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My little girl

作者: Blood orange

澄み切った青空に映えるように白い教会の屋根が空に挑むようにそびえ立つ。

数羽の白い鳩達が幸せを運ぶように何度も空に弧を描いてく。


厳粛な教会の中では花嫁が来るのを今か今かと待っている一人の男性。

鳶色の髪に鳶色の瞳をしている彼は緊張で顔を引き攣らせている。その横には微笑を称えている神父が落ち着きなさいと何度も男性に声をかけていた。


パイプオルガン奏者による結婚行進曲が教会内に響き渡る。扉の向こうには花婿同様に緊張の面持ちの花嫁がさっきから何度も落ち着け落ち着けとばかりに何度も深呼吸を繰り返す。

そんなに深呼吸をしてると倒れてしまうぞと横にいる白髪の男性に嗜められると花嫁は「でしたね」と顔をくしゃっとして笑顔を見せる。


爺で役不足かもしれんが…


そう口にする白髪の男性に花嫁は泣きそうになりながらも、必死で笑みを作ると何度も首を横に振っている。


そう彼女の腕をとりバージンロードを歩く男性は花嫁の父ではなく、祖父。

「リア、お前の父…ジョージもリアのことを見てくれてる。さあ、行こうか」

「はい」

二人は扉が開かれると一歩ずつ歩き出した。バージンロードの途中には二人の若い男性が彼らを待っていた。

よく見るとこの男性達は顔がよく似ている。

そう、彼らは双子ではないが兄弟だ。

祖父から花嫁を託された二人は、花嫁を真ん中にして一歩一歩ゆっくりと歩き出すと花婿の前に来ると二人して妹を頼むと笑顔で妹の手を花婿の腕に組ませた。


神父の有り難い聖書の言葉を聞きながら、花嫁はここにはいない愛しい人の事を思い出していた。

その人は大地のように優しく、太陽のように暖かい人でいつも自分を見守っていた人。

その人の事を思い出す時は怒った顔よりも、笑顔の顔しか思い出せないほどいつも笑顔を絶やさない、明るい人だった。

年上の兄二人と一緒に遊びたいと泣き出した自分に優しく語りかけるその人に自分は「パパ」と呼んでいた。

彼女にとって「パパ」はスーパーマンだ。

兄達に教えてもらってもなかなか乗れなかった自転車なのに、「パパ」にコツをちょっと教えてもらっただけですいすいと乗れるようになった。

実際は「パパ」が彼女がこけないようにと自転車のサドルを持って走ってくれていた。

でも娘にとって「パパ」は凄いと言う擦り込みが始まった。


高々と幼い自分を抱き上げてくれた「パパ」笑顔に泣いていた娘も思わずにっこりになってく。

やっぱり「パパ」はスーパーマンだ。


はじめて友達と喧嘩をした時も、ママはあなたが悪いと言うだけで娘の言葉を聞いてはくれなかった。だけど「パパ」は笑顔で娘の名を呼ぶと膝の上に乗せて抱きしめてくれた。彼女が自分の言葉で何があったのかを話すまで辛抱強く待ってくれた。いつものように大きな手は優しく娘の頭を撫でると答えを導き出してくれる。


「君が今思っている事をそのままお友達に伝えてごらん」


その一言で友達とぎくしゃくしていた関係もスムーズに行き、仲直りが出来た。

やっぱり「パパ」はスーパーマンだ。


そんな娘と大好きな「パパ」の関係も思春期特有の恋に邪魔をされる。

高校になった時に初めて年上の男の子と口づけを交わした日は、気恥ずかしくて家に帰っても「パパ」の顔をまともに見れなかった。

そんな娘の様子に「パパ」は寂しそうな笑顔を向けてくれてた。


初めてのボーイフレンドが出来た時、娘は彼を「パパ」に紹介した。「パパ」なら喜んでくれるだろうと。いつもにこやかに微笑を称えている「パパ」が普段ならかけることのないサングラスをかけ、睨むように(ボーイフレンド)を見ていた。「パパ」が気難しい顔で色々な質問をボーイフレンドに突き付けて来た時は、娘はまっ赤な顔をして「もう止めてよ」と叫んでしまった。


