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おふくろの味

 子供の頃、学校の帰り道でカエルを見つけて持って帰った。母に見せると、それでから揚げを作ってくれた。美味しかった。


 子供の頃、屋根裏でネズミを捕まえた。母に見せると、それでから揚げを作ってくれた。美味しかった。


 子供の頃、自分に懐いてきた野良犬を家に連れて帰った。母に見せると、それでから揚げを作ってくれた。美味しかった。


 子供の頃、父と遊んだ。遊び疲れて動かなくなった父を母に見せると、それでから揚げを作ってもらった。美味しかった。


 今、僕は大人になっている。おふくろの味は何かと聞かれて、これらのことを思い出した。



 ――――――――――



 私には一人息子がいる。だけど、産んだのは失敗だった。子供の世話など、煩わしいだけだった。


 ある日、息子がカエルを拾ってきたので、むしゃくしゃしていた私は目の前でそれを殺して、から揚げにすると、息子に食べさせた。同じように、ネズミや犬の肉なども食べさせたことがある。ところが息子は泣きもせず、怒りもせず、ただもくもくと食べる。この子は生来頭がおかしいに違いない。


 息子が視界に入るたびに苛立つ。こんな気持ち悪い子を産みたいわけじゃなかったのに。とうとう我慢ができなくなって、私は旦那に息子を殺すように言った。これ以上、私のそばにいてほしくない。包丁を持った旦那は震えながら息子の部屋に行った。数十分後、息子が血だらけの旦那を引きずりながら私のところへやって来た。


 息子は言った。「お父さん、遊んでいたら動かなくなった。だからいつものようにから揚げにしてくれる?」と。


 遊んでいたら? いつものように? もしかしてこの子は私がカエルやネズミや犬を殺しているのを遊んでいると勘違いしていた?


 私は恐怖に駆られた。息子が怖くてどうしようもない。逆らう勇気などなく、私は旦那の肉でから揚げを作らされた。


 以降、私は息子のために様々なから揚げを作らなければいけないことになる。息子が大人になった時、私は廃人になっていた。でも良かった。精神病院に収容された私は息子のためにから揚げを作る必要がなくなったのだから。もう、この手で血抜きをして肉と骨と内臓を分けなくてもいい。


 終わった……ようやく……



 ――――――――――



 私は好きな男性に、おふくろの味は何か尋ねてみた。その男性はから揚げだと答えた。料理に自信があった私は、「じゃあ、からあげ作ってあげる」と言った。それを聞いた男性は「ちょっとこれから病院行ってくる」とだけ答えて立ち去った。


 ……これは振られてしまったのかな。いきなり手料理なんて強引過ぎたかも、はぁ……


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