距離
「10メートル……7メートル……5メートル」
私は距離を呟く。ここはブロック塀とガードレールに挟まれた、大人が2人も横に並べば隙間がなくなる程の窮屈な歩道。
まあ……不都合はない。むしろ、逃げられることなく人を殺すには。丁度良い。
視界の先から、3人の男達がこちらにやって来る。歩道が狭いため縦に並んで歩いている。3人ともまだ若い。おそらくはこの先にある大学の学生だろう。詳しいことは分からない。何しろ、今この時が初対面なのだから。
3人はにこやかに談笑しながら歩いている。楽しそうだ……本当に楽しそうだ。さぞかし充実した人生を生きているのだろう。
「……残り、1メートル」と、私は呟いた。
3人の男達は私の目の前まで来ると、怪訝な表情を浮かべた。この反応は当然だろう。私はスーツ姿のどこにでもいる中年サラリーマンのような風貌をしている。そんな普通の男が歩道で立ち止まって「0,0,0,0,0……」と何度も呟いていたら頭がおかしいのだと思われても仕方ない。
3人は僅かの間、歩みを止めていたが、すぐに一番前にいた男が私を無視して横を通り抜けようとした。しかし、私はそれを許さない。この私と対面した以上、ただで通り過ぎるなど有り得ない。私はさっと両手を広げて、男の歩みを妨害した。
「……おい、おっさん」
行く手を遮られた男が眉をひそめて、私を睨み付けた。馬鹿が、睨み付ければどうにかなると思っているのか? いや、もうどうにもならないんだよ、お前は。それを今から教えてやろう。私は両手を広げたまま、口を開いた。
「生きていればその過程でどこの誰と巡り合うかなんて、誰にも分かりはしない。知らず知らず人殺しとすれ違っていたりすることもあるだろう……君たちはそれを知りたくはないか?」
縦に並んでいた3人は顔を見合わせて戸惑っている。ふふふ。突然何を言いだすのか、このおっさんはと、後ろの2人は思っているのだろう。が、大丈夫だ。一番前にいるお前だけにはすぐに答えを教えてやる。私は両手を下ろすと、
「(自分から一番後ろにいた男を指差して)お前は70センチ、(次に真ん中の男を指差して)お前は40センチ、(最後に一番前にいた男を指差して)そしてお前は0、だ」と、教えてやった。そしてすぐさま右手をスーツの中に差し込む。
「これはな、距離だ。人殺しとの距離」
これを聞いて、一番後ろにいた男は何か勘付いたのか、体は私に向けたまま一歩後退りした。しかし、それは見当違いだ。答え、ではない。
さてと、ここで逃げられるわけにはいかない。私は目の前にいた男に密着した。直後、男が下腹部から血を流して蹲る。下腹部には私が隠し持っていた包丁が突き刺さっていた。
その光景を目にして、一番後ろにいた男は血にまみれた友人を助けようともせず逃げ出した。真ん中の男は腰を抜かして、その場から動けないでいる。怯えた目が私に語りかける。お前は人殺しだと。
……ふぅ。だからそれは見当違いだ。
私は後ろを振り返った。少し離れた場所で私の愛した彼女が佇んでいた。もうこの世にはいないはずの彼女が。彼女は一言も喋らない。ただ、血を流して倒れている男をずっと指差している。
「……そうか。まだ死んでいないんだな」
私は、蹲っていた男の下腹部に突き刺さったままの包丁を無造作に抜くと、男を蹴り倒した。そして何度も何度も男の体中に包丁を突き刺した。そぐそこで腰を抜かしている男の悲鳴が煩わしい。お前もついでに殺してやろうか。
一分くらいメッタ刺しにしただろうか。私は男が絶命したのを確認してから、再び振り返ると、もうそこに彼女はいなかった。
終わった……これで……良かったんだ、な……
パトカーのサイレンの音が聞こえる。
意味分からなかったらすみません。自分の文章力の問題です。