思春期もまっ直中に入った時、少しのことでイライラしたり泣き出したりする娘に母親はため息を吐きながら「あなたがリアを甘やかすから」と怒っていた。

「パパ」はどんな時も娘を怒ったりはしなかった。ただ嵐が治まるのを待っていた。「パパ」の言葉は魔法のように娘の乾いた心の中にしみ通って行く。

「パパ」はいつだって娘が自分で答えを導き出せるように誘導してくれた。


家族で一緒にいるのが当たり前だと思っていた時、年上の兄達がそれぞれ結婚し、家を出て行った。一気に寂しさがこみ上げて泣き出した夜、「パパ」はホットミルクを娘に渡すと「これみるか?」そう言って持って来たアルバムを二人で開いて思い出話に花を咲かせた。


「パパ」はスーパーマンだ。


高校を卒業した娘は大学で悩み出したが「パパ」が娘に夢に向かって行くのは今だから出来る事だと言って遠くの大学に行かせてくれた。

家を出る時、愛してるよと言ってくれた「パパ」の言葉を胸に大学へと向かった。


新しい土地、新しい友達、大きな大学と慣れない事が続き、娘は夜も眠れない日が続くと家に電話をかけ始めた。

「パパ」に何か言ってもらいたい…。

だけど「パパ」は電話に出なかった。一人で切り抜けろと言う事なのかも…。

そう思いながらも涙で枕を濡らす夜が続いた。そんな中、ようやく大学で友達が出来始めた。楽しい友人達に囲まれてもホームシックはなかなか治らなかった。

友人に相談する度に笑う人もいたが、真剣に自分の話を聞いてくれる人もいた。そんな友人達との付き合いで、彼女を支えてくれた友人が恋人へとステップアップして行ったのは時間の問題。

大学も最後の冬となった。彼女は恋人を連れて故郷に帰ると「パパ」は少し顔を歪めたが、すぐにいつもの笑顔で二人を迎えてくれた。

滞在中も彼女の「パパ」は娘の恋人の事を名前で呼ぶ事はなかったが、彼はそんな彼女の父親の不器用な男らしさに惹かれて行く。



それから何年も経った春、久しぶりに故郷の土を踏む娘は実家までの一本道を恋人が運転する車の車窓から変わる事のない田園風景を眺めていた。久々の帰郷と言う事で心持ち彼女の顔が少しばかり緊張で強ばっているのは気のせいではない。

大丈夫だよと彼女を励ますように震える彼女の手を握れば、揺れる瞳から涙が一筋こぼれ落ちてく。


幼い頃から変わる事のない田園風景を車窓から眺めていると、この閉鎖された田舎から自由な都会に飛び出したくて大学を卒業したら地元に帰る条件だったのに、自分はそれを無視して都会で就職した。

一度帰郷するチャンスを失した彼女はどんなに仕事で苦しくても父親に頼る事をしなくなった。

かつて彼女が抱いていた「パパ」はスーパーマンと言う思いも全て色あせた思い出と一緒に心の片隅に追いやった。

大学を卒業して二人は無事就職し、社会人として働き出して二年目になる。仕事が忙しくて帰って来れなかったが、今回彼がどうしても君の実家に行きたいと言って来た。


もう私にとってスーパーマンは「パパ」ではなく彼になっていた。


突然帰って来たりして両親を驚かせてしまうだろうかと心配しながらも、小さな子供のようにほくそ笑んでいた彼女は、家が近づくに連れて日頃余裕綽々な彼の表情が強ばっているのを見て微笑んだ。


