僕は呟いた。
……この先、生きていても良いことなど何もないと悟った時、僕は死のうと思った。死に場所を求めて、樹海まで足を運んだ。だけど、僕と同じような立場の人が他にもいることを知った。樹海の奥深く、そこに先約がいた。大樹の根元に女性の死体が横たわっていた。
季節は冬。今の樹海は凍えるように寒い。女性の死体は半分近く雪に覆われていた。僕は雪を払って硬くなっている死体を抱き起こし、大樹に寄り添わせた。
それはとても美しいものだった。女性はまだ若く、マネキンかと思わせるくらい肌が白い。肌が白いのは死んでいるせいもあるが、それにしても綺麗だ。彼女がいつ死んだのかは知らないが、ここは天然の冷凍庫のようなものなので、保存状態がとてもいい。
僕は彼女の胸や太ももを服越しに撫でてみた。そうすると、これまで感じたことのない感情が沸き上がってくる。
……彼女が欲しい。素直にそう思った。抱いた欲は死に対抗する手段となり、僕はその日、自殺することなく樹海を出た。
――翌日、僕は再び樹海に向かった。カバンを担いでいるが、そこには糸ノコが入っている。これで彼女を切断する。
僕はまず左手を切断して持ち帰った。冷たい樹海から持ち帰った左手はささやかな肉感を取り戻し、とても美味しそうに見えた。我慢できず、僕はそれを調理して食べた。
次の日は右手を持ち帰った。その次の日は左足を持ち帰った。僕は粛々とそれを繰り返した。そして、樹海から彼女の死体が消えた時、僕は困り果てた。まだ足りない。まだ彼女の体を欲している。欲が僕の中で暴れて、苦しい……苦しい。
そこで、僕は彼女の衣服から免許証を発見していたのを思い出した。そこから彼女の妹を見つけるに至り、その子が一人で歩いている時にスタンガンで気を失わせて、自宅に持ち帰った。
新鮮さを維持するため、すぐに殺しはしない。そのために必要な物は用意してある。さて、まずは姉の時と同じように、彼女の左腕から頂く。
……
……
左腕を味わい、満足感を覚えると、僕は呟いた。
――――――――――
私は姉を殺した。いつも自分の比較対象であった姉にとうとう我慢ができなくなった。自分とは違い、綺麗で、頭が良くて、人望もある。反面、妹である私には何一つない。全てを姉に持っていかれた。姉妹なのにどうしてこんなに違う?
殺した姉は樹海の奥深くまで運んで捨ててきた。これで良い。これで私は比較されることなく生きていける。
けれども、姉を殺してから数日後、私の心は何か見えないものに覆われていた。胸に、えも言われぬ圧迫感がある。
何だろう、この気持ちは? 罪悪感? いや、そんなのじゃない。そんなのじゃなくて、もっと違う……駄目、それが何なのかどうしても分からない。
私は気分転換に外に出ると買い物に行くことにした。でも、買い物には行けなかった。突然、体に衝撃が走って、私は気を失ったから。
……
……
ここは? ……まだ意識がはっきりしない。視界もぼんやりとしたものが見えるだけ。どこだろう、ここ? 私、寝かされているのかな? ……ああ、たぶん病院、かな。何か薬品っぽい匂いがするし。
あ、視界に人影のようなものが揺らいでいる。人影は私に近づくと、私の頭を撫でてこう呟いた。
「君はお姉さんと同じだよ」と。
私が姉と同じ? そんなこと言われたことがない。比較されては私が下に置かれる。それが常だった。その一言を聞いた瞬間、胸の圧迫感がさっと引いていった。そっか、私はこの一言が欲しかっただけなんだ。
嬉しい。誰だろう? こんなことを言ってくれる人は。だんだん視界もはっきりしてきた。もうすぐ、誰が言ってくれたのか分かる。
……ただ、どうしてだろう? 左肩の辺りが妙に痛くなってきた。