィリオンは同じ表情をしていた。

「オレはたくさん暴れられる。お前らは人手が増える。ちょうど良かっただろォが、な!」

「何の許可も無く来た上に騎士団を襲撃したら、君まで侵入者扱いされること、分かっているんだろうな」

「何ィ!? ……そこまでは考えてなかったぜ」

「やっぱりな」

 呆れて何も言えないとフィリオンは天を仰ぐ。二つ年下のこの幼馴染は、どう頑張っても「馬鹿」という評価が着いて来る。常識外れな思考回路と合わさると、周囲の者には全く行動の予測がつかない。フィリオンは経験からある程度察することができるが、さすがに今回のことは予想外だ。

 同じく驚愕で思考を停止してしまいそうになっていた男は、なんとか大人としての威厳を取り繕ってジンに話しかけた。

「少年、ここは魔物も出る危険な場所だ。今ならフィリオンに免じて騎士団襲撃の件は見逃してやれるが、不法侵入までは見過ごせん。お家に帰りなさい」

本来厳罰に処されるべきではあるのだが、確認した限りでは死者も重傷者も居ない。考えなしに暴れていたのではなく、一応手加減していたようだ。子供のやんちゃと言うにはかなり苦しいが、彼の処分に手を割くよりも任務のための立て直しを優先したかった。

 だが男の寛大な判断はジンの発言によって変えざるを得なくなった。

「へっ、せっかくここまで来たってェのに手ぶらで帰れるかよ。せめて〈竜槍ドラグニール〉を見てからじゃねェとなァ」

「な、なぜそのことを知っている!? あれの存在は国家機密だと言うのに……!」

騎士団長から聞かされるまで男ですら知らなかったことを、ジンはさも当然のごとく口にしたのだ。情報漏えい、件の侵入者とは別の勢力の侵攻、内部に密偵、など嫌な考えが様々によぎる。やはり捕えるべきか、と男が身構えた時、フィリオンが溜息を吐いた。ジンは目を輝かせ、興奮したようにまくし立てる。

「え、じゃあやっぱり失われてなんてねェんだな! ほら見ろフィリオン、オレ様が正しかっただろォが。〈竜槍〉はまだ塔にあるんだ。なら絶対〈竜剣〉もどこかにある!」

「隊長、彼は昔から〈竜の双牙〉はまだこの世に在ると信じているだけなんです……根拠も無く……。俺が皆の言っていることが正しいと言うと喧嘩になって、その説教なんかで英雄たちにはいつも答えをうやむやにされたんです。もう十回ぐらいは」

「なんと……」

ただの当てずっぽうが正しかっただけと知り、今度こそ男は脱力する。あれほど騎士たちを圧倒していた少年の、間の抜けている所を見ると色々と辛いものがある。ついでに昔の話とはいえ、言い争いをしては同じように誤魔化されるを繰り返していたのだろうフィリオンにも同列の感想だ。


 結局ジンはそのまま第六小隊の監視下に置き、具体的な処分は任務が落ち着くまで保留という形になった。ジンはフィリオンの言うことに従って大人しくしているし、今はドラグニールの保護と侵入者への警戒が最優先だ。一応「ドラグニールが現存している」という話をこちらの失態とはいえ聞かれてしまったため、これ以上広まらないようにするための応急処置でもある。

 小隊長の男が捕縛というより保護と言った方が正しい処遇を申し渡すと、ジンはなぜか非常に喜んで駆け回りながら魔法を放ち、再びフィリオンに捕まっていた。どうやら正式に〈竜槍の塔〉探検の許可が下りたものと思っているらしい。男はフィリオンにジンから目を離さないようにと命じ、今後のことを思って頭を抱えた。

「それにしても……たった一人の少年相手に一小隊がこの有様とは、なんと報告したものか。騎士団長の顔に泥を塗るなど……!」

今回の任務に第六小隊が当たっている理由は、本当はフィリオンの存在だが、表向きは騎士団長からの推挙ということになっている。それなのに未成年――フィアナ王国では18歳が成人で、ジンはまだ16歳だ――の魔術師一人に壊滅寸前まで追い込まれたとあっては、実力を見込んだリードの目が疑われかねない。いたたまれなさに男は項垂れ、それを見たフィリオンも慰めようと声をかけた。

「たぶん報告の仕方次第でどうにかなりますよ。相手がジンならリード団長も仕方が無いときっと言ってくださいます」

「む? 彼は団長とも知り合いなのかね」

 フィリオンと騎士団長が親しいのは今更のことだ。共通の知り合いも数多く居るだろう。しかしこんな子供まで、と改めてジンをまじまじと見てふと気づく。紫髪の魔術師という特徴に、覚えがあった。

「人魔大戦の英雄が一人、魔術師ヘクセ。ジンはその息子です」

思考を裏付けるフィリオンの言葉に、男はこれ以上なく納得した。

「英雄の子……なるほど、それならあの魔法の威力も頷ける」

ジンもまた英雄を親に持つ者ならば、才覚の高さは保障されたも同然だ。ヘクセは女性ながら騎士団内の魔法部隊長でもあり、実力は広く知れ渡っている。その息子と言えば誰もが年齢に見合わぬ腕前を信じるだろう。

 ジンが遊びにしては物騒な魔法を使っているのを、フィリオンが慣れた調子でいなしながら、遠くへ行かないよう見張っている。ひとまず彼らのことは置いておくことにして、男は隊の被害調査と乱れた警備体制の修復に奔走した。

(え、英雄の子は皆、これほど癖が強いのだろうか……)

 妙に疲れた心地だったのは、襲撃に遭ったからというだけではない気がした。


【Die fantastische Geschichte 6-2 Ende】


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