「らしくない緊張してるの?」

「ああしてるさ。君のパパはどんな顔をしてくれるかってね」

「どんなって普通よ。前にも来たでしょ?」

「さあ…それはどうかな。でも一発くらい殴られそうだな。今日はいつもとは違うんだから」


いきなり父親に殴られそうだと言い出す彼に彼女はまさかと言い出す。

小さな頃から変わらないカントリースタイルの家が見えて来ると、彼女は身を乗り出した。庭には自分がよく使っていたプレイハウスが残っている。

「パパ…」

涙混じりの声が聞こえたのか、車が庭に入って来ると勢い良く赤い玄関の扉が開く。

そこには幼い頃から自分を暖かく見守ってくれていた笑顔が待っていた。

よほど慌てて外に出て来たのか、セーターが裏返しだ。

自分の姿を見て目尻を下げた父親は、大きく手を広げて自分を迎えてくれたが、運転席から彼が出て来ると顔が引き攣った。

昔の悪夢が娘の頭を過るが、彼は父親に対し自分はあなたの娘さんと将来を考えた付き合いをしていると告げた。

その日の夕食前に、彼から手を取られると目の前で跪いた。

何も知らされていなかったリアはただ恥ずかしいのと一体何が始まるのかと言う不安で、思わず「パパ」の姿を捜してしまう。

「リア…いや、マリアナ=ジョーンズさん。大学時代から僕らはともに歩んで来た。僕は君の恋人としてこの数年を過ごして来たが、これからは君と共に二人の将来を歩んで行きたい。どうか、僕と結婚して下さい」

「はい…よろしくお願いします」

彼女の家族の前でプロポーズをした。

その時に彼が娘の指に嵌めたのは、プリンセスカットの大きなサファイアはその昔彼の父親が母に贈ったと言っていた彼のお母さんの形見。いつか息子が恋した女性と将来を約束する愛しい人が現れた時に託すように言われた指輪(誓い)

