ベッドのした
……えーっと、ちょっと待て。
あれは、何だ? あれは?
うんうん、そうだ。これは難しい問題じゃない。むしろ簡単だ。簡単すぎて頭がパニックになっているようだ、私は。
取り敢えず最初から話すと、私は美大に通う大学生だ。性別は女。
それで、だ。今日学校で、同じサークルの男の子から家に遊びに来ないかと言われて来たんだよ。まあ、普段からよく話すし、少なからず私も好意を持っていたからね、ま、いいかと。
それで今、彼の部屋に居るわけだが、私が座っている左側にベッドがあるんだよ。大学生の借りている部屋だからワンルームで結構せまい。本当、目と鼻の先だ。美大ってのはお金が掛かるからね。生活費は切り詰めるのだよ。ま、そんなことはどうでもよくてさ。
んーで、問題はそのベッドの下さ。
……いるんだよ。誰かがベッドの下に居るんだって!! ちょっと体を傾けた時に見えてしまったんだよ!!
目が合ってすぐに目をそらしたんだが、あれは女の人だった。見間違えはない。ムカつくほど巨乳だったからね。あれはかなりの谷間だったよ。くそっ。
……いや、違う。巨乳は関係ない。少し私情を挟んでしまった。済まない。
よし、ひとまず落ち着くために、先ほど出された紅茶でも飲むか。
……うん、美味しいな。美味しい。
ふう、一息つけた。さて、と。ここからだ。どうする、私?
まず、ベッド下の女は誰だ? 彼女? いや、そんなわけはない。もし彼女だったら、私を連れ込んだ時点で激怒することはあっても、隠れる必要はない。
だとすると、ストーカー? まあ、確率的にはストーカーだよなぁ。見つかると都合が悪いから隠れているんだろうし。
うーん。だったらまずいんじゃなかろうか、私。彼女と思われて、ストーカーに狙われたりしたら、命が……
……
……
よし、帰るか! そう結論すると、
「なあ、今日はもう帰るよ」
と、お菓子を持ってきてくれた彼に言った。
「え、どうして?」
そう言った彼は不思議そうだった……まあ、そうだよな。彼からすれば突然帰られる理由はないからね。
けどな、私は言ってやったよ。
「私はお前の彼女じゃないんだよ!」
どうだ!? これで私の身の安全は保障されただろう。その代わり、彼は呆然としていたがな。可哀想に。
しかし、済まないが、彼女は別の相手を見つけてくれ。私では無理だ。今度は空手か何かを習っている女にするといいと思うぞ。
***
後日、あれから彼とは顔を合わせていない。けどね、その代わりに私の家に警察が来たよ。彼のことを聞きにね。
で、警察が言うには彼は悪いことをしていたんだが、それがばれて現在逃亡中らしい。そしてその悪いことなんだが、それがねー、しゃれにならないもので、
……殺人なんだってさ。
最初、ストーカー女と何かあって、殺してしまったのかと思ったよ。でもね、それが違うんだ。
いや、あのベッド下の女が死んだのは間違いないんだけども……どうもあの時、私が彼の部屋に遊びに行ってた時点で死んでたらしいんだよ。
美大に通ってて、彼がろう人形を作っているのは知ってたけど、どうやら彼は実際に人を殺して死体のろう人形化をしていたんだと。
私が見たのはろう人形だったんだよ。見たのが一瞬ですぐに目をそらしたから、生きている人間だと思い込んでしまった。まあ、彼がそれだけ精巧に作り上げていた、てのもあるんだけどさ。
……よかったな、私。犠牲者にならなくて。さっさと帰って良かったー!!
と、思ったぞ。その話を聴いた直後は。それはそうだろ。九死に一生を得たんだから。
だけどもだ、まだ話に続きがあって、警察は彼の手口についても話してくれた。彼は狙った獲物を動けなくさせるために、紅茶に睡眠薬を入れるらしい。
あれ? おかしいな。私、紅茶、飲んだよな? まずここで疑心が生まれたんだ。
警察が教えてくれたのはそこまでだったんだけど、これだけの事件だ。当然すぐにニュースになるよな。で、飛び交う情報の中にこんなのがあった。
犠牲者になった対象はいずれもスタイルのよい女性。わかりやすく言うと、巨乳の女だ。これを知った時、疑心が確信に変わったね。
あの野郎、私をスルーしやがった。
……ちょっと叫ばせてくれ。
「足りない部分はろうを足せば済むだろーが!!」
はぁ、はぁ……すずめの涙程だが落ち着いた。
彼は今も逃げ続けているのだろう。今、この辺りの女性は戦々恐々だろうな。――しかし、そのような異常事態の中……
私は安心に包まれているけどな!!
そんな私から一言だけ彼に言いたいことがある。恨み節? いやいや違う。エールだよ。
頑張れ、もっと頑張れ!!