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いきのこるため

 ウロウロ、ウロウロ……うっとーしいことだ。入って来られるだけの知能がないから、毎日あいつらは外をうろついている。


 こちらはそれを屋上から観察している。あいつらもそれを知っているからウロウロしている。時々、威嚇するように吼えながら。


 殺したいんだろうな、俺たちを。


 でも、無理だ。お前らにこの要塞は突破できねえよ。分厚い壁に囲まれたこの要塞は敵の侵入を許さない。


 だがよ、あいつらのせいで、外に出ることはかなわない。おかげで、かなり限定された自由だよ、まったく……


 ああ、そうだ。俺がここで言っているあいつらってのは人間のことだ。ただ、普通の人間じゃない。知能を失って、凶暴になったやつらのことだ。


 驚いたぜ。ある日、人が人を襲い始めたんだからな。何の前触れもなく、突然にだぜ。で、どうにか生き延びた人間がこの要塞に立てこもっている、というわけだ。


 どうして世界はこうなっちまったかなぁ? 下らん映画じゃあるまいし。


「やあ、見張りの交代の時間だよ」


 と、俺の背中から爺さんの声。


「ん、爺さんか。それじゃ交代してもらおうか。老体に鞭打たせて悪いけどな」


「いいよ、いいよ。こんな時だ、協力しあわないとね」


 と、爺さんは微笑みながら言う。人の良さそうな顔だ。


 どうして世界がこうなったのか、真実は知らねえよ。けども、だ。実は俺なりに考えていることはある。だから、この人の良さそうな爺さんでそれを確認してみるか。俺の考えが正しいかどうかを、よ。


「なあ、爺さん。ちょっと訊いてもいいか?」


「何だい?」


「爺さんがこの要塞に逃げ込んだ時、一人だったよな?」


「ああ、そうだよ。それがどうかしたのかい?」


 と、爺さんは抵抗もなく素直に答えてくれた。


「いやな、爺さん一人でよく生き延びてここまで来られたなって、ふと思ったからさ」


「いやいや、大変だったよ。何度も殺されかけた。連れも何人か居たんだけどね。ここに着いた時はワシ一人だけになっていた」


 ふ~ん。そうかい。連れは居たのかい。んじゃ、ちょっとカマを掛けてみようかね、と。


「殺されかける度に、連れを見捨てたのか、爺さん?」


 この言葉に爺さんの眉がピクリと動いた。


「いや、見捨てたんじゃないな。連れが襲われている間を利用して逃げたんだ」


 爺さんは無言だ。が、人の良さそうな笑顔は消えている。


「この要塞に逃げて来たのも、爺さんの考えだろ。爺さんは知っていたんだ。ここが侵入者に対して極めて頑強であることを。なぜならこの要塞に住んでいたことがあるから、過去に」


「……何が言いたいんだね」


 ふん、今の爺さんの口調からは警戒心が滲み出ているな。おそらくは俺の言っていることが図星なんだろう。


「俺の考えを言おうか。俺はな、みんながおかしくなっちまった理由はウイルスのせいだと思っている。人が人を殺したくなる殺人者製造ウイルスが蔓延したんだよ、この世界にな!」


「……映画の見過ぎじゃないのかね、それは。あまりにも稚拙な考えだよ」


 平静を装いながら爺さんはそう言った。稚拙な考えか。確かにその通りだ。そりゃそうさ。俺自身が稚拙な人間なんだから。


 俺はここに逃げ込んできたわけじゃない。もとからこの要塞に住んでいた。決して侵入を許さない要塞……いや、脱獄を許さないこの刑務所にな!


「なあ、爺さん。みんながおかしくなったのに、俺たちがおかしくならない理由が判るか? 判るだろ? 俺たちゃ、もともと狂った殺人者なんだから、殺人者製造ウイルスなんか効きゃしねえんだよ」


「……」


 爺さんは無言で、その場に立ち尽くしている。


「それじゃ、人が良さそうな振りをしていた爺さん。正直に答えてくれ。あんた、ずっと昔に人を殺したことあるだろ? で、ここに収監されてたことがあるんだろ?」


「……」


「無言ってことは認めるってことだぜ?」


 爺さんは一度ため息をついてから、


「……ああ、私は人を殺したことがある。しかしそれは君も同じなんだろう?」


 と言った。


「ああ、同じだ。だから爺さん、俺はあんたを何一つ責める気はねえ。ただ自分の考えが正しいことを確認したかっただけだ。で、確認も済んだんで、今からやるべき事も決定した。悪いが爺さんには死んでもらうぜ」


「なっ?」


 俺は爺さんを担ぐと、屋上から落とした。


 ここにはもとから刑務所に収監されていた奴、逃げ込んできた奴と居るが、どいつもろくでなしに違いない。協力し合って生きるなんて有り得ねえ。


 一見では、今この場所は安全に見えるだろう。見張りも順番に立てて協力し合っているようにも見える。外に自分たちを殺そうとしている奴らがうろついているという状況が状況だからな。


 しかしそれも終わる。理由は食料が尽きるからだ。だったら俺たちのすることといやあ、自分の食料の確保のために、他を殺すことだ。


 下の方が騒がしくなってきやがった。潰れた爺さんを見て、みんなのたがが外れたようだ。


 さてこれから盛大な殺し合いが始まる。外に居ても中に居ても生き残るのは大変だぜ。

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