涙で濡れていたリアは気がつかなかったが、彼が後でこっそり教えてくれた。

リアに無事にプロポーズをした彼にムスッとした父親は最後には『娘を頼む』と。娘には見えないように男同士の固い握手をガッチリと交わした。

両者の表情は虫も殺さないような笑顔を称えていたが、お互いの手を握りしめた箇所が白くなるほど強く握りしめていた。

そんな二人をリアの二人の兄達は、あれは父の最後の足掻きだと微笑みながら見ていた。

台所へと向かった「パパ」の後ろ姿を追いかけたリアは自分と変わらない「パパ」の背中に抱きついた。

「パパ…ありがとう」

「リア…お前は今、幸せなんだな」

言葉が出てな来なくて、リアは目を潤ませながらも小さく頷くと「あいつは良いヤツだ」その言葉だけでリアはパパに縋って泣き出した。

後で母親からパパが台所で手をしきりに摩っていたのだと聞いて、思わず苦笑いをしてしまう。

彼女の父親から「娘との将来を考えているのなら、プロポーズは早い方が良いぞ」と発破をかけられてたと告白され、やはり「パパ」はスーパーマンだと笑った。

いつまでもこの幸せが続くとそう信じていた。

この時、何故「パパ」が彼との結婚に賛成していたのか、どうして式の事を言っていたのか、その時のリアには幸せに浸りすぎていて周りを見る余裕がなかった。



「式は早めがいいね」


思いがけない彼の言葉にリアは待ったをかけた。

二人とも就職したとはいえ、まだ三年目だ。

何故急がなきゃ行けないのだろう。普通は婚約をして半年または一年くらいで結婚をするが、彼が示したのは二ヶ月後。

わけが分からない彼女は、思わぬ所で彼と喧嘩をした。

それから気まずさが募り、二週間ほど連絡を絶っていた。

その間も彼は婚約者の家族と式の話を進めていた。まだ夜も明けきらぬ早朝にリアの携帯電話が光り輝く。

彼女はまだ彼と喧嘩をして、折れる事も出来ずに友人の家に泊まっていた。たとえ携帯電話が鳴っても彼女は出なかった。

「リア…そろそろ彼を許してあげなよ」

友人の声にリアは許したいけど、何も自分に相談もなく勝手に結婚式の日取りも場所も決めてしまっていた彼に対する怒りは治まらない。

「わかってる…でも、許せないの。私ってそんなに頼りないのかな…」

婚約したばかりなのに、気がつけばすぐに婚約指輪をくるくると回してしまう。

「まさか、婚約破棄するなんて言わないよね?」

「ううん…彼の事は好きよ。愛してる…。でもやって良い事と悪い事があるでしょ?」

それ以上友人は突っ込んで来なかったが、まだリアの中にはモヤモヤした物が立ちこめていた。

自分の携帯電話をサイレントにするとコートのポケットの中に突っ込んだ。

朝になり、友人の携帯に彼からの切羽詰まった声が。

君のパパが職場で倒れたと。

そう聞かされた(リア)は、がくがくとその場に崩れ落ちた。友人が肩を揺するもただ動揺して泣き出すだけ。

今まで喧嘩してた彼が慌てて彼女を迎えに来ると、実家までの航空チケットや仕事場への連絡を素早くすませてくれてた。


得体の知れない恐怖で震える体を彼は優しく抱きしめると「大丈夫だから」そう言って、「パパ」と同じように大きな手で彼女の頭を撫でると不思議と気持ちが落ち着いて来る。

以前とは違う気持ちで向かう実家への道のりは、とてつもなく果てしなく長く感じる。

少しは眠ったらと言ってくれる婚約者の彼の言葉にリアは頭を振る。

その彼女の目には濃いクマが出ている。

祈るような気持ち「パパ」の無事を神に乞う彼女は憔悴しきった顔で彼と一緒に実家へと向かう。




実家ではいつもと変わらない笑顔を見せてくれる父親が自分達を待ってくれてた。

ただ違うのは、父親の体がやつれていたこと。

たった一ヶ月前まではあんなに元気だったのに…。


「パパ」はスーパーマンだから大丈夫なんだよねと彼女が家族に聞いても、彼らは目を泳がせるばかり。

そんな家族に変わって彼が口にしたのは、彼女の「パパ」と男同士の話をした時にもう自分の寿命が長くはない事を打ち明けられ、彼女の大好きな「パパ」に娘のウェディングドレス姿を見せたいと願い結婚式を早めに決めたのだと聞いたとき、我慢していた娘の涙が関を切ったように溢れては落ちて行く。


青い顔をした母親は覚悟を決めたようにポツリポツリと話してくれた。

リアと彼が帰った後日…。寝室で物凄い音がして驚いて駆けつけた母親が見たのは…お腹を押さえて倒れた自分の夫。

女の力では倒れた夫を起こして助けを呼ぼうにも無理だからと階下にいた息子達を呼んで一緒に病院へと向かった。

夫の職業は医者。それでも何かあったらだめだからと言ってムリヤリ検査もうけさせた。夫は大丈夫だと頭の隅で思っていた妻に聞かされた担当医からの言葉はハンマーで頭を殴られるような言葉だった。

ガン。しかも手の施しようがないほどに転移が進んでいると。

息子達にこの事は知っていたのかと聞けば、彼らは「パパ」はリアにも母にもナイショにしておいてくれと頼んでいたのだと。

母親の言葉は途中から涙声に変わり嗚咽を漏らした。そんな母親を抱きしめるとリアも泣き出した。

医師である「パパ」は自分の寿命を知っていたからこそ、娘の婚約者になる彼に大事な自分の「Little girl」を託す事にしたのだと、そう聞かされてリアは手で顔を覆うと子供のように声をあげて泣きじゃくった。


医師だからこそ、自分の病気もわかっていた。

だからこそ、残りの時間は住み慣れたこの家で家族と一緒に過ごしたいとそう言っていたと兄達から聞かされ、涙を浮かべた。

主寝室に入ると大きなベッドには幾つもの枕が並べられていた。

その中に埋もれるように眠っている「パパ」。

「パパ」の大きな手は枯れ木のように細くなっていた。

病魔に冒され、虚ろな目をしている「パパ」は愛しい娘の姿を認めると窪んだ目を細める。



二人は即座に溜まっていた有休を取ると父親との時間に費やす事にした。

たまに意識が虚ろになっていく父親の姿に娘は涙する。

そんな恋人を支える彼に父親は『君が私の新しい息子になってくれて良かった』と笑顔を浮かべる。

暖かい日に気分が良いからと車椅子で外に出たいと言い出す父親を連れて外に出ると父親は懐かしい曲をハミングで唄い出す。

「リア、この曲は憶えてるかい?」

「もちろんよ」

それは幼い頃、父が教えてくれたワルツの曲。

小さい自分はつま先立ちで背伸びして、相手の人は背を屈めながらも一緒に踊った曲。

「リア、一緒に踊ろう…。昔のように」

いつの間にか母親も二人の兄達と一緒に二人の側に来て、涙を浮かべている。

「お義兄さん達、ちょっといいですか? お義父さんは後一ヶ月持ち堪えますか?」

彼は二人に義父の余命を聞くと、医師である二人の義兄達の答えは暗い物だった。今まで持ち堪えたのが奇跡だと言わざる終えない。父の命の灯火は何時消えてもおかしくない命だと涙ながらに答えた。

