ツンデレでアホなヘタレとクーデレで世話焼きな男前
注意:ふざけたタイトルの割に前半の内容がきついです。
私の生まれた地域は、孤児が多い地域。
かくいう私も親を亡くした孤児の一人だった。
魔法が使えれば苦労せずに済む世の中だし、拾ってくれた孤児院のマザーは、子供を亡くしたことがあるからなのか、優しかった。
そんな孤児院に、少しだけいい服を着た男の子が現れるようになった。
誰の友達かな、と思っても、誰も近づいていかない。
「どうしたの?」
マザーが優しく声をかけると。
「うっせー!」
マザーにそんな態度を取る子はここにはいないから、みんなびっくりしたり、その子に怒りを向けた。
でも、私はその子の身体が震えているように見えた。
「お前マザーになんてこと言うんだよ!」
「そうだそうだ!」
「みんなやめて。貴方のお名前は?」
「……アルト・ヴァローゾ」
「え?」
ヴァローゾって確か、すごくお金持ちの家だったような気がする。
「どうして貴方がこんな孤児院に…」
マザーの困惑した目。
「……」
まただ。
男の子―アルトは大人が恐いんだ。
「マザー。私、その子と遊びたい」
「えぇ…っ?ノル、本気なの?」
ノルは私の名前、ノルーシェを縮めたあだ名。
「うん」
幼心に、その子は一人にしちゃいけない気がした。
それから何度もアルトは孤児院に遊びに来た。
捻くれた態度で、誰にでも反抗的な言葉をぶつけるけど恐がりで、根っこの方は優しくて照れ屋な明るい男の子。
その上、ドジだし天然だしで、悪い子じゃないと分かった私以外の孤児院の子たちとも馴染んでいた。
ある日、アルトは泣きながら孤児院に来た。
マザーは何も聞けなかった、と困った笑みを浮かべると、私のところにアルトを連れてきた。
その頃から、私は臓器型魔力体【読手】を持っていた。
手をかざすと人の記憶や考えを読み取ってしまうもの。
それを知っているのは孤児院ではマザーだけだった。
だから、アルトのことも読み取らせようとしたんだと思う。
「…っ」
アルトから流れ込んできたのは、大きなお屋敷で、アルトが男の人や女の人、少し年上くらいの少年少女から殴られたり、罵られたりしている光景。
“イラナイコ”“デキソコナイ”
そんなことを言われながら、アルトは生きてきたんだ。
「アルトも孤児院に住めばいいのに」
泣き疲れて眠ったアルトに近づいてきたマザーに聞こえるように、私はそう言った。
「何か読んだのね」
「アルト、お家で殴られたり、色々言われてるみたい」
「虐待…ヴァローゾ家も堕ちたものね…」
それからのマザーの行動は早かった。
虐待のことを届け出て、孤児院でアルトを引き取れるようにした。
もちろん私の【読手】はデタラメなものじゃないから、ヴァローゾの家の人より信用してもらえた。
何より、お役所には私の【読手】よりも優れた魔力体を持つ人がいるから、隠しようがない。
アルトが孤児院に来てしばらくすると、魔法学院に入学できる年齢になった。
私は【読手】を持っているから必然的に入学したし、アルトも普通の子供よりも高い魔力を持っていたから一緒に入学することになって、今に至る。
「ひぎゃあぁあぁあ!!」
「今度は何だよ…」
休みの日だというのに人の部屋に入ってきて涙目で叫んでいるアルトを見るとため息が出てきた。
「俺の部屋に蜘蛛が出たんだっ!」
「…蜘蛛くらいで大げさな…触りたくないなら空気で包んで外に逃がせばいいじゃないか」
「冷たいぞお前!」
「いや、普通にしてるだけ…仕方ないな…」
アルトの部屋に行くと、確かに蜘蛛がいた。
本当にちっちゃいのが。
「はぁ…【エアボール】」
空気の球で蜘蛛を包んで、窓から出す。
「で、これでいい?」
「ま、まーなっ!」
「じゃ、私戻るぞ」
「も、戻るのかっ?」
がっちりと私の着ているシャツを掴んでいる。
「戻るよ。部屋でゆっくりしたいし」
「俺も一緒にいてやるっ!女は一人が恐いんだろっ?」
一人が恐いのも一緒にいて欲しいのもお前だろ、と言いそうになったが、意地になったアルトは面倒なのでやめた。
「はいはい。コーヒーくらいは出してやるよ」
「ミルクは?」
「つけるって。あと砂糖二杯な」
「よっしゃー!」
子供のようにはしゃぐアルトをかれこれ十年近く放っておけないんだから、私も世話焼きというか、なんというか…。
楽しいから、いいんだけどな。