5
目を開くと、夕暮れの公園、そして古田君の姿はなくなっていた。前も上も下も真っ暗闇。
「やっと二人きりになれたね」
おじさんの声が後ろから聞こえる。こんな変な場所でおじさんと二人きりとか冗談じゃない! そうよ明日菜。今度こそ蹴り飛ばしてやるのよ! 古田君の仇なんだから。私は意志を固めるとおじさんをキッと睨み付ける。
「えええっ!?」
「ふっふっふ」
おじさんの姿を見て私は声をあげた。さっき見た姿とはまるで違う姿だったからだ。例えるならば、タコ型の宇宙人。無数の足がグネグネと動いている。……本当にいろんな事がありすぎてついていけないんですけど。
「おじさんはね。かわいい女の子をコレクションするのが大好きなんだ」
「コ、コレクション?」
「そう。実物大の女の子を隅々まで観察して部屋に飾るのさ。素敵だろ? もちろん自分の星の女の子もコレクションしたんだけどね。やっぱり地球人のフォルムは素晴らしい。だからおじさんは地球にやってきたんだ。そしてやっと見つけたんだよ。理想の女の子を!」
一気に喋ったおじさんは私を見つめ、そして言葉を続けた。
「それは君だよ。さぁおじさんに隅々まで見しておくれ」
「ひいいいっ!?」
私は思わず後ずさる。
「どうしたんだいお嬢ちゃん。憧れの宇宙人だよ」
「ううう」
会いたかった宇宙人。憧れの宇宙人が目の前に。でも!
「変態はいやああああああああああっ!」
「――っ! だから! 変態じゃない! これは芸術なんだよ! どいつもこいつも俺を変態呼ばわりしやがってええええっ!!!」
おじさんがブチ切れた。そう叫び終わると肩で息をする。
「……まぁいい。この亜空間には誰も入ってこれない。俺の邪魔をするものは誰もいない」
そう言うとおじさんは私に歩み寄ってきた。ヤバイ。逃げなきゃ!
「あれ?」
身体が重い!? 全然走れない!?
「地球人には亜空間は不慣れだろう。そう長い事動けない。もう逃げられないよ。さぁあんなところからこんなところまでよ~く見せておくれ」
おじさんのタコのような足が私に向かってくる。もう駄目だ! こんな変態に捕まってあんな事やこんな事を!? もうお嫁にいけなくなっちゃうよ!
「じっくり観察して綺麗なままで飾ってあげぐはっ?!」
突然おじさんが倒れた。今度は何が?
「そう言うのを変態っていうんだよ!」
聞き覚えのある声――古田君だ!
「明日菜大丈夫か?」
「う、うん。古田君は?」
「え? あぁアレぐらいどうって事ないよ」
古田君は私の元へとやってくる。
「な、何で? 亜空間に入ってこれるワケが」
おじさんはゆっくりと立ち上がりながら呟いた。
「通販で買ったような亜空間キットなんてコレで簡単に開けられるよ」
古田君は銀色の缶切りのようなものを取り出して言う。それにしても亜空間キット? 通販? なんで古田君がそんなものを?
「地球人が舐めた真似を!」
「あ~。おっさんまだ気が付かないの? 亜空間でこの姿保ってるのもしんどいし、見せてやるよ」
そう言うと古田君の肌の色が銀色へと変わる。目もどんどん大きくなり、グレイへと変化した。
「え? え!?」
どういうことなの? そうだ。コレは夢だ。そうに違いない。目が覚めないんだったらこの状況を楽しむしかないね。なんだか急に肩の力が抜けてきた。
「貴様もこの星の人間ではないってことか。む? その面、どこかで……そうだ。お前、冥王星の没落王家の王子だな!」
古田君はその言葉に動きが止まる。
「ははは! 犯罪者を捕まえて点数稼ぎか。無駄無駄。お前たちは俺達と同じ立場にはなれないんだよ!」
おじさんの言葉に古田君はこぶしを強く握る。
「お前たちみたいな小さい星の人間は隅で小さぐはっ!」
いつの間にか古田くんはおじさんの近くに立っていた。殴られたおじさんは完全に気絶してしまったようだ。
「お前たち火星人の真っ直ぐな情熱は嫌いじゃないさ。でも犯罪者。そして俺達を笑う奴らは許せないんでね」
そう言うとおじさんの横に落ちていた箱のようなものを踏み潰した。その瞬間、また激しいめまいに襲われる。
「あ」
気が付くと元の公園に戻っていた。
「明日菜、ごめん。びっくりした?」
元の姿に戻った古田君が声をかけてくる。
「いや、変な夢だったなぁって」
「夢じゃないよ」
そう言って古田君は私のほっぺを軽くつねった。
「いたたっ?! え? じゃあ一体今のはどういう……」
「お、来た来た。遅いですよ!」
タコ姿のままのおじさんの元に2人の警官らしき人物がいつの間にか立っていた。その二人に古田君は声をかける。
「あなたが通報者ですね。しかしコレは一体」
「通報したあと、亜空間に入って明日菜を助けに行ったんです。そしたらおじさんが襲い掛かってきたんでつい。正当防衛ですよね?」
ん? 私が見た状況とちょっと違うような? 古田君に目を移すと何やら意味ありげな視線を向けていた。
「そこで待っているようにと言ったんだが?」
「すいません」
「まぁ、被害者も無事でしたしなによりです」
「連続女子誘拐犯。間違いないな」
警官の一人が束のような手配書の中の1枚を取り出す。ちらちらとそれが見えたけど、どれも同じ顔にしか見えなかった。
「今回も俺のお手柄ですかね」
「あぁ。だがいくら手柄を立てようと宇宙警察にはなれない。冥王星の王子であろうともな。これは規則だ」
「分かってますよ」
「では後ろのお嬢さんの記憶を」
「え? 私?」
警官はいままで置いてきぼりだった私の方に視線を移す。
「待ってください。彼女は俺から説明しておきますから」
「ですが」
「俺の彼女なんです。今まで黙っていた事を謝らなきゃいけないし」
「地球人の彼女ねぇ」
「先輩。行きましょうよ。ねっ」
「今回だけだぞ」
二人はそう言うとまだ気絶しているおじさんと共に突然姿を消した。
「え? 今のは?」
「宇宙警察だよ。宇宙に散らばる犯罪者を取り締まる人達」
「う、宇宙警察?」
「明日菜。それで思いだした?」
「えええっ?」
突然質問を変えられる。何の事だっけ?
「一緒に見た夕日の事だよ」
「あ。もしかして――」
確信はなかった。だけど自分の考えが確かな気がしてならない。
「一緒に夕日を見ていた私は変なおじさんと一緒に行ってしまった」
「そう。絶対に女の子は危ない目にあう。そんな予感がして俺は後を追った。そして」
「そっか。あの時助けてくれたのは古田君だったのね」
「やっと思い出してくれた!」
古田君は嬉しそうに万歳した。
「俺は明日菜に会うために戻ってきたんだよ! 初めて好きになった女の子。初恋の相手を追って」
ここでようやく気が付いた。そうだ。古田君が喜ぶと自分も嬉しい。そして古田君が悲しいと自分も悲しい。そんなのもう決まってるじゃないか。彼の顔が頭からはなれない理由だってそうだ。
「明日菜。俺と付き合ってください」
古田君はひざまずき、私に手を差し出した。
「はい。喜んで」
こうして私たちの奇妙な交際が始まった。