父親の最後の言葉は家族に愛している…そして君の結婚式を祝えなくてすまない…と言う懺悔を残してその日の夜にみんなに見守れながら静かにその生涯に幕を下ろした。



「新婦?大丈夫ですか?」

神父の言葉に我に返った花嫁は震える声で大丈夫ですと答えると誓いの言葉を復唱した。

本当はこの日を家族で迎えたかった。

「パパ」の思いを胸にリアは「父の思いと一緒に誓います」と言葉を添えた。

顔を覆っていたベールを新郎の手であげられるとすでに涙が溢れている。

「リア…。結婚式、君の意見も聞かずに急がせてしまってごめんな…。君のパパからは病気の事を口止めされていたから。許してくれるかい?」

涙をこらえながらも誓いの口づけを交わした。

式が終わった後、二人は披露宴会場へと向かった。

本当なら、ここで「パパ」とワルツを踊る予定だった。

だが会場に流れた曲にリアは目を見開くと、手で口を覆った。

その曲は父と自分がよく踊っていたあのワルツの曲。

そして目の前に現れたのは、父方の祖父ーランドルフ。

「おじいちゃま…」

「さあ、リア踊ろう」

そう手をとられ二人は踊り出す。

踊りながらもリアは背中を大きく振るわせて泣き出した。

そのリアの姿に心を打たれて、招待客達も目頭を押さえている。

その後、一番上の兄が祖父と変わるとリアと踊り出す。

「ビル…」

「父さんがガンだったのは、俺達はもちろんお前の夫のカールも知ってたんだ。だけどお前には知らせるなと言われてて。父さんはお前が自分の病気の事を知るとお前の事だ。カールと別れてまで自分の世話をするって言い張るに決まっているからリアには言わないでくれってそう言ってたんだよ。それに父さんはリアにとって『スーパーマン』でいたかったんだ。幸せになってくれよ」

兄の言葉に妹は言葉を発せないくらいに泣き出し片手で口を押さえる。

幼い頃に父親にしてもらっていたように、兄は背中を優しくポンポンと叩く。

「さあ、アンディも待ってるぞ」

もう一人の兄の手に妹の手が乗せられると、花嫁は号泣しながらステップを踏む。

「リア…。この曲…父さんがお前の結婚式に一緒に踊るんだって言ってったんだ。お前が実家から遠く離れた大学を選んだ時も父さんはお前の夢を潰すわけにはいかないって見守るのを選んだんだ。そんな父さんの眼鏡にかなった男を選んだお前を父さんだって自慢に思っているさ」

「アンディ…兄さん…私…父さんからの電話に出れなかった…」

泣きじゃくる妹に兄は宥めながらも、父さんは全てをお前の夫になる男に託す事に決めたのさ。だから病気の事も彼に告げた。

最後に花婿である新郎が彼女の涙を拭きながら、綺麗だよと抱きしめた。

ふわりと風が花嫁のベールを撫でた。

それはまるで父が側にいる感じ。

「お父さん…?」


「どうした?」

「ううん。パパが頭を撫でてくれたような気がしたの」

「そうだな。父さんはお前の事をとても心配していたからな。いつまで経っても結婚しないって」

そんな兄の言葉にリアは鼻を赤らめながらも、もう泣かないと笑顔を見せる。

兄はリアの笑顔を見届けると「なら、最後はお前の新しいスーパーマンにお前を託すよ」そう言って夫になったばかりの彼の手にリアを託した。

二人は踊りながらも笑顔が溢れ出す。

「スーパーマン?」

「ええ?」

「お義兄さんの言葉だよ」

「ああ…。私ね、『パパ』の事をずっとスーパーマンだと思っていたの。だから私が結婚するのも『パパ』みたいなスーパーマンと結婚するんだって…」

「そうか…だからか…」

笑っている二人に会場からの拍手が鳴り止まない。




二人に待望の子供が産まれるのはそれから二年後の事。

「こら!ジョージ。待ちなさい!」

きゃっきゃきゃっきゃと明るい子供の笑い声が響いている。

娘は空を見上げると天国にいる父に語りかける。

お父さん、あなたの名前を貰った子供ですと。


終わり










結婚式ってこんな感動もあっても良いかもと思って書きました。


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